内部告発者 ヤクルトが潰した社員

「ヤクルト1000のアップグレード版」の嘘 消費者を欺いた台湾ヤクルトの宣伝(7)

2026年08月31日 18時38分  渡辺周

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台湾のスーパーで販売される「新ヤクルト」=台北で2026年6月3日、渡辺周撮影

台湾ヤクルト中壢ちゅうれき工場の高橋圭介(仮名)が、東京のヤクルト本社に内部通報したのは2024年3月だ。

・小学校に納品した製品にゴキブリが混入

 

・脱脂粉乳が入った袋を開封する「開袋機」は細菌が発生しやすい構造だった。検査をしたところ、大量の細菌とカビ酵母が検出。雪印の集団食中毒と同様のことが起きる可能性

 

・元工場長の業務中の飲酒とパワハラの横行、人事の不正

だが高橋が通報したことは台湾ヤクルト側に漏洩した。逆にパワハラ疑惑をでっち上げられた。日本からの出向者のトップ、総経理(CEO)の品田泰彦は傍観し事態に対処しない。

日本の本社からは、国際業務部長の嶌田実が中壢工場にやってきたが「ホットラインに連絡している暇があったら仕事をしなさい」。まともに取り合わない。

高橋はうつ病を発症。日本に帰国することになったが、人事部は他の社員に通報した内容を伝えれば「厳正に対処する」と牽制してきた。

しかし、問題はこれだけではなかった。

世界40の国と地域に展開するヤクルトが、台湾の消費者を欺く事態が続いていた。

日本で大人気「ヤクルト史上最高菌数・最高密度の乳酸菌」

ヤクルトは2025年、「2024年世界で最も売れている乳酸菌飲料ブランド」としてギネスに認定された。創業90年あまり、世界40の国と地域で愛飲されている。台湾は1964年、ヤクルトが初の海外進出を果たした地だ。スーパーやヤクルトレディによる販売で、ごく身近な健康飲料として親しまれている。

2021年4月、ヤクルトが満を持して日本全国で販売を始めたのが「ヤクルト1000」だ。乳酸菌の「シロタ株」をヤクルト1本あたり1000億個含んでおり、「ヤクルト史上最高菌数・最高密度の乳酸菌・シロタ株」と銘打った。

ヤクルト1000の機能は「一時的な精神的ストレスがかかる状況での『ストレス緩和』と『睡眠の質向上』」。ヤクルトのサイトでは、ヤクルト1000が誕生した経緯を説明している。

「2000年初頭、高菌数・高密度の『乳酸菌 シロタ株』が神経系に作用し、過剰なストレス反応を和らげるはたらきがあることが、ヤクルト中央研究所の基礎研究で明らかになりました。この腸と脳が互いに影響を及ぼしあう関係に着目した研究は、臨床試験を経て『Yakult1000/Y1000』として結実しました。手軽に日常生活に取り入れられる食品として確かな健康価値を提供するために、ヤクルトの乳酸菌研究は今日も続いています」

ヤクルト1000は日本で人気を呼んだ。2022年6月18日付の読売新聞夕刊では、「睡眠サポート 市場急拡大 ヤクルト1000『品薄』」という見出しで報じている。

「ずっと売り切れ。どこで買えるの」「街でヤクルトレディをみかけてつい声をかけた」--。

 

乳酸菌飲料「ヤクルト1000」を巡り、SNS上では効果や販売場所の投稿が目立つ。乳酸菌「シロタ株」を多く含むことで、ストレスを低減し、睡眠の質を高めるという。主に宅配用だったが、昨年10月からはコンビニなどの店頭で「Y1000」の販売を始めた。品薄状態が続いており、7月から段階的に増産する予定だ。

「中国人が中国人を騙している」

ヤクルト1000の日本でのヒットを受け、台湾ヤクルトも動く。ヤクルト1000のアップグレード版として、「新ヤクルト」を大々的に売り始めたのだ。2024年6月、次のような宣伝記事がネットメディアに掲載された。「全聯」は台湾の大手スーパーだ。

「台湾でも日本の超人気ヤクルト『Yakult 1000』が買えるようになりました! 日本のこの『Yakult 1000』は超有名で、日本に行ったら必ずコンビニで探す人も多い飲み物。本日よりこのヤクルトが台湾で買えるなんて本当に幸せ! 全聯が本日より『Yakult 1000』アップグレード版を発売、みんな全聯へ急ごう!」

同様の記事は、様々なネットメディアに掲載された。台湾の消費者は、ヤクルト1000が飲めるようになったと受け止め、SNS上では次のような声が上がった。

「6月14日より全聯で新ヤクルト『Yakult 1000』が販売されています。ストレス緩和と睡眠の質向上効果が顕著なため、台湾で爆売れ中らしい…。全然見つからん」

この事態に、台湾ヤクルトで品質管理を統括する立場の高橋圭介は危機感を覚えた。台湾で販売されている「新ヤクルト」は、「ヤクルト1000」とは別物だからだ。ヤクルト1000には、乳酸菌のシロタ株が1000億個含まれているが、新ヤクルトには300億個しかない。アップグレード版どころか、飲用するメリットが大幅に少ない。日本のヤクルト本社は「精神的ストレス緩和」と「睡眠の質向上」について、1000億個のシロタ株の含有を前提にしている。

実際、Tansaが入手した台湾ヤクルトの乳酸菌数に関する文書によると、新ヤクルトにはシロタ株が300億個程度しか含まれていなかった。

この事実を、董事長の李道明(現地法人の社長に該当)も、日本からの出向者のトップである総経理(CEO)の品田泰彦も知っている。台湾の消費者を欺いて利益を得ていることに、高橋はいたたまれなくなった。

台湾の法律に違反しているのではないかという懸念もあった。食品安全衛生管理法第28条と、公平交易法第21条ではそれぞれ次のように定めている。

食品安全衛生管理法第28条

「表示、宣伝または広告において、虚偽、誇張、または誤解を招きやすい内容であってはならない」

 

公平交易法第21条

「商品または広告において、あるいはその他公衆に知らしめる方法により、商品に関連し、かつ取引の決定に影響を及ぼしうる事項について、虚偽または誤解を招くような表示を行ってはならない」

高橋は2024年10月24日、日本のヤクルト本社人事部との面談があった際に、この件を訴えた。

「『日本で人気のヤクルト1000のアップデート版を買える』という宣伝は嘘だ。ヤクルトのブランドを守るため、品田総経理たちは日本から派遣されていると思うが、この詐欺を放置しているのかということになる」

だが人事部上級主査の菅生正治は「中国人が中国人を騙している」と言い、重大なこととは受け止めていないようだった。

過去に上海当局から行政処分

ヤクルトの品質をめぐる杜撰な対応は、今回が初めてではない。

台湾ヤクルトの内部文書によると、2018年6月13日に生産されたヤクルトの「300LIGHT」が台北市衛生局による市場抜き取り検査を受け、菌数不足を指摘された。

2021年8月31日には、上海ヤクルトが当局から反不当競争法等違反で行政処分を受けた。ヤクルトの飲用が、新型コロナウイルス対策に効果があると、消費者に誤認を与える宣伝をしたためだ。日本のヤクルト本社は「お知らせ」の中で、こう誓った。

「株式会社ヤクルト本社としては、これを厳粛にとらえ、今後、お客さまに適正な情報発信を行うべく、グループ会社全体のコンプライアンス徹底に今以上に取り組んでまいります」

「末尾に?の表現がなされており、法的に問題ない」

だがそれから3年もしない内に、乳酸菌数が300億個しかない「新ヤクルト」を、1000億個ある「ヤクルト1000」のアップグレード版として宣伝した。この事実をどう考えているのか。品質偽装ではないのか。Tansaは2026年6月15日、ヤクルト本社社長の成田裕に質問状を出し、6月19日に広報部から回答を得た。

ヤクルト本社広報部は「品質偽装の事実はございません」と否定した上で、以下のように経緯を説明した。

「台湾ヤクルトによると、2024年に『New Yakult』を店頭で販売するのに合わせて、一部のメディアに対して『日本で入手困難なYakult1000、台湾でアップグレード版を発売?』とのタイトルで原稿を送付しました。この原稿を受けた一部メディアでは、原稿内容をもとにオンラインニュースで取り上げました。その際に、当社の担当者が当該ニュースを見つけ、お客さまに誤解を与える可能性があったため、台湾ヤクルトに注意喚起と削除対応を依頼しました。結果、台湾ヤクルトから『すぐに削除してもらうように依頼する』との返答を頂き、そのニュースは削除されました」

だが「日本で入手困難なYakult1000、台湾でアップグレード版を発売?」というタイトルで、メディアに原稿を送った台湾ヤクルトに落ち度があるのではないのか。その点は次のように説明している。

「台湾ヤクルトから『現地弁護士に確認したところ、タイトル末尾に?の表現がなされており、本文中でも日本の『Yakult1000』と台湾の『New Yakult』は別物として紹介されているので、法的には問題はないとの回答であった』旨の報告を受けています」

この説明に沿えば「?」がついていれば、大げさで不正確な表現でも問題ないということになる。

しかし、前述のように、台湾の食品安全衛生管理法第28条にしろ、公平交易法第21条にしろ「誤解を招くような表示」を禁じている。

いまだに残る宣伝記事

新ヤクルトを、ヤクルト1000のアップグレード版として宣伝していることに関する質問は、台湾ヤクルト総経理の品田泰彦に対してもメールで行っている。2026年6月3日にメールで質問を送信し、6月19日に回答があった。日本の本社広報部から回答があったのと同じ日だ。回答内容はほぼ同じだが、以下は広報部にはない内容だ。

「今回ご指摘の記事については、当社としても把握できておらず、お客さまに誤解を与える可能性があるため、削除依頼を進めてまいります」

品田が「削除依頼を進めてまいります」と書いたのは、Tansaが質問する際に当該の宣伝記事のリンクを示したためだ。ヤクルト本社の広報部は2024年当時の宣伝記事は削除したと回答したが、削除されていない記事が残っていた。

品田に6月3日に示した宣伝記事はその後、削除された。だが8月31日現在、同様の記事は他にも残っている。その一部の見出しとリンクを示す。

台湾でも購入可能! 日本で必ず飲んでおきたいヤクルト「Yakult 1000」のアップグレード版が台湾で発売開始、全聯で購入できます

https://buy.line.me/u/article/590880

 

日本で爆発的なヒットを記録した「ヤクルト1000」に挑む!超豪華な「新ヤクルト」が発売、全聯で飲める

https://supertaste.tvbs.com.tw/food/349768

 

睡眠の質を向上させる「ヤクルト1000」に続き、台湾でもアップグレード版「新ヤクルト」が発売された

https://www.roomie.tw/posts/65820

台湾の消費者を欺く事態に、台湾の行政当局はどう対応するのか。台湾ヤクルトの中壢工場がある桃園市衛生局に、Tansaが2026年6月2日に質問状を出したところ、工場を査察した結果として8月13日に次のような答えが返ってきた。

「当局による実地査察の結果、現在同工場で生産されている発酵乳製品の中に『ヤクルト1000』という名称の製品は見当たりませんでした。また、現場の製品パッケージを確認したところ、『1本に1,000億個の乳酸菌を含む』旨の表示や宣伝も確認されませんでした」

Tansaは「新ヤクルト」が「ヤクルト1000」のアップグレード版として宣伝されていることを問うた。当該の宣伝記事のリンクを添付して質問状を出した。

それにもかかわらず、桃園市衛生局は「ヤクルト1000という名称の製品が見当たらなかった」と的外れな調査をしている。宣伝記事を問題にしているのに、パッケージに「1本に1000億個の乳酸菌を含む旨の表示がなかった」と説明しているのも、論点が違う。「何事もなかった」で片付けるために、ごまかしているのではないのか。

ギネス記録も持つグローバル企業と行政当局に、台湾の消費者は蔑ろにされているとしか言いようがない。

(敬称略)

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