
台湾ヤクルトの中壢工場=台湾・桃園で2026年6月3日、渡辺周撮影
世界40の国と地域で販売されるヤクルト。2025年には「世界で最も売れている乳酸菌飲料ブランド」として、ギネスに認定された。
ヤクルトが初めて海外進出したのは台湾で、1964年のことだ。以来、台湾でのヤクルトの人気は根強い。
だが台湾ヤクルトでは、工場でのゴキブリ発生や工場長の業務中の飲酒、社内でのハラスメントが横行していた。日本から出向していた高橋圭介(仮名)はたまりかね、2024年に東京本社に内部通報した。
ところが内部通報はすぐに台湾ヤクルト側に漏れ、東京本社から調査に来た幹部は「通報している暇があったら、仕事をしなさい」。高橋は追い込まれ、退社を余儀なくされた。
Tansaの取材に対し、日本のヤクルトと台湾ヤクルトは、内部通報への対応や工場の衛生状態は「問題ない」という見解を示す。
だが経緯を詳細に辿ると、ヤクルトの見解とは程遠い事実が次々と出てくる。
「俺の言うことを聞いてりゃいいんだよ」
高橋が台湾ヤクルトの中壢工場に赴任したのは、2022年7月だ。
国内工場では、製造環境の衛生管理や乳酸菌の品質確保を担当してきた。中壢工場でも、それまで培ってきた技術を活かして、品質管理などを総合的にアドバイスする役目を担うことになった。
だが赴任早々、中壢工場でのガバナンスが崩壊していることを知る。
工場長の永岡宏教の部下へのパワハラが常態化しているのだ。高橋もすぐにターゲットとなり、こう言われた。
「お前はいらない。日本に帰れ」
「お前は薄っぺらい人生を送ってきたんだな」
「俺を楽しませる事、遊び方が評価基準」
「俺のようになれ」
「はったりをかませ」
「俺が長だからな。組織図をみろ。お前は俺の下。俺の言うことを聞いてりゃいいんだよ」
セクハラもあった。永岡は女性社員のAに関して「若くて綺麗な社員が欲しい」と言っており、Aにつらく当たった。
永岡が会議中だったためにAが挨拶をせずに退勤したことがあった。後日、Aを工場長室に呼び出した。Aは謝罪したが、「すみませんでしたって言えば済むと思うなよ」と罵倒し、こう言った。
「パワハラでもなんでも構わない」
「日本だとパワハラなんだろうけど労務管理は大変なんだよ」
永岡は2007年から中壢工場の工場長を務めている。中壢工場の人たちは、15年間もこの工場長のもとで働いているのかと思うと、高橋は暗澹たる気持ちになった。
ワインの空き瓶が工場長室から
高橋が中壢工場に赴任してから3カ月、2022年10月24日のことだ。清掃担当者が、工場長室からワインの空き瓶を回収して出てきた。
永岡は、業務中の飲酒が常態化していた。酔っては部下たちに暴言を吐いていたのだ。
高橋はワインの空き瓶を写真に撮って、台湾ヤクルト総経理(CEOに相当)の品田泰彦に報告した。品田は日本からの出向者のトップであり、永岡のことを東京本社に報告して事態に対処するべき立場だ。しかし、事態を放置した。
翌2023年1月9日、「事件」が起きる。
中壢工場で生産し、小学校に納入していた牛乳2本にゴキブリが混入していたのだ。それぞれ、別の小学校に納めていた。
ところが、台湾ヤクルトは本格的な対策を取らない。現地の業者が設置した補虫シートには、通常使用される誘引剤が使われていなかった。補虫シートの設置もゴキブリが発生する場所を網羅していない。工場では依然として、ゴキブリが確認された。
高橋は総経理の品田に、ゴキブリの発生を防ぐための抜本的な対策を取るよう進言した。
品田は対処しなかった。
東京本社国際部に報告すると
小学校に納入される製品へのゴキブリ混入が起きても、工場長の永岡は相変わらずだった。混入から2カ月余り、2023年3月16日には工場長室から、今度はウイスキーの空き瓶が見つかった。
高橋はこの空き瓶の写真も、総経理の品田に送った。だが品田は動かない。
4月20日、酔った永岡は新入社員に中指を立てた。新入社員はその後、退社した。
翌月、永岡は体調を崩して2週間ほど入院した。5月25日に退院したが、翌日から出勤してきた。
永岡は工場の運営を混乱させてきた。体調のことも考えれば、退院の翌日から出勤というのも常識的ではない――。
高橋は永岡の出勤を確認すると、すぐに東京本社の国際部に報告した。
その日の夕方、品田から高橋に連絡があった。台北にある台湾ヤクルト本社まで来いという。
台北の本社に行くと、品田は高橋に言った。
「国際部の部長からお叱りを受けた。(永岡を出社させた)私の判断が間違っていた」
品田は自身の非を認めた。だが一方で「もっと何か話せよ」と高橋に怒り、そうかと思ったら冗談めかして言う。
「(高橋を)ミャンマー工場に異動させるか?」
高橋には、人事権をちらつかせた圧力に感じられた。
「年に1回はゴキブリが混入する傾向」
永岡は結局、中壢工場を離任することになった。
最後の出勤日の2023年6月12日、永岡は高橋ら中壢工場の社員に工場運営の引き継ぎについて話をした。役に立つ内容はなかったが、高橋はゴキブリに関する発言に驚いた。
「ちょっとまあ言いにくい話ですけど、これは深い話なんですけど、年に1回はここ最近、ゴキブリが混入する傾向があるんですよ。落下なのか、どういう風に入ったのかは分からないです」
「どこかに巣を作ったりということもあるので、その辺はゴキブリが徐々に出てきたら頻繁に見るように」
ゴキブリが製品に混入するのは当たり前かのような発言であり、飲料品メーカーとして無責任極まりない。このような人物が16年間も工場長を務めていたこと自体、ヤクルトの信頼を失墜させる。
だが永岡が中壢工場を去っても、問題は解決しない。工場の危機に声を上げ続ける高橋は、さらに追い込まれることになる。
(敬称略)
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