記録のない国

Tansaが岸田首相に行政不服審査請求/内閣法制局との国葬協議文書の廃棄・未作成で

2023年01月27日15時03分 渡辺周

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Tansaは2023年1月27日、岸田文雄首相に対して、行政不服審査法に基づいて審査請求を行なった。国葬実施の是非を官邸側が内閣法制局と協議した記録を、Tansaが情報開示請求したのに対して不開示決定したことへの措置だ。官邸側は、記録を作成していないか廃棄したという理由で、文書そのものがないと主張している。岸田政権は国葬実施の後で、有識者から国葬の妥当性についてヒアリングを行なったが、岸田首相の判断根拠についての重要な記録を示さないまま見解を求めたことになる。

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岸田首相の拠り所

発端は安倍晋三氏が殺害された6日後、2022年7月14日に遡る。岸田首相は記者会見で、安倍氏の国葬を実施すると表明した。安倍氏について「卓越したリーダーシップと実行力をもって、厳しい内外情勢に直面する我が国のために内閣総理大臣の重責を担ったこと、東日本大震災からの復興、日本経済の再生、日米関係を基軸とした外交の展開等の大きな実績を様々な分野で残された」と絶賛した。

これに対して朝日新聞の記者が、閣議決定で葬儀を行う場合、国会の審議は必要ないかと問うたところ、岸田首相は答えた。

「国の儀式として行う国葬儀については、閣議決定を根拠として、行政が国を代表して行い得るものであると考えます。これにつきましては、内閣法制局ともしっかり調整をした上で判断しているところです」

以来、国葬実施の根拠を問われると岸田首相は「法の番人」と言われる内閣法制局にお墨付きを得たことを強調した。9月8日の国会の閉会中審査でも、立憲民主党・泉健太氏が「国権の最高機関の国会に相談もなく決めたのはとんでもない」と質したのに対して言った。

「行政権の範囲内で、内閣法制局の判断もしっかり仰ぎながら、政府として決定した」

では内閣法制局の判断を、官邸側が仰いだのはいつか。Tansaがまず内閣法制局に情報開示請求したところ、7月12日から14日にかけてであることが判明した。内閣法制局側の「応接録」によると、この3日間で内閣法制局は、官邸側である内閣官房内閣総務官室、内閣府大臣官房総務課と協議している。つまり岸田首相は、内閣法制局との協議を終えたその日に記者会見を開き、国葬の実施を表明したのだ。

私的な記録か、記憶したか

では官邸側と内閣法制局は、7月12日から14日の協議で何を話したのか。その協議内容を記録した文書を、官邸側の内閣官房内閣総務官室と内閣府大臣官房総務課にTansaは情報開示請求した。結果は不開示だった。

内閣官房(松田浩樹・内閣官房内閣総務官決定)

「本件対象文書については、作成又は取得しておらず、若しくは廃棄しており、保有していないため不存在」

 

内閣府(原宏彰・内閣府大臣官房長決定)

「開示請求に係る行政文書を作成、取得しておらず、保有していない」

これは、明らかに虚偽である。情報公開法は、行政文書について以下のように定めている。

「この法律において『行政文書』とは、行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画及び電磁的記録であって、当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして、当該行政機関が保有しているものをいう」

この条文に沿えば、「文書を作成していない」という回答は、以下の二つしか考えられない。

  • 内閣官房と内閣府の担当者は、内閣法制局との3日間の協議内容を仕事ではなく私的に記録し個人で持っている。
  • 内閣官房と内閣府の担当者は、内閣法制局との3日間の協議内容を記録せず記憶した。

いずれもあり得ない。Tansaは1月27日、文書の未作成又は廃棄という理由で官邸側が不開示決定したことに対し、行政不服審査法に基づき、内閣総理大臣である岸田氏に審査請求をした。

公文書管理法違反というジレンマ

官邸側が文書の未作成または廃棄による不存在決定を行なっていること自体、公文書管理法に違反するというジレンマに陥っていることも指摘しておく。

文書の未作成については、同法の第四条に抵触する。

「行政機関の職員は、第一条の目的の達成に資するため、当該行政機関における経緯も含めた意思決定に至る過程並びに当該行政機関の事務及び事業の実績を合理的に跡付け、又は検証することができるよう、処理に係る事案が軽微なものである場合を除き、次に掲げる事項その他の事項について、文書を作成しなければならない」

「次に掲げる事項」は5項目あるが、閣議決定で実施された国葬に関する今回の文書は、四条の第二項に該当する。

「閣議、関係行政機関の長で構成される会議又は省議(これらに準ずるものを含む。)の決定又は了解及びその経緯」

内閣官房の方が不開示理由に挙げている文書の廃棄は、第六条に抵触する。

「行政機関の長は、行政文書ファイル等について、当該行政文書ファイル等の保存期間の満了する日までの間、その内容、時の経過、利用の状況等に応じ、適切な保存及び利用を確保するために必要な場所において、適切な記録媒体により、識別を容易にするための措置を講じた上で保存しなければならない」

有識者は協議内容不明のまま見解

岸田政権は公文書管理法に違反してまで内閣法制局との協議内容を隠蔽する一方、国葬への批判が多かったことを受けて、学者や新聞社の幹部ら21人の有識者にヒアリングを行なった。岸田政権が国葬実施の拠り所をした協議内容を示さないまま意見を聞いて、何の意味があるのか。国民を愚弄した茶番である。

審査請求の結果は出次第、報じる。

1月23日、国会で施政方針演説をする岸田文雄首相(首相官邸公式サイトより)

行政不服審査法に基づく審査請求書

内閣官房宛

 

内閣府宛

(※画像をクリックすると、文書を拡大したりダウンロードしたりできます)

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