内部告発者 ヤクルトが潰した社員

Tansaの台湾ヤクルト報道を現地メディアが拡散 300匹超のゴキブリ発生を見逃した当局が反論後、次々に記事削除(6)

2026年08月10日 18時39分  渡辺周

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消された台湾Yahoo!ニュースの記事

Tansaがシリーズ「内部告発者 ヤクルトが潰した社員」を始めたのは、2026年6月22日。これまで5回にわたり、台湾ヤクルト中壢ちゅうれき工場での衛生問題やパワハラについて報じてきた。

8月5日、Tansaの記事を台湾のYahoo!ニュースが取り上げた。他メディアもTansaの記事をもとに報道し、記事はあっという間に拡散した。

ところが、翌日にはYahoo!ニュースの記事が削除された。他メディアの記事も次々に削除された。

シリーズ「内部告発者 ヤクルトが潰した社員」を開始後、Tansaには台湾ヤクルトからも、東京のヤクルト本社からも抗議は一切ない。

一体、何があったのか。

SNSでは告発者に共感の声

8月5日にリリースされたYahoo!ニュースの記事を書いた記者は、高皓筠。Tansaの記事を紹介する形で報じた。

「台湾のヤクルトが告発される! 日本人内部告発者の身元が『わずか1カ月』で公開 中壢工場の女性課長が共謀して報復」

 

日本のメディア「Tansa」の報道によると、内部告発者である高橋氏(仮名)は、台湾ヤクルト中壢工場で発生した4つの重大な問題――学校向け乳製品へのゴキブリ混入、工場管理職による従業員への長期にわたるいじめ、匿名での内部告発者の身元の暴露、そして内部告発者が最終的に調査対象となったこと――を暴露した。

他メディアも同様にTansaの記事を取り上げ、SNSを通じて瞬く間に広まった。書き込みも多く、内部告発をした高橋圭介(仮名)への共感の声が投稿された。

「彼が最も悔やんでいたのは、真面目に働き、自分を支えてくれた台湾の現地社員たちのために、安心して働ける環境をつくれなかったこと、そして彼らの熱意や努力に報いることができなかったことです。こんな状況でも他人のことを思いやれる人は、日本本社にとって本来なら非常に貴重な人材だったはずです。本当に残念です」

父親がヤクルトの管理職だったという人からの投稿もあった。

「私がまだ小さかった頃、父がヤクルトで働いていて、管理職まで務めました。当時、台湾では多くのヤクルトレディが自転車に乗って路上で販売していました。ところが、そのうちの一人が勤務中に交通事故に遭って亡くなりました。父は、その人のために会社に対し、保険や補償をきちんとするよう積極的に掛け合ったのですが、会社は責任を取ろうとせず、冷たく放置しました。父はそれに腹を立てて、『こんな会社では働きたくない』と退職しました。それから30年以上経ったのに、今でも相変わらずひどい。本当に悲しいことです!」

しかし、Yahoo!ニュースをはじめTansaの報道を引用した記事は、翌日の8月6日には次々と削除された。

台湾のSNSで拡散したTansaの記事

桃園市衛生局「ゴキブリの痕跡は確認されず」

Tansaは、台湾ヤクルトからも日本のヤクルト本社からも抗議を受けていない。両者には記事を出す前に質問状を送り、事実と見解を確認している。

ではなぜ、台湾メディアは記事を削除したのか。

手がかりになるのは、台湾の老舗メディアの報道だ。

8月6日の台視新聞網では、Tansaの記事を引用しつつ、中壢工場がある桃園市の衛生局による検査について言及した。

「桃園市衛生局も調査に乗り出した。衛生局が職員を派遣して立ち入り検査を行ったところ、現場ではゴキブリは確認されなかったものの、検査の過程で確かに一部の衛生上の不備が発見されたため、業者に対し期限を定めて改善するよう求めた」

聯合新聞網も同日、Tansaの報道を取り上げて、桃園市衛生局食品管理・検査課の課長代理、黄叔慧のコメントを掲載した。

「抜き打ち検査を開始し、職員を工場に派遣して生産環境、作業工程、衛生管理状況を全面的に点検し、食品の安全に対して厳格な姿勢で臨んでいる」

「検査期間中、内部告発で指摘されたゴキブリなどの病媒生物の痕跡は確認されず、事業者からも完全かつ定期的に実施された病媒生物防除の記録が提出された。ただし、検査の過程で一部の衛生上の不備が発見されたため、食品安全法に基づき期限を定めて是正を求め、その後、担当者を派遣して再検査を行ったところ、関連する不備はすべて是正済みであり、現在の検査結果は法規制の基準を満たしている」

桃園市衛生局が「ゴキブリなどの病媒生物の痕跡は確認されなかった」と発表し、老舗メディアが報じたことが、Yahoo!ニュースなどの新興メディアの記事削除に影響したのではないか。

民間会社の調査では

アース環境サービスの報告書に記されたゴキブリの捕獲状況

台湾の老舗メディアは、桃園市衛生局の「ゴキブリなどの病媒生物の痕跡は確認されなかった」という見解を報じている。しかし、桃園市衛生局の検査は不十分だったと疑わざるを得ない。過去の検査で、ゴキブリの大量発生を見落としているからだ。

衛生問題の発端は、2023年1月に起きた「事件」だ。中壢工場で生産し、小学校に納入していた牛乳2本にゴキブリが混入したのだ。それぞれ、別の小学校に納めていた。

品質管理を担う高橋は、日本からの出向者のトップで、総経理の品田泰彦(CEO)に本格的な対策を取るよう進言した。だが品田は対処しなかった。

職務中に酒を飲んでパワハラを繰り返していた工場長の永岡宏教は、離任の際に言った。

「ちょっとまあ言いにくい話ですけど、これは深い話なんですけど、年に1回はここ最近、ゴキブリが混入する傾向があるんですよ。落下なのか、どういう風に入ったのかは分からないです」

「どこかに巣を作ったりということもあるので、その辺はゴキブリが徐々に出てきたら頻繁に見るように」

能天気な幹部たちに、高橋の危機意識は募る。高橋は、防虫対策を担う「アース環境サービス」に工場内に生息するチャバネゴキブリの調査を依頼した。チャバネゴキブリは、小学校に納入した牛乳に混入したゴキブリで繁殖力が強い。クロゴキブリと違い壁を登れるので、飲料品工場ではあちこちで生息するリスクが高まる。

牛乳とヤクルトを容器に充填・包装するエリアと、原料を貯蔵・調合するエリアを中心に中壢工場内の計145カ所を調査した。

結果は衝撃的だった。323匹のチャバネゴキブリが捕獲されたのだ。牛乳の充填・包装エリアで捕獲されたチャバネゴキブリが320匹で大半を占めた。牛乳は栄養価が高いためだ。だがヤクルトの充填・包装するエリアでも、このままでは繁殖すると警告している。

「牛乳を充填・包装するエリアから拡散したチャバネゴキブリが営巣する状態に移行している状況と考えられる」

「このまま放置していると確実に牛乳の充填・包装するエリアと同様の状況に今後フェーズが移行する危険性を含んでおり、集中駆除を実施することが必要なエリアと考えられる」

アース環境サービスの調査結果を受けて、高橋は総経理の品田と協議した。この時の録音が残っている。

品田:「それは緊急駆除で改善できるの?」

 

高橋:「ゴキブリを駆除するのはおそらく5年以上かかります」

 

品田:「そんなにかかるの?」

 

高橋:「かかりますよ、5年、10年かかりますよ」

 

品田:「じゃあ、今日やって明日いなくなるってものじゃないんだね」

 

高橋:「全然違います。今まで放置してきて緊急事態というレベル」

桃園市衛生局の過去の杜撰な検査

工場でゴキブリが発生しているにも関わらず、(上から)2023年と2024年の2回の検査で「合格」とした桃園市衛生局の報告

総経理の品田はTansaの取材に対しては、次のように答えている。

「工場では継続的に清掃を徹底し、専門業者と連携した害虫防除を実施しています」

「また、衛生局による検査も受けており、今年の検査においても、害虫防除に関する問題は指摘されていません」

だが問題は、ゴキブリが発生していた時期に桃園市衛生局が中壢工場に検査に入っているにもかかわらず、ゴキブリを発見できていないということだ。2023年9月27日と、2024年9月19日に検査に入っているが、いずれも「合格」を出している。

桃園市衛生局の検査結果がいかに杜撰か、時系列にするとよく分かる。

2023年1月 小学校に納めていた牛乳にゴキブリが混入

 

2023年9月 桃園市衛生局が検査、「合格」

 

2024年6月 高橋が依頼した「アース環境サービス」の調査で、323匹のゴキブリ捕獲

 

2024年9月 桃園市衛生局が検査、「合格」

桃園市衛生局は、今回の問題に関し、2026年6月に検査をして「ゴキブリなどの病媒生物の痕跡は確認されなかった」と発表している。だが過去の杜撰な検査を踏まえれば、信頼できない。

桃園市衛生局への信頼が低い理由は、もう一つある。

Tansaは取材で台湾を訪れた際、桃園市衛生局に対し2026年6月1日、取材依頼をしている。中壢工場の衛生問題について概略を伝え、行政当局としてどのような対応を取るのかと問うた。

桃園市衛生局の担当者として、Tansaへの取材対応窓口となったのは、局長室の主任秘書を務める陳玉澤だ。陳はLINEで6月4日、私にこう連絡してきた。

「情報を提供していただき、心より感謝申し上げます。衛生局はこの問題を極めて重要視しており、優先案件として指定した上で、必要な調査を開始いたしました。調査および検査の手続きには時間を要するため、あなたが台湾を出発されるまでに結論を出せない可能性があります。最終結果が出次第、引き続きご連絡を差し上げ、オンラインインタビューの日程を調整させていただくことをご提案いたします。何卒ご理解のほど、よろしくお願い申し上げます」

だがその後、連絡はない。8月6日、私は陳に検査結果はどうなったのかとLINEで連絡した。

「既読」にはなったが、今のところ返答はない。

(敬称略)

陳玉澤とのLINEのやり取り

台湾メディアの皆さんへ/Tansa編集長 渡辺周

Tansaの報道を台湾で取り上げてくれたことに、感謝申し上げます。台湾は、ヤクルトが1964年に初めて外国で販売を開始した国です。多くの方が中壢工場での衛生問題に関心をもってもらうことが、問題の解決につながります。

しかし、Tansaの記事を引用して報道しておきながら、説明もないままに記事を削除するのは極めて無責任です。読者への背信行為であり、勇気を持って告発に踏み切った高橋さんに対する冒涜でもあります。

Tansaは高橋さんへの取材だけではなく、様々な関係者への取材を重ねて報じています。数々の証拠も保有しています。記事を削除することは、Tansaの信用を毀損する行為です。

行政当局が「問題はない」という見解を出したならば、それが真実かどうかを見極めるために取材を重ねるのがジャーナリズムの役割ではないのですか。

少なくとも、Tansaに問い合わせくらいしてくるべきです。それすらしないならば、記事を削除した台湾メディアは、台湾ヤクルトに弱みを握られているのではないかと疑われても仕方がありません。

Tansaは、消費者の健康と、勇気ある告発者を守るために報道しています。ジャーナリズムに国境はありません。社会的使命を果たすため、皆さんと連帯していけることを願っています。

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