
2026年6月26日、ダイキン工業が123期株主総会を大阪市内のホテルで開いた。
ダイキン淀川製作所のPFAS汚染を巡っては、昨年12月に地域住民らが大阪府に公害調停を申し立て、1131人が申請人となった公害調停が進んでいる。
だがこの日の株主総会でダイキンは、株主からの公害調停に関する質問に答えなかった。
Tansaの取材に対してダイキンが、淀川製作所が汚染源であることを認めたのは2022年6月。年を追うごとにダイキンは追い込まれ、2026年の株主総会では、PFAS汚染に関する質問が集中した。
それでもダイキンは説明責任を果たさない。どのような言い訳を弄しているのか。
Tansaが入手した株主総会の音声をもとに報じる。
昨年と同じ説明を繰り返し
総会開催にあたり、ダイキンは株主から事前に質問を募っていた。総会ではまず、関心の高い4項目について回答がなされた。その一つが、PFAS汚染だ。
議長を務める代表取締役社長・竹中直文氏が説明に立つ。
「淀川製作所周辺の地下水からPFOAが確認されていることにつきましては、当社が原因の一つであると認識しており、大阪府、摂津市と協議しながら対応に取り組んでいる状況であります」
国際社会では、化学物質汚染への浄化や補償に対し、「汚染者負担の原則」(Polluter Pays Principle:PPP)が適用される。グローバル企業を名乗るダイキンは、「汚染者」としてどう対応するのか。竹中氏はこう続けた。
「大阪府や摂津市と相談しながら、PFOAを浄化する排水処理設備を新設、高度化して、地下水の揚水と浄化を行い、汲み上げ量の増加も図ってまいりました」
「2022年からは、更なる対策として、専門家の意見も踏まえながら、淀川製作所敷地外への地下水の流出を防ぐ対策として遮水壁の設置を決定し、2023年よりその建設工事を進めております」
竹中氏の回答は、昨年2025年6月27日実施の株主総会時と同じ内容を繰り返すものだ。だがどれも、当時から効果が分かっていない。
例えば、遮水壁の設置。淀川製作所の地下にはPFOA汚染水が溜まっており、地下を通じて周辺地域一帯を汚染している。そこで、これ以上PFOA汚染水が敷地外に移動しないよう、2023年に敷地外周の地中に鉄板の遮水壁を打ち込み始めた。
ところが、遮水壁が設置された地点から数メートルにある敷地外の井戸では、PFOA濃度が逆に上昇している。理由は不明だが、遮水壁設置前の2022年8月時点の濃度は21,000ng/Lだったが、設置後の2024年8月は30,000ng/Lに上昇した。設置前の約1.4倍の数値で、国が示す指針値の600倍にあたる。
竹中氏は、地域住民への説明責任については次のように述べた。
「地域住民の方々との対話の観点からは、地域の方々への説明会の開催や近隣住民の方との対話の場を設けてまいりました。昨年からは地域住民の方々へ向けた専用の窓口も設置しております」
しかし、実態は異なる。説明会に参加できるのは、淀川製作所の周辺地域の自治会長など、一部の住民のみだ。
昨年の株主総会でも、実情を知る株主から「地域住民は、『これは住民説明会ではない』とはっきりと断言しております」と指摘を受けていた。だが、ダイキンはこの1年で改善しなかった。
公害調停について説明しない理由
2025年12月には、ダイキンによるPFAS汚染に対し、地域住民らが大阪府に公害調停を申し立てた。1131人が申請人となった公害調停が進んでいる。
今後の経営を左右する可能性のある、株主にも関連性の高い事項だ。しかし竹中氏はこう述べた。
「公害調停に関しましては、大阪府公害審査会から、法令上調停手続きは非公開であるとして、一切の情報を開示しないよう要請されております。そのため、法令遵守の観点から、手続きの内容につきましてはお伝えできないことをご理解いただきたいと存じます」
公害調停は当事者間のみの非公開で行われるが、申請の人数や要求内容、おおまかなスケジュールなどを明らかにしても何ら問題はない。実際、申請人はその内容を明らかにし、記者会見を開催している。
ところがダイキンは、「大阪府公害審査会からの要請」を理由に情報開示を避けた。
株主「まさかそのようなことはないと思うが」
事前質問への回答後は、会場からの質問を募った。全て、PFAS汚染に関する内容だった。
ある株主は、昨年からダイキンが設置している個別の相談窓口についてこう述べた。
「相談窓口の運用方法に関して、差別的な運用がされているのではないかという懸念の声が上がっております。貴社の担当者が摂津市の担当者に対して、『相談窓口の問い合わせに対しては、公害調停の申請人と非申請人で別の対応を取る方針である』という説明がなされたと伺っております。まさかそのようなことはないと思いますが、ぜひ本件に対するご回答をいただきたいです」
化学事業担当役員の平賀義之氏は、株主の「まさかそのようなことはないと思うが」と前置きした事実確認の質問に対し、こう返した。
「説明会に関しましてご意見をいただきましたけれども、貴重なご意見として受け止めさせていただきたいと思います」
公害調停の申請人と非申請人で差別的な運用をしていることを、明確に否定しなかった。
世界各地で訴えられるPFAS製造企業
ダイキンは2018年、米アラバマ州でのPFAS汚染をめぐる裁判で、住民ら原告に対して400万ドル(約4億4000万円)を支払うことで和解した。現在はフランスで訴訟を抱えている。
発端は2022年、水資源豊富な仏リヨンで、大規模なPFAS汚染が発覚したことだ。原因は、ダイキン(Daikin Chemical France)と、同じく化学メーカー大手のアルケマだった。工場周辺の河川や地下水からは高濃度のPFASが検出されており、がんや甲状腺機能異常、脂質異常など、PFASが引き起こす多数の健康影響が地域住民から生じている。2026年1月、約200人の地域住民らが3600万ユーロ(約66億円)の損害賠償を求めてダイキンとアルケマを提訴した。
PFAS汚染を巡っては、製造・使用企業が世界各地で訴えられている。この日の株主総会の2日前、6月24日には、米ウェストバージニア州でPFAS汚染を引き起こしたケマーズ(旧デュポン)が、政府に対して4億5千万ドル(約727億円)を支払うことで和解した。
株主は、ダイキンの海外での訴訟について問うた。
「オーストラリアでは政府が3Mを、アメリカやフランスでは現地住民が御社を提訴しているとニュース等で拝見しております。昨日、アメリカ政府が旧デュポン社、現在のケマーズ社とPFAS汚染で和解に至ったと報じられております。一方で、将来的に数千億円単位の和解金の支払いが生じるのではないかとされております」
平賀氏は、一般論を述べつつ、自社への訴訟に関しては答えなかった。
「PFASに関する動向は、国内外ともに幅広くモニタリングし確認しており、ご指摘の訴訟についても一部報道を通じて確認しております。今後ともこうした動向の確認を行いながら、適切な事業運営を行ってまいりたいと思います」
「なお、ケマーズの本訴訟においては当事者でないため、個別の訴訟に対するコメントは差し控えさせていただきます」
自社が原因の汚染に向き合わないダイキンの姿勢は、国連からも釘を刺されている。
2023年8月、国連の「ビジネスと人権」作業部会の議長であるダミロラ・オラウーイ(Damilola Olawuyi)氏と、アジア太平洋地域メンバーであるピチャモン・イェオパントン(Pichamon Yeophantong)氏が来日。ダイキンのPFAS汚染に関して地域住民や科学者らにヒアリングし、記者会見でこう述べた。
「私たちとしては、UNGP(ビジネスと人権に関する指導原則)と汚染者負担の原則に従い、この問題に取り組む責任が事業者にあることを強調したいと思います」
両氏の調査結果と提言は、2024年6月の国連人権委員会で報告された。
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