検証東大病院 封印した死

最後の言葉は “Making the Road”(11)

2019年03月08日6時46分 渡辺周

心臓に難病を抱えていた41歳の男性、齊藤聡さんは、東大病院で心臓カテーテル治療を受けた後に亡くなった。

なぜ彼は東大病院で、効果の期待できない治療を受けることになったのだろう。

齊藤さんは、病状が急激に悪化する2018年9月25日の前日まで、画像共有サービス「インスタグラム」などのSNSにメッセージを多く残している。

マイトラクリップ治療から3日後の2018年9月24日、インスタに投稿。友人たちに向けた最後の写真だ。それは東大病院の医師が記入した気胸の治療についての説明書の一部だった。

投稿写真に添えられたメッセージにはこうある。

「だいぶ落ち着いたので、改めて説明します。手術自体は、カテーテルで心臓の壁に穴を開けるはずが開かなくて、途中で中止になりました。穴開けて、その先の弁を治療するのが目的だったので、簡単に言えば失敗です」

「弁を治療した後に、心臓が負担に耐えれるか?ってとこだったのですが、治療出来ませんでした」

東大病院は「リスクは高いが、この治療しか選択肢はない」として、齊藤さんにマイトラクリップ治療を勧めている。

齊藤さんは冷静だった。治療が無事終了しても、効果を得られなかったり、より悪くなったりする可能性があるという東大病院の説明を理解した(*1)。それでも、1日でも長く生きたくて、東大病院の勧めに従った。

齊藤さんがインスタグラムに最後に投稿した写真。肺の周りの空気を抜く処置の説明イラストを撮影した

「負担かけて全身麻酔して何も出来ずに戻ってきた訳ですから。生きていますが、乗り越える峠すら通行止めにされた感じです」

「んで合併症で気胸になって、いま胸にドレーンが入ってて、これが痛くてたまらないとこです。以上!」

「生きていますが、3歩進んで4歩下がったら前の道がなくなってました。making the road」

「making the road」が最後の言葉となった。

この言葉は、齊藤さんが愛したロックバンド、Hi-STANDARDのアルバム「MAKING THE ROAD」と同じだ。このアルバムは1999年に発売され、大ヒットした。収録曲の「making the road blues」には、次のような歌詞がある。

 

no one can ever know

how hard it is for him to carry on this way

no one can know his love

for his people and family

 

he’s on a mission

he knows who he is

he is making the road

“fuck fuck fuck fuck”

wants to scream but holds it in

 

続けて行くのがどんなに大変な事か

誰も知る事は出来ない

彼の仲間や家族への愛など

誰にも分からない

 

彼には分かってる

道を作る事が使命なのだと

“ファック! ファック!…”

叫びたいが 彼はその言葉を飲み込む

齊藤さんは、Hi-STANDARD が主催するロックフェスティバル「AIR JAM 2018」を楽しみにしていた。2018年9月9日に千葉市のZOZOスタジアムで開かれる予定だった。しかし抽選に漏れた。

「もんげー!ほんと抽選当たらない。まあ、当たっててもその時、行ける状態とは思えないが」

「目標としては、DVDが発売されるまでは生きるぞ!!見たいもんね♬」(2018年6月21日インスタグラム)

10月7日午後2時5分、齊藤さんは死亡した。DVDを見ることはできなかった。

=つづく


*1 東大病院は「マスコミ」向けに「相当のリスクはあるものの、これを踏まえたうえでもなお、MitraClipを行う以外に当該患者を救う治療選択肢はないとの結論に達しました」とも回答している。これに対して、ワセダクロニクルの取材に応じた東大病院の循環器専門医は「リスクが著しく高ければ、マイトラクリップ治療は行わず、薬物治療を続ける選択肢もあるのです。実際、男性のような重い心不全患者には、マイトラクリップ治療を行わない方が予後は良い傾向にあったという最新研究もあります。しかし病院の態度は、マイトラクリップ治療ありきで決まっている。著しく不適切な対応です」と批判している。詳しくは「母親に伝わらなかった『著しいリスク』 」を参照のこと。

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