記録のない国

高市早苗の秘書官も経験、官邸から内閣法制局へ遣わされた「責任者」/西澤能之・内閣官房参事官【国葬文書隠蔽裁判・証人尋問 直前特集①】

2026年08月17日 19時15分  渡辺周

XLineBlueskyFacebookEmailHatena

西澤能之氏=総務省の採用案内資料から

Tansaが国を提訴した「国葬文書隠蔽裁判」で、2026年8月21日と24日、いよいよ官僚4人への証人尋問が東京地裁の大法廷で行われる。

安倍晋三元首相の国葬を実施する方針を、当時の岸田文雄首相が記者会見で表明したのは2022年7月14日。国会を通さず、閣議決定により実施するという強行策だった。

だが岸田首相は「内閣法制局ともしっかり調整した上で判断している」と述べ、「法の番人」と呼ばれる内閣法制局と、内閣官房・内閣府による3者協議を拠り所とすることで、自身の判断の正当性をアピールした。3者協議は7月12日から14日まで。岸田首相は協議が終わるやいなや、記者会見で方針を表明した。協議結果を待ちわびていたことが窺われる。

その3者協議に参加していたのが、今回証人として法廷に立つ官僚4人だ。以下のスケジュールで証人尋問を行う。

【8月21日】

▽午前10時20分から(国20分、Tansa45分)

御厩敷おんまやしき

内閣官房内閣総務官室企画官(当時)、現・水産庁漁政部漁業保険管理官

 

▽午後1時30分から(国20分、Tansa45分)

西澤能之

内閣官房内閣総務官室内閣参事官(当時)、現・総務省行政管理局企画調整課長

 

▽午後3時15分から(国20分、Tansa15分)

中嶋護

内閣府大臣官房総務課長(当時)、現・内閣府大臣官房審議官(沖縄政策及び沖縄科学技術大学院大学担当)

 

【8月24日】

▽午後1時30分から(国20分、Tansa40分)

乗越徹哉

内閣法制局参事官(当時)、現・厚生労働省政策企画調整官

協議の内容について、4人はこれまでTansaと裁判所に対し、「記録も記憶もない」と書面で主張してきた。

4人はそれぞれ、どのような官僚なのか。どのようなストーリーで「記録も記憶もない」という主張をしてきたのか。証人尋問を前に、一人ずつ紹介する。

初回は、内閣官房内閣総務官室 内閣参事官だった西澤能之氏。官邸から内閣法制局に遣わされた責任者だ。

選挙明けに国葬へ加速

まず、安倍晋三元首相が銃撃され死亡した2022年7月8日から、3者協議が始まる7月12日までを振り返る。刻一刻と政治状況が変化する中で、内閣官房の西澤氏らが大役を任せられたことが分かる。

7月8日(金)午後5時3分、安倍元首相の死亡が確認された。岸田首相は午後6時55分から官邸で記者団の取材に応じる。この時点で、国葬への言及はないが、安倍氏の「大きな功績」を考慮した対応を行うと語った。

「当然のことながら、こうした大きな功績を残した元総理なので、政府としても、そして党としても相当の敬意を表して、しっかりとした対応を考えていくべきだと考えている」

7月10日(日)は、参議院選挙の投開票日。自民党が改選議席の過半数を確保し大勝した。

7月11日(月)午前は、まだ目立った動きはない。松野博一官房長官は記者会見で「追悼の方式について、現時点で政府として決定していることはない」と述べるのに留まった。

だが夜になって、国葬への動きが表面化する。安倍派会長代理の下村博文氏がBS日テレに出演し、国葬の実施を求めたのだ。

「岸田首相はリベラル系。自民のコアの保守の人たちを安倍さんあるいは清和研(安倍派)がつかんでいた。それを疎んじることになったら、コアの保守の人たちが自民から逃げるかもしれない」

7月12日(火)は、国葬への流れが加速する。

松野官房長官は前日には「追悼の方式について、現時点で政府として決定していることはない」としか言わなかった。だがこの日午前の記者会見では、「多大な功績を残された元総理であり、政府としても敬意を表して対応を検討すべきであると考えています」という発言が加わった。

昼過ぎ、西澤氏らは国葬を閣議決定で実施するという案を完成させた。夕方に3者協議のため内閣法制局を訪れる。

高市総務大臣に「1066日お仕え」

西澤氏はどのような官僚なのか。

総務官僚で1996年に入省した。総務省が2020年に作成した採用案内では、自身の仕事への姿勢を語っている。

「『国家・国民のために仕事をしたい』『霞が関批判』(“縦割りの弊害” “省益優先で国民不在”)に直接アプローチしたい」そんな“想い”を胸に入省して24年、想像以上に広いフィールドと、楽しくやりがいのある仕事で、“想い”を形にしてきました」

「国家公務員は何のために存在しているのか? 国民が困っていることを解決し、国民の安全安心を守り、わが国の発展のための施策を立案し遂行する、すなわち『国民を幸せにする』ための存在だと思います」

入省1年目は、官房総務課に配属された。

「国会対応や文書・法令審査など仕事の基本を叩きこまれました。『調整とは足して2で割ることではない』『誰まで上げなければならない案件か、その判断を誤るな』等々…。当時の上司の教えは今も貴重な財産です」

行政管理局での係長時代は、行政改革大綱の策定に奔走した。会議ではメモを取るタイプのようだ。

「昼は与党の会議でメモ取り、夜は職場に戻り関係部局と協議という慌ただしい毎日でしたが、閣議決定の日の達成感は大きいものがありました」

2014年から2017年にかけては、高市早苗総務大臣の秘書官を務めた。高市氏のことを生活者の視点を持つと考えており、秘書官としての仕事にやりがいを感じたという。

「高市総務大臣の秘書官として、大臣と同じく歴代最長の1066日お仕えしました(大臣は記録更新中)。常に生活者視点で『直面する様々な課題を、広範な政策資源を持つ総務省の力で解決できないか』とお考えになる大臣と各部局をつなぐ立場として、緊張感と大きなやりがいの日々でした」

西澤氏が主張する3日間のストーリー

西澤氏が主張する3日間の3者協議は、どのようなものだったのか。今回の訴訟で西澤氏は報告書を提出している。要旨を記す。

【7月12日】

内閣法制局を訪れたのがいつかは記憶にないが、内閣法制局がTansaに開示した「応接録」から、2022年7月12日に訪れ7月14日に回答を得たという認識に至った。

 

政府としての安倍元総理の追悼方式について、政府内で検討が行われる中、内閣官房と内閣府で閣議決定による国葬が実施できる根拠を整理し、内閣法制局に法律問題についての意見を求めることにした。

 

具体的な経緯は記憶していないが、7月12日の昼過ぎに内閣官房が「国の儀式として行う総理大臣経験者の国葬儀を閣議決定で行うことについて」の案段階文書を作成した。案段階文書は私がアウトラインを提示し、内閣官房のもう一人の担当者である御厩敷おんまやしき寛企画官が肉付けした。作成した案段階文書は内閣府と共有した。

 

7月12日夕方、内閣官房から私と御厩敷企画官、内閣府から中嶋大臣官房総務課長と田原課長補佐の計4人で、内閣法制局を訪問した。

 

内閣法制局の乗越参事官ら(他に誰が何人いたかは記憶にない)に案段階文書を示して説明したところ、具体的な指摘はなかった。内閣法制局を訪問したのはこの日だけだ。

 

【7月13日と14日】

7月12日に内閣法制局を訪問した後、7月14日までの間に、内閣法制局から案段階文書について、修正に関する連絡があった。内閣官房と内閣府の見解の変更に至らない修正だ。

 

もっとも、この間の内閣法制局とのやり取りと修正作業は御厩敷企画官が担っていた。いつ、誰から連絡があったか私は承知していない。

 

修正した案段階文書は私が確認し、御厩敷企画官から上司である内閣総務官に送付。その上で、内閣官房が内閣法制局に対し、修正した案段階文書をメールで送付した。この時のメールが誰から誰宛てで、CCに誰が入っていたかは記憶していない。

 

7月14日、内閣法制局の乗越参事官から私に電話があった。修正した案段階文書について「内閣法制局長官まで了です」という趣旨だったと記憶している。具体的な言葉は記憶していない。内閣法制局長官まで了解した旨は、私の上司である内閣総務官に報告した。

 

私は保存する必要のない文書は、紙媒体・電子媒体を問わず定期的に廃棄している。電子メールも保存の必要のないものは、定期的に削除している。

 

案段階文書をいつ廃棄したかについては、具体的な日付は記憶していない。だが内閣法制局からの修正は、内閣官房と内閣府の見解の変更に至らないものだった。意思決定に影響を与える文書ではないから、捨てたのだと思う。

 

Tansaからの開示請求を受けて、私も机の周辺やパソコン、公用携帯に文書が残っていないか探索したが、開示請求の対象となる文書は確認できなかった。

解説:内閣法制局による「案段階文書の修正指示」って?

西澤氏は、内閣法制局による案段階文書の修正指示について、「内閣官房と内閣府の見解の変更に至らないもの」「意思決定に影響を与えないもの」と主張している。だから、指示に関連する文書やメールは保存せず、廃棄したという理屈だ。

修正指示はどのようなものだったのか。

それは修正というより、加筆というべきものだった。内閣法制局は次の一文を入れるよう指示した。

「国費をもって国の事務として行う葬儀を、将来にわたって一定の条件に該当する人について、必ず行うこととするものではないことから、閣議決定を根拠に国の儀式である国葬儀を実施することが可能であると考えられる」

つまり内閣法制局は、内閣官房と内閣府に対して、「今回は認めるとしても、一定条件に当てはまれば、これからも閣議決定を根拠に国葬を実施していいわけではない」と釘を刺したのだ。非常に重要な指示であり、政策の意思決定に影響を与えないような軽微なものではない。捨てていいわけがない。

<お知らせ>8月21日、24日は「国葬文書隠蔽裁判」証人尋問

安倍晋三元首相の国葬に関する文書開示を求め、Tansaが国を提訴した「国葬文書隠蔽裁判」で、8月21日と24日、国葬実施を協議した官僚4人への証人尋問があります。

〈国葬文書隠蔽裁判 証人尋問〉

 

法廷:東京地裁第103号(大法廷、約100席)

 

▽8月21日 開廷は午前10時15分

①午前10時20分~11時35分ごろ
御厩敷寛
内閣官房内閣総務官室企画官(当時)、現・水産庁漁政部漁業保険管理官
国が20分、Tansaが45分の予定

 

②午後1時30分~2時45分ごろ
西澤能之
内閣官房内閣総務官室内閣参事官(当時)、現・総務省行政管理局企画調整課長
国が20分、Tansaが45分の予定

 

③午後3時15分~4時ごろ
中嶋護
内閣府大臣官房総務課長(当時)、現・内閣府大臣官房審議官(沖縄政策及び沖縄科学技術大学院大学担当)
国が20分、Tansaが15分の予定

 

▽8月24日 開廷は午後1時25分

④午後1時30分~2時40分ごろ
乗越徹哉
内閣法制局参事官(当時)、現・内閣官房内閣参事官
国が20分、Tansaが40分の予定

ぜひ傍聴にお越しください。

24日の証人尋問終了後には、報告イベントを開く予定です。

〈裁判報告イベント「国葬文書隠蔽裁判 証人尋問 官僚たちは何を語ったか」〉

 

日時:8月24日(月)午後4時30分~6時
会場:TIME SHARING 銀座三丁目ビルディング5F
〒104-0061 東京都中央区銀座3丁目8-13 銀座三丁目ビルディング5階
東京メトロ丸の内線「銀座」駅A13番出口より徒歩3分
定員:90名
参加費:無料

Tansaと弁護団が、2日間にわたる証人尋問の内容や、尋問を終えての感想、今後の展望などをお話しし、みなさんからの質問にもお答えします。

報告イベントのみのご参加も可能ですので、ぜひお誘いあわせの上、足をお運びください。

また本イベントはYouTubeでのオンライン配信を予定しています。Tansaの公式YouTubeチャンネルより、ぜひご参加ください。リアルタイムでご参加できない方も、アーカイブからご覧いただけます。

配信:Tansa公式YouTubeチャンネル
その他:アーカイブ化あり、申込不要、参加無料

これまでの裁判の報告は「記録のない国」シリーズ一覧から記事をご覧ください。

これまでの訴訟の資料などは公共訴訟プラットフォーム「CALL4」のページで公開しています。

XLineBlueskyFacebookEmailHatena
記録のない国一覧へ