誰が私を拡散したのか

Googleが児童ポルノ取引アプリを再掲載/奥山真司社長の無責任(11)

2023年04月27日13時40分 辻麻梨子

(イラスト:qnel)

児童ポルノや性的画像の売買に使われてきたアプリ「動画シェア」。いったんアプリを通じて動画が拡散されてしまえば、削除は追いつかない。同意がないまま、写真や動画をアプリに投稿された被害者は今も苦しみ続けている。自殺を図った女性もいた。動画の取引のほとんどは日本で行われている。動画シェアの制作者はWHISON GROUP LIMITEDという正体不明の会社だ。

この動画シェアを、Googleは「Google Play」というサイトに掲載していた。Google Playで提供している他のアプリと同様、Googleは動画シェアの制作者からもアプリ登録料と決済手数料を得ている。

私は昨年9月、Googleの日本法人である「Google合同会社」の奥山真司社長に被害防止の責任を問う質問状を送った。奥山社長は回答してこなかったものの、 その約1週間後にGoogle Playから動画シェアは削除された。

ところが昨年12月、再びGoogle Playに動画シェアが載っていた。

なぜ、こんなことが起きるのか。

犯罪への加担

動画シェアをGoogleが掲載するのは、犯罪への加担である。多くの児童ポルノや盗撮映像が売買されているからだ。リベンジポルノと思われる写真や動画も含まれている。世界中に多くのユーザーを抱え、「拡声器」の役割を果たすGoogleは、犯罪がもたらす被害を甚大なものにする。

私がGoogle合同会社の奥山社長に質問状を送ったのは、昨年9月5日のことだ。

内容は主に2点。①動画シェアで違法な児童ポルノなどが取引されていることを認識しているか、②それらに対処しているか。

約1週間後の9月13日、広報部からメールが届いた。回答期限の延長を求める内容だった。

一方で、動画シェアはこの日、Google Playから削除されていた。私が質問状の中で動画シェアへの対処を問うていたので、Googleが削除したのだろう。

ただ本当にGoogleが削除したのか、削除した理由は何なのかを確かめる必要がある。私は再び質問状を送った。

だが最初の質問への回答も、再質問に対する回答もないまま2022年が終わった。

名前を少し変えただけで審査を通過 ?

Google Playに、動画シェアが再び掲載されたことに私が気づいたのは、今年3月に入ってからだ。一体いつ掲載したのか。ウェブアーカイブなどを辿って調べると、2022年12月14日だった。

動画シェアでは、以前と同じように、児童ポルノなど犯罪性の高い画像が取引されていた。機能やデザインも同じだ。

アプリがGoogle Playに掲載されるには、Googleの審査を通過する必要がある。なぜ一度は削除された動画シェアが審査を通ったのか。

よく見ると、アプリの名前が動画シェアに「+」をつけた「動画シェア+」に変わっていた。

Googleは膨大な数のアプリを審査している。WHISON GROUP LIMITEDは、十分な審査ができないGoogleの弱点を突いてきたのではないか。

WHISON GROUP LIMITEDが一体何者かについては、取材を進めている最中だ。香港を始めとした海外に複数の拠点があるようだ。明らかになり次第、報じる。

内容証明で質問状を送ると

少し名前を変えられただけで審査を通してしまったGoogle。審査体制が脆弱だという事情はあるだろう。

しかしその根本には、事業に対するGoogleの責任感の欠如があると私は思う。

私がGoogleの奥山社長に質問状を送ったのは昨年9月5日のことだ。この時点で動画シェアで児童ポルノなどが取引されていることを指摘している。

ところがGoogleは12月14日、WHISON GROUP LIMITED制作の「動画シェア+」の再掲載を、やすやすと許してしまった。

私が「動画シェア+」の再掲載に気づき、3月22日に改めて奥山社長に質問状を出した後も無責任な対応だった。

今回は内容証明郵便で送付したからか、回答は3月29日の期日通りに返ってきている。回答が返ってくるのは初めてのことだ。

だがその中身は「個別のアプリや提供している事業者についてはお答えできない」というゼロ回答だった。以下、全文を掲載する。

お世話になっております。

Google 広報部です。

 

お問い合わせいただいた件につきまして、下記にてご返答差し上げますのでご確認ください。

 

Google では、信頼できるアプリをユーザーに届けられるように、ディベロッパー向けに Google Play ポリシーを策定しています。

 

この Google Play ポリシーには、不適切なコンテンツに関するポリシーも含まれ、例えば、ポルノなどの性的なコンテンツや性的満足を意図したコンテンツやサービス、報酬を見返りとした性行為を助長していると解釈されるおそれのあるアプリやアプリ コンテンツは認められません。その他のポリシーにつきましてはこちらでご確認いただけます。

 

Google Play ポリシーに違反している可能性があるアプリにお気づきになった場合は、当該アプリページの︙「その他のアイコン」> [不適切なコンテンツとして報告]よりご報告いただくようお願いしています。

 

また、Google は児童を危険にさらすアプリの使用を禁止しています。これには、児童に対する搾取行為を助長するアプリの使用が含まれますが、これらに限定されません。そのようなコンテンツを見つけた際には、こちらからご報告をお願いしています。

 

Google では、ユーザーやディベロッパーにとって安全で利便性の高い環境を構築するために、Google Play ポリシーも継続的に更新しています。最新の更新情報は、こちらからご確認ください。

 

なお、Google からは個別のアプリや提供している事業者についてはお答えできない旨ご理解ください。

 

以上です。どうぞ宜しくお願い致します。

 

Google 広報部

回答の無責任さもさることながら、より深刻なのは「動画シェア+」を削除しなかったことだ。

Googleという組織は一体どうなっているのか。私は日本法人の社員たちへの接触を試み、その過程で「動画シェア+」の悪質さを訴えた。

質問状を送付してから約1ヶ月後の4月26日、ようやくGoogleは「動画シェア+」をGoogle Play上から削除した。

被害画像はあっという間に拡散する。この間どれだけの被害が広まったのだろうか。

=つづく

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