「憲法32条を踏みにじる行為」 東京高裁・古田孝夫裁判長 原告・被告の主張を一切聞かずに裁判終結 過去にも「報道の自由」侵害した判決
2026年07月08日 19時23分 中川七海

東京高等裁判所=東京都千代田区で2026年7月7日、友永翔大撮影
時間がかかるので、原告・被告双方の主張ともに一切聞かずに結審する−−。
東京高等裁判所の古田孝夫裁判長は、憲法が保障する「裁判を受ける権利」を根本から否定した。
「報道の自由裁判」控訴審でのことだ。2026年5月28日の第1回口頭弁論で結審し、7月9日に判決が出る。
この裁判は、元共同通信記者の石川陽一氏が同社を提訴した。2月の東京地裁判決では、「報道の自由」どころか、報道機関のジャーナリズム活動の根本すら理解していない判決が出ていた。
主張を聞かずに結審するということは、判決で石川氏の控訴を棄却するということだ。裁判所が審理すらしないまま、報道の自由を否定しようとしている。
古田裁判長は過去にも、報道の自由を侵害する重大な判決を出していた。
1分半の口頭弁論
2026年5月28日午前11時、東京高裁で「報道の自由裁判」の第1回口頭弁論が開かれた。裁判長は古田氏、裁判官は田中一隆氏と鈴木和典氏だ。
原告・石川氏は控訴理由書と新たな証拠を裁判所に提出した。証拠は、新聞社と通信社の出身記者、ジャーナリズム分野の研究者ら4人による意見書に加え、いじめ自死事件に関する新たな記事を提出。いずれも地裁判決を審理し直す上で重要だ。
古田裁判長は提出書類を確認した上で、被告・共同通信に対し、反論の意思を尋ねた。
共同通信は反論の意思があると答えた。
ところが古田裁判長は、共同通信側に対し、反論を用意する期間が必要であることを確認し終えると、こう述べた。
「申し訳ないが、控訴理由書と甲号証(証拠)の提出が時機に遅れたものとして、却下させていただきます」
原告側は控訴理由書を期限を過ぎて提出していた。そのことを理由に、原告と被告双方に裁判で主張をさせず、原告の証拠も採用しないという判断だ。
だが、控訴理由書の提出期限はあくまでも目安だ。最高裁判所に提出する上告理由書の提出期限は厳密だが、高裁への控訴理由書は期限を過ぎて提出しても審理される。
しかも古田裁判長は、原告の控訴理由書と証拠を最初から却下したわけではない。共同通信が反論の意思を示したことで、却下を伝えた。反論するならば時間がかかるから、控訴理由書と証拠を却下するという理屈だ。「裁判を早く終わらせる」という方針ありきで、審理を尽くすつもりは元々ないのだ。
古田裁判長は、原告と被告に「よろしいですか」と念を押す。
「いや、異議があります」
即答したのは、原告代理人の喜田村洋一弁護士だ。
喜田村弁護士は、経験50年のベテラン弁護士で、特に報道の自由を守るための裁判を数多く闘ってきた。法廷で傍聴者がメモを取ることが許されていなかった1989年当時、その権利を認めさせた「法廷メモ訴訟」の原告代理人の一人でもある。最高裁で、地裁、高裁の判決をひっくり返した。
喜田村弁護士の経験上、控訴理由書の提出遅れを理由に裁判を閉じられたことはない。何より、人々の「知る権利」に関わる重要な裁判を、「時間がかかる」といった理由で終結させるのは権限の濫用そのものだ。
ところが古田裁判長は聞く耳を持たない。異議を却下し、こう告げた。
「これで弁論を終結します」
判決日を伝え、わずか1分半で口頭弁論を終えた。
一審判決「長崎新聞は公人ではない」
深刻なのは、東京高裁が追認しようとしている一審判決が、愚にもつかないものだったということだ。
報道の自由裁判の発端は、2022年11月。当時共同通信に所属していた石川氏が、長崎県で起きた高校生のいじめ自死事件を追った書籍『いじめの聖域』を、「文藝春秋」から出版した。
書籍では、学校による自死の隠蔽を容認した地元行政や、そのような行政を庇った地元紙の長崎新聞を批判。子どものいじめ自死における、構造的な問題を明らかにした。
これに対して共同通信は、長崎新聞への批判を理由に石川氏を追及。社外執筆許可を取り消し、書籍の重版を禁じた。最終的に、石川氏を記者職から外した。共同通信にとって長崎新聞は加盟社であり、記事配信の対価を支払ってくれる「お客様」だ。共同通信は、所属記者の「報道の自由」よりも、社の利益を優先した。
共同通信による措置の不当性を訴え、2023年7月、石川氏は東京地裁に同社を提訴した。
ところが東京地裁は2026年2月20日、ジャーナリズムを微塵も理解していない判決を出した。
大澤多香子裁判長は「論評でも確認取材が必要」「長崎新聞は公人ではない」といった的外れな根拠を並べ、石川氏の訴えを全て棄却した。石川氏が出版前に、批判相手である長崎新聞の見解を直接尋ねなかったことを理由に、共同通信の措置は不当ではないと判断したのだ。
だが石川氏は、オープンデータや記者会見などの開かれた場所での事実を基に、論評した。共同通信を含むメディア各社も、事実を基にした論評を毎日のように発信している。例えば、政治家の言動や、不祥事を起こした著名人への批判を綴る新聞の社説欄がそれにあたる。大澤裁判長の判断に沿えば、ジャーナリズムの本分である公権力への批判ができなくなる。
この点について大澤裁判長は、長崎新聞は政治家や著名人と異なり、「公人ではない」ため、論評であっても取材が必要だと主張した。
しかし報道機関は、市民が入れない記者会見への参加や、国会や省庁、警察署をはじめとする公的機関への出入りが認められている。これは、権力監視に資するという使命に対して与えられた特権だ。報道機関は公人中の公人であり、報道機関自身もまた監視や批判の対象である。
大澤判決は、社会の権力構造も、その中におけるジャーナリズムの根本も理解できていない。
このような判例を残せば、報道の自由を侵害する「お墨付き」を、ビジネス体と化したメディア企業はもちろん、あらゆる公権力に与えることになる。
原告代理人「裁判長には本件を判断する力量がない」
6月15日、原告側は東京高裁に対し、口頭弁論再開申立書と意見書を提出した。
古田裁判長らの措置が、憲法違反である点を突いた。憲法32条は、「何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない」ことを保障している。
不服申立ての根幹である「控訴理由書」そのものまでも「時機に後れた攻撃防御方法」として門前払いし、相手方(被控訴人)すら明確に期日の続行(反論)を望んでいたにもかかわらず審理を打ち切った貴裁判所の進行は、民事訴訟法第157条の解釈を完全に誤った「明白な違法手続」であり、裁判を受ける権利(憲法第32条)を根底から踏みにじるものです。
私は、貴裁判所が、自らの事件処理の迅速性のために、適正な裁判を受けるという当事者の当然の権利を、司法権を濫用して妨害したことについて、厳重に抗議します。以下に、貴裁判所の態度がいかに不当かつ違法であるかを明示し、口頭弁論の速やかな再開を強く求めます。
本裁判が問う、憲法21条「表現の自由」の軽視も訴えた。
本件は、単なる一私企業の就業規則の解釈問題ではなく、日本の表現の自由(憲法第21条)の命運を左右する「重大な言論事件」であるという客観的・社会的な評価が、すでに定着しています。貴裁判所がこれほど重大な憲法的意義と社会的要請を一切顧みず、自らの「早く終わらせたい」というあまりに不当な進行上の都合のみを最優先し、審理を闇に葬ったことは、事案の真相解明を拒絶した著しい審理不尽であり、正義の平等を守るべき司法の役割に対する全面的な裏切りです。
憲法違反に続き、裁判所の法律違反も指摘する。
裁判所が、当事者の提出した攻撃防御方法が時機に遅れたものであり、訴訟の完結を遅延させることとなると認める(民事訴訟法157条1項)かどうかを判断するにあたっては、裁判長(官)に与えられた釈明権(必要な事実上及び法律上の事項について当事者に対して問いを発すること。民事訴訟法149条1項)を適正に行使しなければならない。必要な問いを発することは裁判所の権限であるにとどまらず、裁判所の義務である。
しかるに、本件において、裁判長は、控訴人の提出した書面等が時機に遅れたものであるかを判断するにあたり、以下のような問いを発しなかった。
・被控訴人から、控訴理由書等に対する答弁書を出す予定であると聞いた後、被控訴人に対し、当該答弁書を提出する日取りとしてどの程度の時日を要すると見込まれるかについての問いを発しなかった。
・被控訴人に対し、控訴人の控訴理由書等が時機に遅れたものとして却下を求める申立てをするかどうかの問いを発しなかった。
・控訴人に対し、控訴理由書等の提出が遅れた理由についての問いを発しなかった(この問いがなされた場合には、控訴人としては、第1に、控訴人代理人の体調がすぐれなかったこと、第2に、控訴人の事務所が移転することとなったため、その準備に忙殺されていたこと、を回答したものである)。
原告代理人・喜田村弁護士は言う。
「長く弁護士をやってきましたが、こんなことは初めてです」
「裁判長には本件を判断する力量がないから、理由をつけて早く終わらせようとしているように感じます。憲法違反かつ、司法権の濫用です」
「ジャーナリストのパスポート返納命令事件」では
古田裁判長はどのような裁判官なのか。
東京大学法学部を卒業後、1993年に東京地裁判事補としてキャリアをスタートさせた。岡山や徳島、大阪など全国各地を転々とし、2026年3月に東京高裁に配属された。
9年前、東京地裁配属時には、ある重要な事案を裁判長として担当していた。
「ジャーナリストのパスポート返納命令事件」だ。
旧ユーゴスラビアやアフガニスタン、パレスチナやイラクなど、紛争地域の実情を報じてきたフリーカメラマンの杉本祐一氏が2015年、シリアへの渡航予定を理由に、当時の岸田文雄外務大臣からパスポートの返納命令を受けた。
国家権力による、「報道の自由」の侵害だ。杉本氏は返納命令の取り消しを求め、同年に東京地裁に提訴した。
しかし2017年4月、原告の訴えを棄却したのが古田裁判長だった。「渡航すれば生命に危害が及ぶ恐れが高いという外務省の判断は合理的」と判断した。
国際社会は、日本政府によるジャーナリストのパスポート剥奪を批判した。
BBCやガーディアンをはじめとするメディアが報じ、国境なき記者団は「すべての日本人ジャーナリストが、紛争地域を含む海外へ自由に渡航できるよう許可するよう求める」と表明した。
原告による意見書提出に対し、東京高裁からの反応はない。
7月9日午後1時55分、東京高裁817号法廷で判決が出される。
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