Tansaユース合宿

Tansaユース合宿がスタート 第1期生は中高大学生など10人

2022年08月05日17時45分 辻麻梨子

Tansaは6月に、「第1期Tansaユース合宿」を開講しました。「Tansaユース合宿」とは、記者や研究者、一般市民に対して探査報道の手法やマインドセットを伝える「Tansa School」を、若者向けに再構成したプロジェクトです。

今、「探査報道について教えて欲しい」とTansaの門を叩く10代・20代が増えています。学校の授業の一環であったり、将来ジャーナリストになることを目指していたりと目的はさまざまですが、背景にあるのは既存メディアへの違和感です。

私たちは、問題意識を明確に持ち、社会を今より良くしたいと志す若者にとって探査報道が一つの手段となるよう、このプロジェクトを始めました。

面談を経て選抜された受講生が、それぞれの問題意識に沿ったテーマで、Tansaのサポートを受けながら約9カ月間の探査報道に取り組みます。

第1期生に選ばれたのは、中高大学生など10人です。今回は6月25日と26日の2日間にわたり、東京で行われた初回合宿の様子をリポートします。

自己紹介のワークショップに取り組む受講生

「怒り」が取材の原動力

1回目の合宿は、自分の取材テーマを決めることが目標です。

合宿に先立ち、受講生には課題として800字の作文を提出してもらいました。題は「最近怒りを感じたこと」としました。

ここでの作文に書いてもらう怒りの体験とは、個人的に腹が立ったことではありません。身近な出来事をきっかけに、その背景にある社会の歪みや不条理に気がついた時に湧き起こる「公憤」のことです。

公憤は、探査報道の原動力になります。

誰のために怒るかも重要です。ただ取材相手を懲らしめたい、という気持ちでは独善的になってしまいます。そんな時に考えるべきなのは、「犠牲者は誰か」という問いです。犠牲者とは、強い力に虐げられ、健康や生活、人権などを脅かされている人たちのことです。

Tansaでは常に、取材の目線を強い力に虐げられている犠牲者の側に合わせます。

受講生はこの課題に対し、それぞれの答えを出しました。

情景が浮かぶまで具体的に書く

高校1年生の熊谷沙羅さんは、ベネズエラ出身で、最近日本に帰化した父親が受けている扱いについて書きました。23年間日本に住んでいる熊谷さんの父親は、現在でも警察の職務質問を受けることが多いといいます。その度に、パスポートを見せ、わざわざ日本人であることを証明しなければなりません。しかし一般的な日本人がパスポートを持ち歩くことは稀です。熊谷さんは、「日本人になりたくて長く難しい帰化の作業を終えたのに、日本人だと認めてくれないのが、悲しい」とまとめました。

高校3年生の石原花梨さんは、「許可制の校則」に疑問を感じました。石原さんの通う高校の生徒は、リュックサックを使用する際や習い事に通う際などに、学校に申請書を提出することが求められています。ほとんどの生徒が何かしらの申請をしており、学校側は誰が申請をしていて、誰がしていないかも確認できず、制度が形骸化しています。

Tansaの渡辺周編集長は受講生の作文に対し、「具体的に書くこと」をアドバイスしました。作文も探査報道の記事も、相手の心に響くよう伝えることが大切です。その時の情景が思い浮かぶような描写や具体的な数字を書き込むことで、読者を引き込む文章になります。

また特別講師として参加した依光隆明さんは、「無理に結論付けなくても良い」と話しました。結論にもっともらしいことを書いてしまうと、急に自分の文章表現ではなくなり、説得力が落ちてしまうためです。

「何が書いていないか」を見つける

探査報道の必要性を学ぶためのディスカッションも実施しました。題材は、大阪地裁で下された「同性婚を認めないのは合憲」という判決について報じた新聞記事です。新聞記事はあらゆる情報を網羅していると思いがちですが、書かれていないこともたくさんあります。

とくに、取材が足りず記事に書けなかったことは、調べるとニュースになる可能性があります。そこでディスカッションでは、記事に不足している情報は何か、意見を出し合いました。

中学3年生の熊谷大輔さんは、保守系議員が「合憲でよかった」とコメントしている部分に着目。判決に反対する議員は名前を出してコメントしているのに、賛成する議員は記事中では匿名であることを指摘しました。

この記事の書き方について、大学2年生の成毛侑瑠樺さんは、「名前が出ないので、保守系議員を安心させる記事だと感じた」と話しました。

唯一、社会人として参加した20代の今井直人さんは、初めは記事を読んでもとくに疑問を抱かず、納得してしまったといいます。ディスカッションを通して、抜け落ちている点が多くあることに気づきました。

3月に探査報道の成果を発表

そのほか、それぞれのテーマに対するディスカッションや、インタビューの手法などを学び2日間の合宿が無事終了しました。

合宿後、受講生から届いたコメントの一部を紹介します。

・取材をされる体験をしたことで、話を聞きながらメモをとることの難しさや、情報の収支を意識するのが、印象に残りました。

・相手に面白く話をする時のように、具体的でシーンがイメージできるような記事を書くということが印象に残った。

・新聞を意識せずに読むと、無意識で話題を整理したり、自分が分かりやすいように意訳しながら読んだりしていることに気付いた。

受講生はこれから、それぞれのテーマを元に、実際に調査や取材を始めていきます。Tansaは毎月のオンラインミーティングや、残り2回の合宿を通し、受講生をバックアップします。

ベテラン記者でも高いスキルが必要とされる探査報道に、若者たちが挑戦します。その様子を随時リポートしていきますので、ぜひ応援をお願いします。

 

✳︎このプロジェクトは、公益財団法人ウェスレー財団とNPO法人まちぽっとからの助成を受けて実施しています。

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