監視社会ニッポン

(狙われるDNA)「拒んでいい」との説明もなく流れ作業で採取(2)

2019年09月06日16時59分 渡辺周

FacebookTwitterEmailHatenaLine

農業用水路でバス釣りをしていた内野翔大さん(20代、仮名)は、警官に立ち入り禁止地域への立ち入りをとがめられた。警察署までの任意同行を求められ、警官が乗るバイク2台とパトカーとに挟まれて愛知県警津島署まで自分の車を運転して向かった。

「これから自分はどうなるのだろう」と思うと、運転していても周囲の景色が目に入らなかった。気が遠くなった。15分ほどの道のりだが、内野さんには30分かかったように感じられた。

津島署に着くと、2階の調べ室に通された。

内野翔大さんがDNAを取られた愛知県警津島署=2019年8月27日、愛知県津島市西柳原町2丁目

ポケットの中身をチェック

取調室に入る前、中年の男性警官にスマートフォンを没収された。

続いてポケットの中身も全て出させられた。凶器を持っていないかチェックするためだといわれた。

バス釣りをしていただけなのに、重大な犯罪を犯したかのような扱いだ。何が問題なのだろうか。内野さんは動揺した。

取調室に入る。中央に机があり、警官と向かい合って座る。内野さんに最初に職務質問をした長身の若い警官だった。警官はいった。

「倒れられても困るから、体調が悪くなったらいってね」

内野さんは、精神的な不安から体調を崩すことがあると伝えていたので、そのことを気にしているようだった。

だが、聴取に遠慮はなかった。

家族構成。

中学校からの学歴。

職歴。

両親の仕事――。

聴取は約1時間に及んだ。警官はパソコンで調書をとっていたが、キーボードを打つのが遅かった。「パソコンで調書を取る作業は初めてなんだ。君はパソコンは得意?」と聞かれたのを覚えている。

聴取の途中で、廊下を挟んで向かいの鑑識の部屋から、別の警官が声をかけてきた。

「顔写真、指紋、DNAを採るから」

取り調べの警官は「え、DNAもですか」と驚いたようだった。

10分間の流れ作業

内野さんは向かいの鑑識の部屋に連れて行かれた。ここからは低身長で坊主頭、メガネをかけた警官が内野さんを担当した。

まず、靴のサイズと身長を測る。

続いて、顔写真を正面と斜め横から。

それから指紋の採取。スキャナで10本の指の指紋データを取り込む。しっかりデータを読み込めるように、鑑識の警官は内野さんの指を上から強く押さえつけた。

そしてDNA。同意書を渡され、簡単な説明を受けた。

DNAの採取は任意だが「いやなら拒否できる」という説明はなかった。一連の流れの中で、内野さんは「DNAもみんな採られているのだろう」と思ってしまった。人差し指を黒い朱肉につけ、同意書に捺印した。

綿棒を渡され、両ほほの裏側をこするよう指示された。

警官は「綿棒の色が変わったらいいよ。DNAを取れたということだから」といった。

この間、約10分。あっという間の流れ作業だった。

警官「まちのために頑張っている」

DNAを採取された後、取調室に戻った。最初の若い警官が、身元引き受けのため内野さんの親に電話したいから番号を教えてほしいといった。番号を伝え、内野さんは若い警官と1階に降り、両親の迎えを待った。

両親を待っている間、落ち込む内野さんに若い警官はいった。

「僕たち税金ドロボウとかいわれるけど、まちの安全のために頑張っているんだよね」

「用水路での釣りは危険だから、内野さんのためにもいったんだよ」

若い警官が電話をしてから50分ほどして、両親がタクシーで津島署に迎えにきた。

帰宅後、両親にDNAを取られたことをいうと、「そんなことまでするのか」と驚いた。

DNAを取られたことで内野さんは、関係のない事件の犯人にされるのではないかと不安になってきた。インターネットで「誤認逮捕」を検索し、あれやこれや調べた。検索を繰り返すほど不安になっていった。身も心もへとへとに疲れ果てていた。

内野さんは「これまでの人生で最悪の日でした」といった。

=つづく

監視社会ニッポン一覧へ