ピックアップシリーズ

違法漁業でインドネシア人船員ら10人が死亡 獲ったマグロは日本向け 水産庁と輸入業者は十分な対策取らず

2023年05月17日13時07分 アナリス ガイズバート、渡辺周

遠い海のマグロ漁船の中で、人身売買で集めた船員らを酷使し、死なせる違法な漁業が行われていました。

2019年から2020年にかけて、中国の水産会社「大連遠洋」が運営するマグロ漁船で、10代~20代のインドネシア人の乗組員ら10人が亡くなったのです。休息やまともな食事を与えられない「奴隷労働」の末、深刻な病気になっても十分な治療を受けられませんでした。

遠洋マグロ漁船「ロンシン629」のインドネシア人乗組員=韓国のキム・ジョンチョル弁護士、ロンシン629の乗組員提供

世界が対策を急ぐIUU漁業

大連遠洋に船員たちを派遣したインドネシアの人材会社の社員は、人身売買の罪によりインドネシアの裁判所で有罪判決を受けています。こうした違法な漁業のほか、無報告や無規制で行われる密漁などはIUU漁業(Illegal, Unreported and Unregulated Fishing)と総称されます。IUU漁業は乗組員の安全や健康を損なうだけでなく、水産資源管理の観点からも問題視され、世界で対策強化が進められています。

大連遠洋の船が漁獲していたのは、刺身用のメバチマグロとキハダマグロでした。主な流通先は日本です。

この50年間で日本のマグロ遠洋漁船は、約1000隻から200隻にまで激減しました。乱獲による漁獲量の低迷や公海漁業規制強化の影響、燃料費等の経営コストの増大、漁業就業者の減少や高齢化が理由です。

しかし日本国内のマグロ消費量は相変わらず高く、世界の刺身用マグロの8割を占めるほどです。このギャップの一部を、中国企業の漁船での「奴隷労働」が埋めていました。

日本の消費者がマグロを求め続けた結果、インドネシアの若者たちの命が奪われた。マグロビジネスの実態を報じたシリーズ「日本が食った『奴隷』のマグロ」のこれまでの記事はこちらからお読みいただけます。本シリーズはアメリカのメディアMongabayと環境問題の探査報道ネットワークEnvironmental Reporting Collectiveとのコラボレーションによるものです。取材協力 Basten Gokkon、 Philip Jacobson (Mongabay)

違法な労働環境 スプーン1杯の水しか飲めず

2019年12月、大連遠洋のマグロ漁船「ロンシン629」(全長48m、502t)は太平洋のサモア近辺の地域で操業していた。船長らは中国人、船員は19~34歳のインドネシア人たちだ。

航海を始めてから10カ月が経ち、船員同士は家族のように仲良くなっていた。

25歳のセプリは、秋ごろから体調を崩し始めた。同じ船室でセプリのことを弟のように思っていたのがベルナルデュス・マテゥルボン(当時34)だ。ベルナルデュスはセプリの症状が心配になった。顔色が悪く食欲がなくなっていく。スプーン1杯の水しか飲めない。薬を飲ませても効果がない。ベルナルデュスは、セプリをほとんど眠らずに看病した。

12月21日朝、セプリの容態が悪化した。ベルナルデュスら船員仲間が、セプリがトイレに行くのを手伝わなければならなかった。

トイレからベッドに戻ると、セプリは意識を失った。1時間ほどして、セプリは息絶えた。仲間によると、セプリはコーヒーやタバコが大好きで、いつもニコニコしていた。

ベルナルデュスはその時のことを思い出して言う。

「セプリが死んだ時、泣きじゃくった。耐えられなかった。どうすれば良いか全くわからなかった」

12月21日午後9時、セプリの遺体は海に葬られた。中国人船長が決めた。ベルナルデュスたちは反対だったが、命令に違反すると給料を減らさせる。抵抗できなかった。

家族のように仲良くなっていたロンシン629の乗組員たち。エフェンディ(右から3人目)は後に亡くなってしまう=韓国のキム・ジョンチョル弁護士、ロンシン629の乗組員提供

死者が出ても港に向かわず

船員の死亡は続く。

セプリが亡くなった6日後の12月27日、19歳のアルファターが死亡した。アルファターら重病の乗組員数人を港に寄って下ろすため、ロンシン629から大連遠洋の別の船に乗り換えさせた直後だった。遺体はセプリと同じように海に葬られた。

年を越し、2020年になってロンシン629に残った乗組員の間では、容態が悪化する患者が続出した。症状はみな同じだった。まずは足がむくみ、それが身体中に広がる。乗組員たちはロンシン629の船長に頼んだ。

「どこか港に寄ってほしい。病院で治療させてほしい」

これまでも何度かお願いしてきたが、船長は聞き入れてこなかった。乗組員の我慢は限界に達し「反乱を起こす」とまで言い出した。

3月27日、ロンシン629のインドネシア人全員が大連遠洋の別の船「ティアンユー8」に乗り換えさせられた。その船を韓国のプサン港に向かわせた。

しかし、遅すぎた。

3月29日、アリが乗り換えたばかりの「ティアンユー8」で死んだ。仲間によると、アリは物静かな男だった。

翌日の午前7時には、アリの遺体も海に葬られた。オレンジ色のシートにくるまれた棺桶が、青い海に沈んでいった。

オレンジ色のシートにくるまれたアリの遺体が、海に葬られる直前の様子=韓国のキム・ジョンチョル弁護士、ロンシン629の乗組員提供

乗組員たちが釜山港から韓国に上陸できたのは、2020年4月24日のことだ。セプリがロンシン629の乗組員として初めて死亡してから、4カ月以上が経過していた。

釜山に着いてからも死者は出た。4月26日、高熱を出したエフェンディ・パサリブ(21)が病院に運ばれ、翌日に死亡した。一つの船から4人の死者が出た。

ロンシン629でいったい何があったのか。

セプリ(左)とアリは大連遠洋のマグロ漁船で亡くなり、遺体を海に葬られた

24時間休みなしで労働

ロンシン629では、1日平均の労働時間が16~18時間という状態だった。宗教で定められた休日でも、ほとんど休みがなかった。

作業は夜中2時に始まる。朝10時までの8時間、延縄を仕掛けるチームが、大きな延縄にぶら下がる6000本の針に餌をつけて海に下ろす。延縄の設置が朝10時に終わった後は、延縄を回収するチームに交代する。夜8時ごろまで縄を巻き上げ、マグロを船に引き揚げる。

だが乗組員が足らない。そのため、延縄を仕掛けたチームの半数が回収チームにも参加する。つまり、午前2時から午後8時まで働く。

仕事は延縄の設置と回収だけではない。乗組員たちはマグロを加工する仕事もする。内臓やエラをとって血を洗い流し、船の冷凍庫に保管する。

24時間以上、休みなしで働くこともあった。乗組員のリズキー・アルビアン(当時27)がいう。

「仕事が一番きつかったのは、マグロがたくさん獲れた時だ。回収を午前10時に始めて、翌日の午後4時まで仕事を続けることがあった。すごく辛かった。船長はマグロをとることしか考えていないみたいだった」

長い労働時間にもかかわらず、十分な食事は与えらなかった。米はあったものの、おかずの量は少ないことが多く、みなで一口ずつ分け合った。消費期限の過ぎたものもあり、マグロの餌を食べさせられたことまであった。

飲料水も酷かった。中国人の乗組員たちはペットボトルの水を飲んでいた一方で、インドネシア人たちは船で蒸留した蒸留水。塩辛い味がし、鉄の臭いがした。

「海の上じゃなかったら逃げるなあ」

ほとんどのインドネシア人乗組員にとって、マグロ漁船は初めてだった。乗船前の研修を受けた人は少なかった。延縄など漁具の使い方さえ分からない。

現場を管理する中国人の上司が中国語で指示してもインドネシア人乗組員には通じない。上司は仕事が遅いと怒ってアザができるほど殴った。中国人の乗組員はその上司以外に7人いたが、誰も止めに入らなかった。

台湾の漁船で働いたことのあるリズキーは、経験の浅い乗組員たちをできるだけ守ろうとした。

ある日、経験の浅いアリと中国人の上司がケンカになった。頭を殴られたアリが殴り返したのだ。だがインドネシア人の乗組員は、上司とケンカをしたら給料は払わないという契約を結ばされている。リズキーはアリを必死に止めた。

リズキーがいう。

「みんな、ロンシン629での生活が大嫌いで、帰りたかった。みんな『周りが海じゃなかったら逃げるなぁ』って言っていた」

ロンシン629ではインターネットもつながらない。だが、2019年の秋の日にチャンスがきた。ロンシン629に燃料を補給しに来たタンカーのインターネットに、数分間だけ接続できたのだ。

ヌル(当時19)はその時、母にメッセージを送った。インドネシアを2019年2月に出発して以来、初めてのやりとりだった。

母からは「元気?」とすぐに返事がきた。

ヌルは「今、漁船で働いているよ」と答えた。心配させたくなかったので、船の現状は伝えなかった。

「人身売買」で有罪判決

過酷な労働を強いるマグロ漁船に、インドネシア人船員たちを乗り込ませたのはインドネシアの人材派遣会社だ。

人材派遣会社はまず、船が出発する港までの飛行機代や、船に乗るまで滞在する寮の費用を名目に借金を負わせる。その上で契約書に署名させ、借金を返さない限り仕事を辞められないようにする。

ヌルは、地元を出て仕事を探そうと友人5人と人材派遣会社へ行った。

人材派遣会の寮で2カ月寝泊りした後、会社の事務所に連れて行かれた。そこですぐ、契約書に署名しろといわれた。

不安になったヌルたちは、戸惑った。だが人材派遣会社の担当者は迫る。

「君たちはすでに借金している。寮代と食事代だ。飛行機のチケットも買ってしまった。契約書に署名しないなら、返さなければならない」

ベルナルデュスは、船が出発する前日に人材派遣会社に呼び出され、その時に契約書を初めて見せられた。月給は300ドル(約3万2000円)。インドネシアの平均月給は約200ドルだが、思っていたより低く労働時間も長い。交渉してみたが、こういわれた。

「署名しなかったら、借金を返さないといけない」

「飛行機のチケットだって買ってある。キャンセルしたら、2000万ルピア(約15万円)の借金を返さないといけなくなる。返せなかったら、警察が捕まえに来る」

インドネシアの裁判所は2020年12月から翌年5月にかけ、ロンシン629に船員を送り込んでいた派遣会社3社の社員5人に「違法募集」や「人身売買」の罪で有罪判決を出した。いずれも執行猶予のない懲役で、1年4カ月から4年半だ。

大連遠洋の船では他にも死者が出ている。私たちの取材では、ロンシン629の4人を含めて少なくとも10人に上っている。大連遠洋はMongabayの取材依頼に応じなかった。

大連遠洋の船で獲ったマグロの主な行き先は日本で、取引していたのは三菱商事とその子会社だった。

なぜ三菱商事グループは大連遠洋と取引するようになったのか。今回のインドネシア人船員の死亡事件についてどう対処したのか。

大連遠洋のマグロを購入していた東洋冷蔵の施設=静岡県清水港、2020年12月9日撮影

大連遠洋の「唯一の日本の取引先」

三菱商事は大連遠洋と、2020年4月まで取引をしていた。三菱商事グループの購入額は一時期、大連遠洋の収入の7~8割に上った。

2014年、大連遠洋が香港市場に上場するための新規株式公開資料が公表された。大連遠洋は2000年に銀行や輸出ビジネスを営む中国の富豪財界人が設立。「世界最大の遠洋漁獲会社」を目指していた。

資料には、大連遠洋の船が漁獲するマグロについて、こう書かれていた。

「高級刺身として使われるプレミアムマグロの漁獲・販売は当社のビジネスの中心になっている。2011~2014年度上期には、当社が漁獲したマグロを、主にプレミアムマグロの世界一の市場である日本に販売した」

資料によると、大連遠洋は、別の日本の輸入業者からの誘いもあったが断った。三菱商事グループとは大連遠洋の設立当初から取引をしており、その関係について次のように書いている。

「当社は東洋冷蔵との良好な取引関係を大切にしている。したがって、マグロを日本の他の輸入業者に販売しないことを決定」

東洋冷蔵は三菱商事が95%出資している子会社で、日本のマグロ輸入の最大手だ。日本への唯一の販売先が、三菱商事グループだったのだ。

資料には東洋冷蔵との2011年度から2013年度の取引額も載っていた。

・2011年度 約27億円(大連遠洋の全収入の80.4%)

・2012年度 約35億円(同73.9%)

・2013年度 約43億円(同72.0%)

東洋冷蔵1社で7〜8割。これらは大連遠洋にとって、東洋冷蔵とのビジネスがいかに重要かを示している。

大連遠洋の事務所=2021年1月、取材パートナーが撮影

日本の胃袋を満たすには

なぜ、三菱商事グループは大連遠洋からマグロを買うようになったのか。背景には日本のマグロ漁船の激減と、衰えない日本のマグロ消費量が関連している。

1970年代に約1000隻あった遠洋マグロ延縄漁船は、2020年には200隻を切るまで減った。漁獲量の低迷や燃料費の高騰、国際規制の強化が進む中、人件費が安い外国漁船との競争に勝てなくなってきたのだ。

その一方で、日本市場は今も世界の刺身用マグロの約8割を消費する。高い値段で販売されているクロマグロがよく知られているが、スーパーなどの売り上げの多くをメバチやキハダが支える。大連遠洋が獲っているマグロだ。

船員の背中にうじがわいて

三菱商事グループにマグロを売るようになって、大連遠洋は急ピッチで成長する。2000年にマグロ漁船3隻しか持っていなかったが、2020年には太平洋、大西洋、インド洋で35隻の延縄マグロ漁船を運営するまでになった。東洋冷蔵にマグロを提供していた日本の会社から、11隻の船を買い取ったこともあった。

大連遠洋の急成長の裏には、インドネシア人船員らの酷使があった。記事前半で船員4人が死亡した「ロンシン629」の事例を詳報したが、大連遠洋の船では計10人が命を落とした。7人はインドネシア人だが、フィリピン人2人と中国人1人も含まれている。

大連遠洋のほとんどの船で、18時間以上の労働、暴力や脅迫、食事や水をまともに与えないことが日常となっていた。取材パートナーのMongabayや本部をロンドンに置く環境NPO「Environmental Justice Foundation」が、大連遠洋の14隻の元乗組員たちを取材し判明している。

2018〜2020年の間に大連遠洋の船で働いていた乗組員への、人権侵害事例(カッコ内は船名)は以下の通りだ。

10人が死亡した事例

・中国人船員1人が怪我を負ったが、船長に頼み込んでも港に運んでもらえず死亡(ロンシン621)

・フィリピン人1人が、背中にうじがわくほど症状が進行し死亡(大連遠洋のどの船かは不明)

・インドネシア人2人が、病状が悪化し死亡(ロンシン629、ティアンシアン16)

・インドネシア人1人が、息が苦しくなった末に海に飛び込んで死亡(ティアンユ8)

・フィリピン人1人が死亡。遺体が数カ月間、船の冷凍庫に保管(ロンシン905)

・本記事で報じたロンシン629のインドネシア人4人

暴力・暴言事例

・乗組員の仕事が遅い時、上司が背中をロープで鞭打った(ロンシン628)

・船員の1人が性暴力を受けた。もう1人は口から血が出るまで殴られた(ディアンシャン8)

・出港して間もない、仕事に慣れていない時期、上司によく怒鳴られた (ロンシン607 )

食事・水に関する事例

・水には時々藻が入っていて、黄色く濁っていた。チキンは6年前に加工されたもので、腐ってぬるぬるだった(ロンシン625)

・十分な食事を与えられず、一皿のおかずを数人で分け合わなければならないこともあった(ロンシン611)

労働環境

・48時間働いたことがあった。2〜3時間しか寝られなかった (ロンシン622)

・24時間以上働くことがあった(ロンシン601)

・仕事に必要な手袋や長靴などの装備を支給してもらえなかった。手袋に穴が空いてもそのまま、長靴は足に合わなくてもはかされた(ディアンシャン8)

その他

・港に戻ったとき、中国人の乗組員は下船し休みをとったが、インドネシア人は下船できず他の船に移動させられた(ロンシン601)

・契約書で約束された給与をもらっていない(ロンシン606など)

・船長が乗組員のパスポートを保管していた(ロンシン630など)

「海外報道で知った」三菱商事

大連遠洋が船員たちを奴隷のように働かせていたことを、三菱商事グループは知らなかったのだろうか?

大連遠洋と三菱商事グループが2013年8月に交わした覚書には以下の内容が含まれている。

「プレミアムマグロ市場の需要と供給の傾向を話し合うため、定期的な会議を設ける」

「東洋冷蔵は、大連遠洋の船長らに対して、マグロの加工・冷凍・保管に関する研修プログラムを定期的に提供する」

つまり、大連遠洋と三菱商事グループには「定期的な会議」や「船長らへの研修」があり、情報をやりとりしたり、コミュニケーションを取る機会があったということだ。

静岡県清水港のマグロ水揚げの埠頭に向かっている東洋冷蔵のトラック=2020年12月9日撮影

Tansaは三菱商事の広報部に取材した。

――大連遠洋の船での人権侵害について知っていましたか。

「知りませんでした。2020年5月頃の(海外の)報道で初めて知りましたが、報道内容以上のことは承知しておりません」

「2020年4月を最後に、それ以降現在に至るまで大連遠洋との取引はなく、また今後の取引も予定していません」

――取引先の人権侵害を防ぐ対策はとっていましたか。

「当社は、漁業者である漁船船主との直接的な対話を通じ、サステナビリティや労働人権等に対する考え方を確認し、また意見交換する場を設けています」

「サプライヤーの皆様と共有している『持続可能なサプライチェーン行動ガイドライン』の実践状況を把握するため、2017年より、環境・社会性面の配慮が強く求められている商品を取り扱うサプライヤーに対して、アンケート調査を毎年実施しています。引き続き継続・強化していくつもりです」

――大連遠洋の事件を受けて、対策を具体的にどのように強化していくつもりですか。

「現時点で当社としてこれ以上お答えできることはありません」

三菱商事が人権侵害を防ぐ対策を取っていたというが、大連遠洋の船員が命を奪われる事態にまで発展した。

「違法」に人権侵害が入らない日本

船員の24時間を超えるような長時間労働を防止し、上司からの暴力や病気から守る方法はあるのか。

アメリカは2021年5月、強制労働を理由に大連遠洋が漁獲したマグロの輸入を禁止した。

日本の水産庁は、洋上転載をした外国マグロ漁船の情報を、輸入の際に漁船ごとに提出される資料で詳細に把握している。しかし、アメリカのような行政措置を取っていない。

2020年に施行された「水産流通適正化法」もある。違法に漁獲された水産物の流通を防止するため、適法に漁獲されたことを示す外国の政府機関発行の証明書や取引記録を電子化するいう内容だ。世界中で人権侵害や乱獲といった「違法漁業」を撲滅する機運の高まりを受けて作られた。

ところが、この法律は特定の魚種に関する資源管理に焦点を当てており「人権」を考慮していない。水産庁資源管理部国際課の伊藤鋼平課長補佐は、Tansaの取材にこう答える。

「現時点において、日本では米国のように、強制労働により製造された商品の輸入を禁止する法制度が整備されているわけではありません」

一方で日本の遠洋マグロ漁の業者では、今回の大連遠洋の船でのインドネシア人船員らの死亡事件を受け、船員の人権を守るための活動に取り組み始めた人たちもいる。

若手のマグロ・カツオ漁船の船主らでつくる団体、「全国鰹鮪近代化促進協議会」は2021年8月19日、「日本かつお・まぐろ漁業協同組合」に申し入れをした。水産流通適正化法で輸入マグロを厳しくチェックするよう、組合から水産庁や経産省に要請してもらうためだ。

申し入れをした全国鰹鮪近代化促進協議会の会長、臼井壮太朗は遠洋マグロ漁船を7隻持ち、インドネシア人の船員も雇用している。臼井の船では、Wi-Fiを完備して船員たちが外部と連絡を取れるようにしている。大連遠洋の船でインドネシア人船員らが死亡したと知った時は、涙が出た。

臼井はいう。

「人権を守らない労働がアメリカなど外国では違法でも、日本では違法ではない。だから大連遠洋が獲ったようなマグロが輸入されてしまう」

清水港で運搬船から水揚げされる冷凍マグロ=2021年1月26日撮影

本記事はシリーズ「日本が食った『奴隷』のマグロ」を抜粋しています。続きはリンク先のページよりお読みいただけます。事実関係は取材時点で確認が取れたものです。

ピックアップシリーズ一覧へ