内部告発者 ヤクルトが潰した社員

「雪印の集団食中毒と同様のことが、いつ起きてもおかしくない」 決意した内部通報、そこで知ったヤクルト本社の「機能不全」(3)

2026年07月06日 11時54分  渡辺周

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ヤクルトの内部通報窓口「ヤクルト・コンプライアンス・ホットライン」の社内向け案内

台湾ヤクルトの中壢ちゅうれき工場では、工場長の永岡宏教の勤務中の飲酒が常態化していた。永岡は酒に酔っては社員に暴言を吐いた。

日本から2022年に出向した高橋圭介(仮名)は、危機感が募った。自身も「お前は薄っぺらい人生を送ってきたんだな」と言われ追い込まれたし、工場のガバナンス崩壊が衛生管理に響いていた。2023年1月には小学校に納入している牛乳に、ゴキブリが混入する事件が起きた。

永岡は体調を崩し、2023年6月に工場長を離任することになったが、工場運営の引き継ぎの際、高橋らに不穏な言葉を残した。

「ちょっとまあ言いにくい話ですけど、これは深い話なんですけど、年に1回はここ最近、ゴキブリが混入する傾向があるんですよ。落下なのか、どういう風に入ったのかは分からないです」

高橋は、ある決心を固める。

細菌の大量検出

高橋の仕事は、品質管理について総合的にアドバイスすることであり、製造環境の衛生管理も含まれる。

だが高橋の進言を、台湾ヤクルトはなかなか聞き入れない。工場長だった永岡が「俺の言うことを聞いてりゃいいんだよ」と聞く耳を持たなかったのにも困ったが、それだけではない。総経理(CEO)で日本からの出向者のトップである品田泰彦が事態を放置したのが致命的だった。ゴキブリ発生を防ぐ抜本的な対策も取らなかった。

ゴキブリのほかにもう一つ、高橋の頭を悩ませている衛生問題があった。

脱脂粉乳が入った袋を開封し、生産工程に投入する「開袋機」だ。永岡が工場長の時代に1600万元(約8000万円)をかけて導入したが、細菌が発生しやすい構造になっていた。高橋が開袋機の検査をしたところ、大量の細菌とカビ酵母が検出された。細菌は、ほぼ全てが耐熱性のある芽胞を形成していた。これでは開袋後の殺菌工程でも殺菌できない。

高橋は総経理の品田に開袋機の危険性を何度も訴えた。それでも品田は対応しない。

「雪印の集団食中毒と同様のことが、いつ起きてもおかしくない状態だ」

高橋は、2000年に発生した雪印乳業の食中毒事件を想起した。大阪工場の低脂肪乳などを飲んだ1万3420人が食中毒になった。原料の脱脂粉乳を製造した北海道の工場の元工場長らは、業務上過失致傷罪などで有罪判決を受けた。

内部通報者への3つの約束

台湾ヤクルトでは自分の進言を聞き入れてもらえない。それならば、頼りは日本のヤクルト本社しかない。

ヤクルトは公益通報者保護法に沿って、内部通報の窓口「ヤクルト・コンプライアンス・ホットライン」を設けている。ホットラインを案内する社内向けリーフレットでは、社長の成田裕が次のように呼びかけている。

「本制度の目的は、職場での法令違反行為・社内規程違反行為などの早期発見・是正であり、お客さま・社会からの信用を裏切る行為を、私たち自身で防止することにあります。従業員の皆さんが安心して働ける、健全な職場環境は、私たち自身で作り上げなくてはならないのです」

リーフレットではさらに、「安心して通報してください」と3つの約束を掲げている。

①通報者のお名前など「通報者を特定できる情報」を会社や所属部署に開示することはありません。また、会社は社内規程で「通報者探し」を禁じています。

 

②通報したことを理由に、解雇(派遣契約および出向受け入れ契約の解除を含む)、降格、減給、不利益な配置転換、就業環境の悪化その他通報者にとって不利益となる一切の措置・言動を行わせません。

 

③法令違反等行為を確認したら、すみやかに是正します。

高橋は2024年3月27日、台湾ヤクルト中壢工場での衛生問題やパワハラに関し、ヤクルト・コンプライアンス・ホットラインに通報した。

知れ渡っていた通報

通報した翌日の3月28日、ヤクルト本社のコンプライアンス推進チームから返信があり、更なる情報提供を求めてきた。品質問題や総経理の品田の対応について、さらに詳細な情報がほしいという。

4月10日にもコンプライアンス推進チームから連絡があり、本社の国際事業本部と総経理の品田とは情報共有することを高橋と確認した。

ここまでは順調に事が運んでいるかに思えた。

ところが4月26日、国際業務部長の嶌田実が中壢工場にやって来ることになり、高橋は驚愕の事実を知ることになる。

嶌田が中壢工場に来るのは、高橋が内部通報したためだと、工場の社員たちが知っていたのだ。高橋が通報者であることも内容も知られていた。社員たちは、工場の運営改善に期待する一方、台湾ヤクルトの幹部たちが戦々恐々としていると言っていた。

高橋が内部通報したことは、国際事業本部など日本の本社の一部と総経理の品田しか知り得ない情報のはずだ。なぜ、台湾ヤクルト内で知れ渡っているのか。内部通報にあたってヤクルト本社は「通報者のお名前など『通報者を特定できる情報』を会社や所属部署に開示することはありません」と約束したにもかかわらず、通報から1カ月もしない内に漏洩している。

中壢工場で嶌田と面談して、高橋はさらに幻滅した。嶌田は高橋の話をほとんど聞かず、言った。

「ホットラインに連絡している暇があったら仕事をしなさい」

日本のヤクルト本社もまた、機能不全に陥っていることを高橋はこの時から思い知ることになる。

台湾ヤクルトは高橋に対し、逆襲に出る。

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