虚構の地方創生

メキシコの友好都市に感染防護メガネ、県外の親戚にすだち/全国ワースト100事業 中国・四国編(4)

2022年04月06日19時15分 辻麻梨子、齋藤林昌、長谷野新奈、小倉優香

自治体に配られた交付金が、国境や県境を超えて、広く外に渡っていた。こうした事業は、地域で生活する住民にとって地方創生の恩恵をもたらしたのだろうか。

地方創生臨時交付金が充てられた無駄遣い100事業の中から、今回は中国・四国編を報じる。(前回の中部・近畿編はこちら

Tansaは、2020年度の第1次と第2次の補正予算で計上された地方創生臨時交付金の事業をデータベース化した。都道府県と市町村が内閣府に提出した事業計画に基づいている。事業の数は約6万5000件、金額は計3兆円に上る。

データベース上の全事業に目を通し、納税者の視点から無駄遣い100事業を選んだ。

スライダーの表中の事業費は、自治体によって交付金の額を示している場合と、交付金以外の予算も含む総事業費を記している場合とがある。さらに表中から一部の事業を選んで、その取材結果を報じる。

香川県が毎年開催する「全国年明けうどん大会」の案内(大会公式HPより抜粋)

「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金」

新型コロナの感染拡大防止と、感染拡大の影響を受けている地域経済や住民生活を支援し地方創生を図る目的で、2020年4月に決定された交付金。2020年度の第一次補正予算で初めて1兆円が組まれて以降、3回の補正予算と5回の予備費がつけられた。総額は15兆1760億円。自治体が自由に使うことのできる「地方単独事業分」のほか、時短営業や休業に協力する飲食店への協力金やコロナの検査を無料にするための費用なども含まれている。

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岡山県笠岡市 鳥獣対策

「ICT活用」と申請も、活用できず

岡山県笠岡市は農地に侵入して作物を荒らす鳥獣対策として、1419万円の事業を行った。そのうち、622万円が地方創生臨時交付金だ。市内ではイノシシや小型のネズミであるヌートリア、タヌキなどが食害や糞害を起こしている。2020年の被害総額は100万円超だ。

市は防護柵の材料であるワイヤーメッシュの購入費用の3分の2を助成した。2020年度には300件以上の申し込みがあった。

しかし鳥獣対策への助成は、これまでも毎年市の予算で行われているものだ。

さらに市は内閣府に提出した事業計画に、こう記載している。

「感染拡大防止に対応できるICTを活用した捕獲機器等を導入して猟友会の捕獲活動に対する支援を行う」

ICTとは情報通信技術のことだ。だがワイヤーを格子状に張る防護柵に、ICTの要素はない。

農政水産課の職員に聞くと、「センサーで動物の捕獲を確認できる罠もあるが、単価が高い上、設置しても効果が薄く、今回の事業には含められなかった」と話した。

広島県 感染防護のメガネをメキシコに

8200個200万円

広島県は、医療現場で感染対策として使用するセーフティーメガネ8200個を県内企業から購入しメキシコ・グアナファト州へ輸送した。メガネの購入費と輸送費に地方創生臨時交付金約200万円を当てた。

広島県とグアナファト州は友好提携を結んでいる。県内に拠点を置くマツダが、2014年からグアナファト州の工場で自動車を量産し始めたことが、交流のきっかけだ。

今回はグアナファト州政府から県が、コロナ感染対策に関する物資支援の要望を受けた。県は、グアナファト州に拠点をおく県内企業でつくる「広島グアナファト親善協会」と共に、メガネの送付事業を実施した。親善協会は県が用意したメガネとは別に、1800個を購入して送った。

今回メガネを送ることと、地方創生とはどのような繋がりがあるのかという問いに対して職員は、

「非常に答え辛い。直接的には関係があると言えないが一例を挙げるとすると、普段から交流関係を持っていたことによって、オリンピック開催時にメキシコ選手団の事前合宿を受け入れることになった。そういう意味では貢献していると思う」

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徳島県佐那河内村 すだち配布

約1600kgで県外の親戚らへ

徳島県佐那河内村は、人口2300人の村で、すだちが特産品だ。

「佐那河内村を遠くから見守る応援事業」と名付け、村は農家から1593kgのすだちを買取り村外へ送付した。

送り先は主に二つ。

一つは「ふるさと住民票」を持っている全国の住民250人だ。ふるさと住民票は佐那河内に興味があり、積極的に関わろうと思う人であれば、誰でも取得できる。

もう一つは、県外の親戚にすだちを送りたい住民。上限100人の枠に100人が応募した。1人あたりすだち1〜3kgとそれを送る箱を提供した。送料は村民持ちだ。

自治体との連携を積極的に行なっている大阪府吹田市のミリカ・ヒルズ団地にも、すだちを送った。団地ではすだちを使った料理教室が開かれた。

今回の事業にかかった金額はコロナ地方創生臨時交付金101万円。当初の申請予算では220万円だったが、事業実施当時はすだちの値段が下落していたため安く済んだという。余った事業費は他のプロジェクトに充当されたという。一体、何のプロジェクトに充てたのか。村の企画政策課が答えた。

「何に充てたかはわかりません」

香川県 全国年明けうどん大会

通常予算の肩代わりで3000万円

香川県は、2020年12月に開催したイベント「全国年明けうどん大会」の開催費用の全額を、地方創生臨時交付金約3000万円でまかなった。開催費用には運営費、謝礼、旅費、広告費などが含まれる。

大会は2014年から毎年開催されている。目的は、年末の「年越しそば」に対して、香川県の名物であるうどんを、年始の縁起物として食べる習慣を普及させることだ。全国のうどん店が会場に集まり、さまざまなうどんをその場で味わうことができる。例年4万人以上が訪れていたが、コロナ禍での開催となった2020年は入場制限を行い、約3000人が来場した。

大会の開催費には、これまで県のお金が使われてきた。2021年も県費で開催されている。2020年も県でまかなえば良かったのではないか。

県産品振興課の担当者は、「コロナによる経済対策として、県が取り組む課題の一つに大会があり、それにかかるお金を補助してもらえるという話だったため」と話す。

高知県田野町 バス待合所

「雨風をしのげる場所として整備」と町職員

高知県田野町は、四国で最も面積が小さい町だ。人口2550人のうち、65歳以上の高齢者が約4割を占める。

町は地方創生臨時交付金152万円を使い、町が運営するコミュニティバス「たのくるバス」の停留所付近に待合所を新設した。待合所は屋根と側面を透明な板で囲まれ、内側にベンチが2つ設置されている。中に入れるのは3〜4人といったところだ。

待合所が作られたのは、スーパーの前にある停留所「サンシャインゆい」のそば。町内のバス停で最も利用者が多い。町は新設の理由をこう説明した。

「雨風をしのげる場所として整備した」

これでは地方創生や感染対策と関係ないのではないか。

町の予算でやるべきではないかと尋ねると、こう付け加えた。

「待合スペースを整備する前は道に椅子を並べているだけだった。そのため1箇所に集まってしまうこともあったため、待合スペースを広げ、間隔をとってお客さんに座ってもらう環境整備という位置付け」

「コロナでバスの利用者も減る中、少しでも利用しやすい環境を、ということ。今回の交付金の内容にあながち的外れなものではないかと解釈している」

高知県田野町のバス停「サンシャインゆい」にある待合所

次回は九州・沖縄編を報じる。

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