保身の代償 ~長崎高2いじめ自殺と大人たち~

県から長崎新聞への安定収入 –共同通信編(7)

2023年05月26日20時00分 中川七海

長崎県政を担当していた長崎新聞の記者・堂下康一は、知事の中村法道を「後押ししたい」と思っていたことを、中村が知事を引退する際の記事で吐露した。

実際、堂下は福浦勇斗(はやと)のいじめ自殺事件への対応で県を擁護する記事を書いた。知事の記者会見で、県のトップとしての見解を問うた、共同通信の記者・石川陽一を「記者クラブの問題になる」と恫喝した。

だが堂下だけが、県との距離が近かったわけではない。長崎新聞自体が、県との濃い利害関係をもっていた。

そのことを、石川は文藝春秋から出した書籍『いじめの聖域 キリスト教学校の闇に挑んだ両親の全記録』で指摘した。

2022年11月14日、石川を聴取していた共同通信の法務部長・増永修平は、県と長崎新聞の利害関係を著書で突いたことを問題視する。

「多額の金銭をやり取りしている相手だからこそ」

石川は本で、2021年度に長崎県から長崎新聞に約900件の支払い履歴があったことを挙げ、次のように書いた。

「長崎新聞が勇斗の件で、なぜ県に追従するような態度を取ったのか、その真意は分からない。ただ、一般市民は新聞社の内部的な仕組みなんて詳しく知らないのだ。多額の金銭をやり取りしている相手だからこそ、不祥事を起こした際は厳しい態度で追及していかなければ、『スポンサーに忖度しているのだな』と読者に受け取られかねない。もしそうなれば、余計に見放されてしまうだろう」

「利害関係がある相手を批判する内容であれば、マスメディア企業は平気で黙殺を試みる恐れがある」

増永は、石川への聴取の中でこれらの記述を俎上に載せた。

「『利害関係がある相手を批判する内容であれば、マスメディア企業は平気で黙殺を試みる恐れがある』ということを書いてある。直接的な表現は非常に巧妙に避けているけれども、これを普通の読み方をすると、『長崎新聞は県からこれだけ支払いを受けているから、長崎県のことを忖度して書かないことがあるんですよ』と。『だからみなさん知ってくださいね』と書いているように読まれる」

増永は石川を責めようとしているものの、本で石川が書いたことの主旨は理解できている。

長崎新聞が、勇斗のいじめ自殺事件への県の対応に関し、批判記事を書かなかったことは事実だ。石川は、その背景に県と利害関係があることを著書で指摘したのだ。

県からの広告掲載料、6年間で2億4千万円超

長崎新聞が県から受け取った金銭について、石川の著書では2021年度分の支払い件数だけが載っている。他の年はどうだろう。私は、勇斗が自殺した2017年度から2022年度までの広告掲載料を調べた。

2017年度 59件 3053万3666円

 

2018年度 48件 2554万1194円

 

2019年度 52件 2343万1405円

 

2020年度 68件 5895万8641円

 

2021年度 71件 5755万2476円

 

2022年度 66件 4644万7円

6年間の合計は、364件、2億4245万7389円に上る。広告費だけでも、長崎新聞は県から毎年安定した収入を得ていることがわかる。主に、県の施策を周知するために支払われていた。

長崎新聞も他県の新聞社と同様、経営は苦しい。県からの安定的な収入は貴重だ。いかに県と良好な関係を築いていくかは、重要な課題なのだろう。長崎新聞社長の徳永英彦は自社のウェブサイトで、大学や企業、就職活動についての情報紙「NR」を県と協力して創刊したことを、代表あいさつの中でアピールしている。

「人口減少による地方の疲弊が進んでいます。特に長崎県は人口流出が激しく、働く場の確保、地域コミュニティの維持など課題が山積しています。そんななか、長崎新聞社は若者の県内定着を図ろうと、長崎県などと協力して2017年9月、大学・企業・就活情報紙『NR』を創刊しました。魅力ある県内の大学、短大、企業などの情報を県内すべての高校・高専、大学・短大生に届ける前例のない取り組みが評価され、『日本タウン誌・フリーペーパー大賞』の新創刊部門で最優秀賞を受けました。これからも時代のニーズに合った魅力的なコンテンツを開発、提供し、長崎県の情報産業の中核企業として努力を続けてまいります」

長崎新聞の徳永英彦社長=長崎新聞公式ウェブサイトより

=つづく

(敬称略)

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