公害「PFOA」

ダイキン>大阪府 PFOA排出量を「企業秘密」にされても大阪府は・・・(10)

2022年02月04日13時40分 中川七海

ダイキン工業会長の井上礼之は2006年から2008年、大阪府知事である太田房江の後援会長を務めていた。ダイキンは後援会を、政治資金パーティーの参加券を購入して支えた。府が世界最悪レベルのPFOA汚染に対処しなければならない時期だ。

知事がダイキンのトップに世話になっている状況で、府はダイキンに対して汚染対策の働きかけが十分にできたのか。太田は当時の府議会での答弁でも、今回のTansaの取材にも、PFOA汚染への取り組みに自信を見せた。

しかし、太田の自信とは相容れない証拠をTansaは情報公開請求で入手した。府がダイキンを聴取した記録だ。そこには府がダイキンに対して及び腰な姿があった。

ダイキン工業淀川製作所の近くに立つ看板

ダイキン、米国環境保護庁の基準を「根拠なし」

2007年6月22日午前10時、大阪府事業所指導課と環境保全課の職員4人がダイキンへの聴取を始めた。ダイキンの出席者は6人。本社の専任役員や化学事業部の担当課長、淀川製作所の担当部長らだ。

府がダイキンに対して動かざるを得ない理由が国内外にあった。

まず、国内。

京都大の小泉昭夫のチームが2004年、全国の河川を調査した。淀川製作所の近くを流れる淀川の支流・安威川(あいがわ)では、世界最高レベルのPFOA濃度を記録した。全国10カ所の住民の血中濃度も調べたところ、大阪市の住民が最も高かった。大阪市の水道水の濃度は仙台市の300倍と高く、大阪市は主に淀川から集水していることから、原因は水道水だと推定した。

次に国外。

米国の環境保護庁(EPA)が2006年1月、ダイキンを含む世界の大手PFOAメーカー8社に対して、2015年までにPFOAを全廃するプログラムを提案。8社は同年3月にはプログラムを受け入れることで合意した。メーカー側はすでに追い込まれていた。例えば8社の一つであるデュポンは、被曝住民への7000万ドル(約80億円)の和解金や水質浄化費用1000万ドル(約11億円)を支払うことが2004年に裁判で決まっていた。

府の聴取に対し、ダイキンはEPAの削減プログラムやPFOAを大量に使用する工程の排水処理などについて説明した。

質疑応答での府の質問は、「国内のフッ素樹脂メーカーがどこか」といった基礎知識に関するものが多い。事前に予習をして聴取に臨んでいるとは思えない質問だ。

府は、EPAが「これ以上は危険だ」と決めた飲料水のPFOA基準についても聞いた。京大のチーム小泉による調査結果では、大阪市の水道水の値は、EPAの基準に迫っていた。当然、府もそのことは把握している。

「EPAの基準はリスク評価に基づくものか」

ダイキンが答える。

「根拠はない。それまでの(基準)では緩すぎるということだろう」

EPAのプログラムに合意しながら、健康に影響する飲料水について、EPA基準を軽く捉えるダイキン。だが府は、それ以上質問することも突っ込むこともなかった。

聴取は2時間で終了した。

大阪府「毒性について統一された知見が国にないので」

1回目の聴取から5カ月後の2007年11月7日、府は再びダイキンへの聴取を実施した。前回同様、ダイキンの幹部らが応じた。

この日の重要課題の一つは、PFOAを2015年に全廃するEPAのプログラムの進捗状況だった。

プログラムでは、まず2010年までに「2000年比95%削減」を目指すことになっている。府は削減基準となる2000年のPFOA排出量を尋ねた。ダイキンは次のように応じた。

「排出量についてはCBI(Confidential Business Information)として非公表。排出量が公表されると生産量が分かってしまうので、CBIとしている」

ダイキンは府に対して、「Confidential Business Information=企業秘密」を理由に報告を拒否したのだ。

排出量がわからなければ汚染の実態も掴めないはずだ。それでも府はこの時、ダイキンに排出量を報告するようそれ以上求めなかった。

府民の血中から高濃度のPFOAが検出されているにもかかわらず、府民とダイキンのどちらを向いて仕事をしているのか。この2007年11月7日の聴取以降も、府はダイキンから排出量の報告を受けていないのか。

Tansaは、ダイキンを聴取した大阪府環境管理室事業所指導課・化学物質対策グループで、現在主査を務める窪田剛に電話で取材した。

――府はダイキンからPFOAの排出量について報告を受けたのか。

「企業のConfidential情報なので、お答えできません」

――排出量そのものを聞いているのではない。府が排出量を把握しているのかを教えてほしい。

「それもお答えできません」

――府民の健康に関わる内容だ。情報公開法でも人の命と健康に関わる情報は、企業の利益を損なう恐れがあっても公開するよう定めている。なぜ、答えられないのか。

「汚染された水を飲んでいませんし、毒性について統一された知見が国にないので…」

府知事の太田は、2007年9月の府議会で、ダイキンへのPFOA対応が「悠長だ」と指摘された際、「先進的にやっているわけで、おくれていることはございません」と言い返した。だが府議会の答弁から2カ月後の聴取では、ダイキンから重要な情報すら与えられていなかった。

大阪府が所持している、ダイキンへの聴取記録

ダイキン「かえって不安をあおる」、住民説明会開催の提案を拒否

太田は2007年当時、「政治とカネ」の問題でメディアや野党から追及されていた。3期目の立候補を断念し、知事は2008年から橋下徹に交代した。

しかし府はその後もダイキンに押される。

2009年8月27日、府とダイキンが面談した時のことだ。PFOA対策について意見交換する中で、府はダイキンにある提案をした。

「ダイキン淀川製作所の盆踊り大会等の機会を利用して、環境対策への取り組みを参加者に伝えてはどうか」

ダイキンが答える。

「工場見学会等の場ですでに実施している。盆踊り大会は主旨が異なるため、環境対策の話をするのは難しい」

そうであればと府が提案する。

「そのような場で、府・摂津市とダイキンさんとが共同してPFOAについての取り組みの話をするのはどうか」

だが、ダイキンは断る。

「現在のところ、地元からのPFOAについての問い合わせ等もなく、かえって不安をあおってしまうことになるのなら、もうすぐ全廃ということもあり、できるだけ触れないようにしたい」

=つづく

(敬称略)

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