記録のない国

国葬強行の政権に「意見なしという意見を伝えた」 骨抜きになった内閣法制局の責任者/乗越徹哉・内閣法制局参事官【国葬文書隠蔽裁判・証人尋問 直前特集④】

2026年08月20日 17時01分  渡辺周

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乗越徹哉氏=国立社会保障・人口問題研究所のサイトから

「国葬文書隠蔽裁判」に至るきっかけは、2022年7月14日、当時の岸田文雄首相が記者会見で、国葬を閣議決定により実施する正当性について、こう述べたことだ。

「内閣法制局ともしっかり調整をした上で判断しているところです」

では岸田首相から正当性の根拠とされた内閣法制局の側に、その自覚はあるのか。

証人尋問直前特集の最終回は、乗越徹哉氏。7月12日から14日の内閣法制局と内閣官房・内閣府の3者協議に、内閣法制局第一部の参事官として参加した。

佐藤栄作国葬に異を唱えた過去

乗越氏は1997年に京都大学法学部を卒業し、旧厚生省に入省した。医政局の医事課や看護科など、厚労省で主に医療関係の政策を担当してきた。今は内閣官房の内閣参事官だ。

内閣法制局第一部には、2019年7月に着任し4年間務めた。第一部は、法令の解釈について各省庁から求められた場合に、意見を述べる役目だ。7月12日からの3日間の3者協議は、内閣官房と内閣府が「閣議決定を根拠に国葬を実施することは法的に問題がないか」を内閣法制局に意見を求める形で行われた。

だが内閣法制局には、背負っている重い過去があった。

1975年6月3日、佐藤栄作元首相が死亡した。その日に急遽開かれた政府と自民党の会議には、内閣法制局の吉国一郎長官も出席した。政府と自民党には、佐藤元首相の国葬実施を求める声もあったが、吉国長官は次のような見解を述べた。

「戦前のような国葬令がなく、法的根拠が明確ではない。実施するならば、司法・立法・行政の合意が必要だ」

内閣法制局は「法の番人」と呼ばれ、長官の見解は重い。佐藤元首相の国葬は見送られた。この時のことは当時、朝日新聞と日経新聞が報じており、内閣法制局はもちろん、与党自民党にも知られていることだ。石破茂氏は2022年9月9日付のオフィシャルブログで、「吉国長官の発言の方がより説得的」と書き、安倍元首相の国葬に疑義を呈している。

乗越参事官のもとに、内閣官房と内閣府が意見を求めてきたのは、閣議決定を根拠に安倍元首相の国葬を実施することについてだ。閣議決定は内閣の大臣たちが行うもので、行政だけの合意だ。当時の吉国長官の見解とは反する。乗越参事官は、内閣官房・内閣府との3日間の協議でどのような見解を示したのか。

乗越氏が主張する3日間のストーリー

乗越氏も、内閣官房の西澤能之氏と御厩敷寛氏、内閣府の中嶋護氏と同様に、3日間の3者協議について東京地裁に報告書を提出している。

安倍元総理の国葬儀に関し、内閣官房と内閣府から、いつ意見を求められたか正確な日付は覚えていないが、内閣法制局の応接録に相談年月日として「令和4年7月12日〜14日」と記載されているので、この期間内に相談を受け、意見を求められたことになる。

 

対面で相談を受けたのは、7月12日の1回だけと記憶している。時間は覚えていないが、午後だった。内閣官房内閣総務官室の西澤参事官と、内閣府大臣官房総務課の中嶋課長が内閣法制局に来訪したことは覚えているが、全部で何人いたとか、他の人の名前は思い出せない。内閣法制局で対応したのは、私と森下参事官補の2名だ。

 

対面で相談を受けた際、内閣官房と内閣府が作成した文書に基づいて説明を受けた。この対面でのやり取りを記録した会議録のような文書は、内閣法制局では作成していないし、その後、内閣官房や内閣府から会議録のような文書を示されたこともない。

 

西澤参事官らが内閣法制局から去った後、その日のうちに西澤参事官と電話で何度かやり取りをした。やり取りの詳細な内容についてまでは覚えていないが、内閣府設置法の解釈や国葬儀の前例について確認したような記憶がある。

 

並行して、私の上司である内閣法制局長官、次長、第一部長にも相談したが、具体的なやり取りについては覚えていない。内閣官房の方針を覆すような指摘はなかったと記憶している。

 

西澤参事官とのやり取りの詳細は覚えていない。だが西澤参事官は、内閣法制局から指摘を受けて、内閣官房と内閣府の案段階文書に「国費をもって国の事務として行う葬儀を、将来にわたって一定の条件に該当する人について、必ず行うこととするものではないことから、閣議決定を根拠に国の儀式である国葬儀を実施することが可能であると考えられる」を追記したと話しているならば、そのような指摘をしたのではないかと思う。指摘に至った経緯や理由、時期は思い出せない。私が西澤参事官に直接伝えたか、森下参事官補に直接伝えたかも思い出せない。

 

こうした内閣官房とのやり取りについては、7月12日から13日にかけて行っていたと記憶している。

 

西澤参事官との電話でのやり取りを始め、今回の意見事務に関する内閣官房とのやり取りに関しては文書を作成していない。内閣官房と内閣府から、電話でのやり取り内容を記録した文書の内容の確認を求められたこともない。

 

7月14日に、内閣官房から、内閣法制局の指摘を踏まえて修正された文書「国の儀式として行う総理大臣経験者の国葬儀を閣議決定で行うことについて」が送付されてきた。内容を確認して、内閣法制局として「意見なし」の意見を内閣官房に伝えた。私が直接伝えたか、森下参事官補を介して伝えたかなど、伝達方法については思い出せない。

解説:安倍政権下から「追認機関」に

乗越氏が東京地裁に提出した報告書は、証人として法廷に立つ4人の中で、特に杜撰だ。記憶に基づいてしか説明せず、その記憶もない場合が多い。自分が指摘した内閣官房への文書修正さえ、「記憶にないが内閣官房の担当者がそう話しているなら、指摘したのではないか」と述べた。

挙げ句の果てには「意見なしという意見を伝えた」。意味不明な表現を使う。

「法の番人」と呼ばれる内閣法制局は、いつから骨抜きの組織に堕ちたのか。

それは2013年、安倍政権が小松一郎氏を内閣法制局長官に起用した時からだ。

安倍首相は、憲法解釈を変えて集団的自衛権の行使を閣議決定で容認しようとしていた。小松氏は外務省出身で、内閣法制局での経験はなかったが、集団的自衛権の行使を容認する考えを持っていた。前任の長官である山本庸幸氏は集団的自衛権を認めていなかったから、異例の人事で小松氏を長官にした。

以来、内閣法制局は「政権の追認機関」となった。野党が弱く、憲法が政府与党の暴走を止める防波堤だったが、その防波堤を守るはずの内閣法制局が機能しなくなった。閣議決定で国の命運がかかることが進んでいく。閣議決定を根拠に安倍元首相の国葬を実施したことも、その流れの中にある。

乗越氏は3者協議について「記憶も記録もない」と主張しているが、嘘であることは明らかだ。乗越氏は、内閣法制局の長官、次長、第一部長に相談している。参事官の一存で決められることではないから相談するのは当然であり、だからこそ記憶も記録もあるはずだ。

乗越氏は内閣法制局の幹部たちを守り、内閣法制局は政権を守るという構図になっていた。職責に反してまで記録文書を隠蔽する見返りは、保身と出世だろう。3者協議時に内閣法制局次長だった岩尾信行氏は今、長官に就いている。

8月22日訂正:乗越徹哉氏の現在の所属について、訂正しました。8月1日付で人事異動がありました。

<お知らせ>8月21日、24日は「国葬文書隠蔽裁判」証人尋問

安倍晋三元首相の国葬に関する文書開示を求め、Tansaが国を提訴した「国葬文書隠蔽裁判」で、8月21日と24日、国葬実施を協議した官僚4人への証人尋問があります。

〈国葬文書隠蔽裁判 証人尋問〉

 

法廷:東京地裁第103号(大法廷、約100席)

 

▽8月21日 開廷は午前10時15分

①午前10時20分~11時35分ごろ
御厩敷寛
内閣官房内閣総務官室企画官(当時)、現・水産庁漁政部漁業保険管理官
国が20分、Tansaが45分の予定

 

②午後1時30分~2時45分ごろ
西澤能之
内閣官房内閣総務官室内閣参事官(当時)、現・総務省行政管理局企画調整課長
国が20分、Tansaが45分の予定

 

③午後3時15分~4時ごろ
中嶋護
内閣府大臣官房総務課長(当時)、現・内閣府大臣官房審議官(沖縄政策及び沖縄科学技術大学院大学担当)
国が20分、Tansaが15分の予定

 

▽8月24日 開廷は午後1時25分

④午後1時30分~2時40分ごろ
乗越徹哉
内閣法制局参事官(当時)、現・内閣官房内閣参事官
国が20分、Tansaが40分の予定

ぜひ傍聴にお越しください。

24日の証人尋問終了後には、報告イベントを開く予定です。

〈裁判報告イベント「国葬文書隠蔽裁判 証人尋問 官僚たちは何を語ったか」〉

 

日時:8月24日(月)午後4時30分~6時
会場:TIME SHARING 銀座三丁目ビルディング5F
〒104-0061 東京都中央区銀座3丁目8-13 銀座三丁目ビルディング5階
東京メトロ丸の内線「銀座」駅A13番出口より徒歩3分
定員:90名
参加費:無料

Tansaと弁護団が、2日間にわたる証人尋問の内容や、尋問を終えての感想、今後の展望などをお話しし、みなさんからの質問にもお答えします。

報告イベントのみのご参加も可能ですので、ぜひお誘いあわせの上、足をお運びください。

また本イベントはYouTubeでのオンライン配信を予定しています。Tansaの公式YouTubeチャンネルより、ぜひご参加ください。リアルタイムでご参加できない方も、アーカイブからご覧いただけます。

配信:Tansa公式YouTubeチャンネル
その他:アーカイブ化あり、申込不要、参加無料

これまでの裁判の報告は「記録のない国」シリーズ一覧から記事をご覧ください。

これまでの訴訟の資料などは公共訴訟プラットフォーム「CALL4」のページで公開しています。

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