公害「PFOA」

摂津市当局はダイキン広告掲載、市議会はアンケで最大会派の公明が無回答(29)

2022年10月07日21時06分 中川七海

10月に入って、また大阪・摂津市民のPFOAへの高濃度曝露が明らかになった。

全国最高濃度のPFOA汚染を記録した摂津市では、不安に感じた市民が次々に検査を受け、その度に高濃度曝露が判明する。今回は8人が9月に血液検査を受け、分析の結果、全員から高濃度のPFOAが検出された。

しかし、摂津市長の森山一正(78)の腰は重い。それどころか、「事業所だって困る。こんなんいつまでもやってたら」と汚染源であるダイキン工業を庇う。市のウェブサイトのトップページは、何事もなかったかのように、今もダイキンの広告を掲載している。

市議会はどうか。今年3月には全会一致で汚染の対応を国に求める意見書を可決している。

ところがその後、私が全市議に質問状を送ると、返ってきた回答は議員たちの足並みが揃っていなかった。

摂津市の公式ウェブサイトより。ダイキン工業の広告が掲載されている

被検者の85%が高濃度曝露

2022年9月27日、京都大学名誉教授の小泉昭夫と准教授の原田浩二が、摂津市民8人に血液検査を実施した。

小泉は、国内におけるPFOA研究の先駆者である。2002年に全国でPFOAの調査を始め、摂津での高濃度汚染を突き止めた。

摂津市民のPFOA曝露を調べ始めたのは、2008年のことだ。女性60人の血液を分析したところ、平均値は非汚染地域の住民の6.5倍に上った。

2020年、環境省が実施した全国の水環境調査で、摂津市の地下水が全国1位の高濃度を記録。これを機に小泉は、市民の血液検査を再開した。今回の8人も含め、検査を受けた市民の85%で、高濃度曝露が判明している。

検査日

検査人数(摂津市民)

検査結果

2020710

1

高濃度

2020930

5

4人が高濃度

20211023

9

9人全員が高濃度

20226月5

11

7人が高濃度

2022927

8

8人全員が高濃度

汚染源は、摂津市内にあるダイキンの淀川製作所だ。小泉も突き止めている上、事業所を監督する大阪府も認めている。

高濃度曝露した市民たちは、怒っている。

大野明(仮名,64)は「私の体内に溜まったPFOAはどうしてくれるんですか。本当に気持ちが悪い。ダイキンはそこを明確にしてないでしょ」。吉井正人(仮名,70)も「すでに敷地の外にPFOAが流出して蓄積している。敷地外の調査と浄化をまずせなあきませんやん」。

森田恒夫(仮名,76)は、地域の子どもたちを心配する。

「自分たちが汚染源でも、ダイキンさんは知らんぷりやね。製作所の目の前には小学校もあるのに、自分たちのことしか考えてないね」

副市長はダイキンの代弁者?

市民8人が9月27日に検査を受ける前日、摂津市議会ではPFOA汚染が議題に上がった。自民党の嶋野浩一朗が、「PFOAに関して、いかに住民の不安を取り除いていくのか」と質問した。

副市長の奥村良夫が答弁に立った。

「血液中のPFOA濃度の目標値は定められていない」

「時代の変遷とともに企業活動が活発になると、いろいろな廃棄物が工場から排出され、環境に変化が生じる。ダイキンは社会的責任を負っていることを十分認識し取り組んでいる」

「米国EPA(環境保護庁)がPFOAを全廃したのは2015年。ダイキンはそれよりも3年前に自主的に国内で全廃している」

「ダイキンは、敷地内のPFOAを含む地下水の処理対策に取り組んでいる。地下水の揚水処理量を倍増している」

「最近では、ダイキンは工場敷地の全周を地下10メートルまで遮水壁で囲いこむ対策に着手している」

一連の答弁の後は、こう言った。

「このようにダイキンはとり得る限りの対策に着手している」

これまで私はダイキンの役員や広報担当者とやりとりしてきたが、奥村の言葉の数々はダイキンの言い訳を代弁しているように感じた。後日、私は奥村に直接電話して聞いた。

「奥村さんの答弁は、ダイキンの言い分を代弁しているように聞こえました」と告げると、奥村は「そんなことはない」と否定した。

だが実際、市はダイキンと締結している「環境保全協定」に基づいて、市民への補償をダイキンに迫ろうとしていない。ダイキンは市から申し入れがあれば協議を始めると表明している。その点を質すと、奥村は答えた。

「国に公害等調整委員会がある。そこが補償金額の裁定をすれば、その金額をもって、ダイキンに対して補償の協議を申し入れることはできる」

「公害等調整委員会に訴えるのは市民自身ですけどね」

つまり、協定に基づいて市がダイキンに補償を求めることはない、補償してほしければ、市民とダイキンで直接やりとりしてくれということだ。

ダイキンのメアドで回答してきた市議

私は、副市長の奥村の答弁に納得がいかなかった。議会で質問した自民党市議の嶋野はどう思ったのか。議会の休憩中、私は嶋野に声をかけた。

「副市長の答弁は、まるでダイキンの主張みたいでしたね」

だが、嶋野は反論した。

「いや、副市長も副市長なりに考えてはりますよ」

奥村の答弁からは、そんな気配は微塵も感じられない。なぜ、嶋野はそんなことを言うのだろうか。

私は今年8月に受け取った、全市議への質問状に対する回答を思い出した。嶋野は、市当局はダイキンと協議するべきかという問いに「協議をすることは適切でない」。市議会議員として行動を起こすかという問いに「現段階では何かを働きかけることはない」と回答していた。

嶋野の他にも、PFOA汚染への対応について消極的な議員はいた。

自民党の議員たちは嶋野同様、積極的に動こうとしない回答だった。

ダイキン労働組合が推薦し、今もダイキン社員としての籍をもつ三好義治は、なんとダイキンのメールアドレスから回答を送ってきた。その中身は、「市当局はダイキンと協議するべきと考えない」「自らは行動を起こさない」という回答だった。

最大会派の公明党は、5人全員が回答すらしなかった。

摂津市議会は今年3月、PFOA汚染に関する国への意見書を全会一致で可決してはいる。しかしPFOA汚染に対して、議員として実際に取り組むかには、温度差があった。

質問内容と、各議員の回答は以下の通りだ。

【質問】

①環境保全協定に基づき、ダイキン工業による住民への補償を実現するために、摂津市当局はダイキンと協議するべきだと考えるか。

 

②環境保全協定に基づき、ダイキン工業による住民への補償を実現するために、市議会議員として行動を起こすか。

 

③行動を起こす場合、何を実施するのか。

 

④行動を起こさない場合、その理由は何か。

以下が、全議員の回答結果だ。

【各議員の回答】

議員 会派 摂津市当局はダイキンと協議するべきか 市議会議員として行動を起こすか 行動を起こす場合、何を実施するのか/行動を起こさない場合、その理由は何か
森西正 無所属 回答なし 回答なし
福住礼子 公明 回答なし 回答なし
藤浦雅彦 公明 回答なし 回答なし
村上英明 公明 回答なし 回答なし
水谷毅 公明 回答なし 回答なし
南野直司 公明 「回答は控える」 「回答は控える」 「回答は控える」
安藤薫 共産
協議するべきだと考えます。
環境保全協定は1977年9月にダイキンとの間で締結されています。当時さまざまな公害が発生し、行政として対応が求められる中、摂津市でも「生活環境条例」が制定されました。同年3月条例制定の審議において、法のあみの目をくぐり抜ける公害があとを絶たない状況への対応を問われ、「法律や条例に上乗せできない公害については、環境保全協定を事業所と締結し、一定の義務を認識させることにより、運用面で拘束を持たせる」ことが理事者から答弁されています。環境保全協定は、このように法律や条例で規制されていない公害についても事業所に責任を果たさせるために締結されているものであり、第3条2項では公害対策の実施のために公害防止計画を定め、覚書を交わすことにもなっています。当時の覚書の項目にPFOAは入っていませんが、覚書第7条では、環境基準等の改正によって新たに定める必要が生じたときは事業所と協議を行うことにもなっています。PFOAという新たな公害への対応について、「住民の健康を保護し、良好な環境の保全を図る」という環境保全協定の主旨に基づき、協定第15条の「被害の補償」含め、ダイキンと協議を行うことは市の果たすべき義務だと考えます。(※1999年「摂津市環境の保全及び創造に関する条例」制定により「生活環境条例」は廃止)
行動を起こします。
国会・府議会等と結んで市議会での論戦で摂津市の姿勢を質していきます。市として、環境保全協定・環境の保全及び創造に関する条例の立場に立って、ダイキンと協議をするよう市長に申し入れを行います。また、情報提供を積極的に行い、住民運動とともに、市民の声を市に届け、市民の要望を実現するために力を尽くします。
野口博 共産
弘豊 共産
増永和起 共産
三好義治 民主
市民連合
協議するべきと考えません。法律にて規制も無いのが理由です。 行動を起こしません。 法律にて規制も無いのが理由です。
西谷知美 立憲 環境課の職員が対応すべき。窓口として対応し、大阪府と国とともに、安心して暮らせる環境作りに尽力すべき。 私個人としては、市民からの陳情をお聞きし、市議会全体として、また摂津市として、どう補償していくかを迅速に動きます。 特に、深刻といわれるエリアにお住まいの市民にヒアリング。健康被害についての調査等を実施するよう、国と大阪府に働きかけます。
塚本崇 大阪維新
上記事柄(=Tansaが示した取材内容)が事実であれば、住民への補償について、摂津市はダイキン工業と協議を始めるべきと考えます。
上記事柄が事実であれば、行動を起こします。
住民説明会等の開催を市に促す。
出口こうじ 大阪維新
三好俊範 大阪維新
香川良平 大阪維新
松本暁彦 自民 まず、質問状に記載されている「これに対しダイキンの平賀義之執行役員、小松聡化学事業 部・渉外専任部長、阿部聖広報グループ部長は6月7日、摂津市から要請があれば、協定に基 づき住民への補償について協議を始めると述べています。」について、市担当部署に確認したところ、そのような事実は無いという回答を受けています。次に、環境保全協定について、摂津市は昭和52年9月20日にダイキン工業(株)淀川製作所 をはじめ(株)エネゲートや芦森工業(株)大阪工場といった計38事業所と同日締結しています。(市資料「環境保全協定を締結している事業所名、所在地とそれぞれの締結年月日」より)そしてダイキン工業との覚書では、同協定の実施に関して必要な細目的事項について協議の上、合意したということで、「窒素酸化物」や「ばいじん」、「フッ素含有量」等の基準が示されていますが、PFOA・PFOS(以下PFOA等という)については記載されていません。また、同協定書には「公害が発生し、住民の健康及び財産に被害を与えたときは、その被害の補償を誠意をもって行うものとする。」とありますが、健康被害は把握されておらず、摂津市のPFOA 問題が「公害」として国又は裁判所等で認定された事実もありません。そのため、補償の根拠が不十分であり、同協定の協議を始めるには、PFOA等の不明点についてさらなる解明が求められる状況です。本市はPFOA等について、大阪府等を通じて国に対し、水環境全体の暫定的な目標値だけでなく、早期に人の健康(土壌や農作物を含む)への影響について、科学的な知見の集積に努めるとともに、調査研究及びガイドラインの作成を要望している状況です。このことは議会でも取り上げています。また注意しなければならないのは、議会で市が答弁しているように、根拠の不確かなうわさや 曖昧な情報によって地域において風評被害が生じている現状があります。不明確な情報のまま突き進んで、地域の方々に二重の被害を及ぼすことは避けなければなりません。 以上を踏まえ、補償協議のタイミングは今ではないものと考えます。繰り返しにはなりますが、 補償の根拠となるような国のPFOA等に関するガイドライン等(健康・土壌・農作物への影響) が、作成されることがまずもって求められるという状況です。 質問1の回答の通り、補償協議のタイミングは今ではありません。まずは、市から大阪府等を通じて、国にPFOA等の人の健康等への影響やガイドライン作成を早期に実現するよう促すことを、市議会からも継続して取り組むことが重要です。そのことが結果として、円滑に次の対応へ繋がるものと考えます。

質問1の回答の通りです。

光好博幸 自民 まず、認識として、「環境保全協定」は、摂津市域の大気の汚染、水質の汚濁、騒音、振動、悪臭等の現状及び 将来の動向を考慮して住民の健康を保護し、良好な環境の保全を図る為の協定である。これは、昭和50年代、社会的に公害が大きな問題となる中、その原因となる物質を規制する法律がなかったという背景もあり、摂津市と市内事業者が同意の上で、順次「環境保全協定」を締結しており、現時点で57社と協定を締結している。 この「環境保全協定」第15条の補償に関する記載には、「事業者は、事業場の操業に起因して公害が発生し、住民の健康及び財産に影響を与えたときは、その被害の補償を誠意をもって行うものとする」とある。この協定書を見る限り、今回の事案が、「公害」としてみなされるのか?が、ポイントの一つであると考えるが、現時点でPFOA汚染が「公害」であると認定された事実はないと認識している。今回のPFOAについては、公共水域等の基準として、令和2年5月に、水質汚濁に係る要監視項目に指定され、 河川や地下水などにおける暫定的な目標値(指針値)として、PFOA及びPFOSの合計値で1リットルあたり50ナノグラム以下というものである。 飲用水については、厚生労働省が令和2年4月からPFOA及びPFOSを水質管理目標設定項目に位置付け、 暫定的な目標値は、前述の公共水域等と同様に、PFOA及びPFOSの合計値で1リットルあたり50ナノグラム以下というものである。 尚、摂津市が供給する水道水については、定期的にPFOA及びPFOSの濃度測定を行っており、暫定目標値を超える数値は検出されていないと認識している。また、人の健康への影響については、各国・各機関で知見が集積されつつあるものの、国際がん研究機構(IARC) においては2B(ヒトに対して発がん性がある可能性がある)に分類されており、現時点で知見が十分とは言えず、国際的な評価や国際的に主要な評価機関による評価がなされていない状況である。 一方、現在は、土壌や食物(米、野菜等)に関する指針値等の基準はなく、水環境全体の暫定的な目標値しか基準がない為、摂津市として、国・大阪府に対し、早期に人の健康への影響について、科学的な知見の集積に努めると共に、調査研究及びガイドラインの作成等を要望している状況である。加えて、質問状に記載されている住民への補償について、6月7日にダイキン工業が述べたとされる「摂津市から要請があれば、協定に基づき住民への補償について協議を始める」との内容について、事実関係を摂津市の担当部署に確認したところ、「その様な事実はない」と伺った。2022年8月3日これらの状況を鑑み、ご質問の補償については、現時点でPFOA汚染が原因となる財産への影響を定量的に明らかにすることが困難であると考える故、土壌や植物等に関する基準値や影響等が明確となり、補償の根拠となる法整備がなされた時点で、法に則り、具体的に取り組む必要があると考える。 前述(質問1の回答)の如く、現時点において、PFOAの飲用水及び公共水域等の基準としては、暫定的な目標値に留まっており、法律にも規定されておらず、人の健康への影響についての国際的な評価もなされていない。 また、土壌や食物についても、指針値等の基準がなく、摂津市として、国・大阪府に対し、早期に人の健康への影響 について、科学的な知見の集積に努めると共に、調査研究及びガイドラインの作成等を要望している状況である為、行動を起こすのは今のタイミングではないと考える。現時点では、国や規制指導を所管する大阪府の動向を注視し、市議会としても、早期実現を促すことが重要であり、補償の根拠となる法整備がなされたタイミングが良いと考える。 前述(質問1及び2の回答)の如く、摂津市として、国・大阪府に対し、早期に人の健康への影響について、科学 的な知見の集積に努めると共に、調査研究及びガイドラインの作成等を要望している状況である為、今のタイミングで 行動を起こすのではなく、現時点では、国や規制指導を所管する大阪府の動向を注視し、市議会としても、早期実現 を促すことが重要であり、補償の根拠となる法整備がなされたタイミングが良いと考える。
嶋野浩一朗 自民 ダイキン工業と本市が締結している環境保全協定の対象にPFOAが含まれていないため、この協定を基に補償について協議をすることは適切でないと考える。
また、PFOAに関する規制において、水質については暫定の目標値は示されているが、土壌や健康被害についてはまだ明確な基準値も目標値も示されていない。この状況で「公害」と認定できるのかは疑問である。
当該地区の水路で高濃度のPFOAが検出されたことについて、ダイキン工業はその原因の所在を認めておられるので、調査が進み、水質以外でも基準等が明確に設定された際には住民への補償は検討されるものと考える。しかし現段階では当社に対して議員として何かを働きかけることはない。現在、摂津市として当該地区の農地で収穫された農作物のPFOA残留値についての調査の実施を大阪府に要望しており、また議長は議会を代表して政府にもこの件について調査を進め頂くように要望を行っている。このような行動を促すことが議会としての役割であると考える。

 

=つづく

(敬称略)

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