
イラスト:qnel
2024年4月6日、TansaとNHKスペシャル「調査報道・新世紀」取材班は、ハワイに到着した。
マレーシア在住の新田啓介が、「アルバムコレクション」を譲渡したというハワイの「Eclipse Incorporated」(以下イクリプス社)の正体を掴むためだ。
イクリプス社の社長として登記されているのは、William Leal(以下ウィリアム・リール)。どんな人物なのか。
出国前、NHKのリサーチャーが、今は米国外に住むウィリアムの父親の連絡先を把握した。父親にメールでウィリアムの近況を尋ねたところ、ウィリアムは日本で母親と住んでいて、父親に対しては「イクリプス社ではもう働いていない」と言っているという。
だが、息子が今は日本にいてイクリプス社で働いていないとしても、父親はイクリプス社の関係者について、知っていることがあるのではないか。
ハワイに到着した私たちは、まず父親に電話をかけて、取材のためハワイまで来たことを伝えた。
父親はイクリプス社の背景を語り始めた。
Tansaの記事を真剣に受け止めない息子
「ウィリアムと話をして、できるだけ早くハワイに行ってイクリプス社を閉鎖しなさいとアドバイスしました」
電話口で父親は切り出した。
「私はウィリアムにTansaの記事のスクリーンショットを送ったけど、彼は真剣に受け止めていないと思う。メールで会社を閉めたのか?って尋ねたけど、ただ『わかった、わかった。いずれにしても、誰にも話すなよ』という感じだったんだ」
確かに私たちがハワイを訪れた時点で、イクリプス社の登記は変更されていなかった。ウィリアムの名前がそのまま残っていた。
ところが父親の話の続きから、別の人物の関わりが発覚していく。
「その子は私の長男の友達だった。ある日長男に電話をしてきて、会社の登記をしてくれる人が必要なんだと言ったんです。それで長男は自分は無理だと断った。でも『弟が東京にいるよ』とその友達に伝えました」
その会社が、イクリプス社だったという。
「ウィリアムはそのためだけに東京を離れて、ハワイに行ったんだと思う」
「それがウィリアムとアルバムコレクションの関わりの始まりだったんです」

ウィリアムの父親と電話で話す取材班=2024年4月8日NHKスペシャル「調査報道・新世紀」取材班撮影
クレジットカード番号盗難で逮捕
ウィリアムにハワイ行きを依頼した兄の友人は何者で、なぜウィリアムに頼まなくてはいけなかったのか。
父親は言う。
「その人物はハワイで、レストランのウェイターの友人と一緒になって、客のクレジットカード番号を盗み、5万ドルほど稼いだらしい」
実際、その人物は窃盗などの容疑で、ホノルル警察に逮捕されていた。FBI(米連邦捜査局)の捜査対象にもなっていた。
名前は「Shaun Hart(以下ショーン・ハート)」という。
米国で指名手配
ショーンはその後、裁判が開かれる前にハワイから逃亡した。2018年のことだ。
ショーンは逮捕された際、米国のパスポートを押収され、足首には位置情報を把握するためのGPSが取り付けられていたという。
にもかかわらず逃亡を可能にしたのは、日本のパスポートだと考えられる。
父親によると、ショーンの父親は米国人で母親は日本人だ。そのため、ショーンは米国と日本、両方のパスポートを所持していた。
「そしてFBIも関わった。彼は逮捕されたと言いましたが、日本のパスポートの提出は求められなかった。そして母親と一緒にGPSの付いたアンクルブレスレットを切断して、東京に飛んだ」
確かに、ショーンの名前を調べてみると指名手配された情報が複数見つかった。現地のメディアは、窃盗などの容疑で起訴されていたが、所在地がわからなくなっていると報じている。
米国の麻薬取締局には、違法薬物の所持の罪状でもショーンの指名手配情報が掲載されていた。
近隣住民「たびたび警察が家に」
逃亡中のショーンは、ハワイに帰れない。だから学生時代の友人であるウィリアムの兄に、ハワイでの会社設立や銀行口座開設を頼んだ。そう考えれば筋は通る。
私たちはショーンについて、ハワイで取材することにした。
ショーンとその家族の情報は、公的機関の記録などから把握した。話を聞こうと、記録に残っている過去の住所を当たった。いずれも住人が不在か、すでに出ていったと教えられた。
だがそのうちの一つで、近所に住むという女性に声をかけると、ハート一家について覚えていることがあった。
「家族の怒鳴り声が聞こえて、たびたび警察が家の前にきていました」
公的な記録によると、父親である米国人の人物は薬物犯罪で逮捕されているほか、妻と息子からは複数回の接近禁止命令を出されている。身体的暴力などの被害者を加害者から守るために出されるもので、裁判所の命令だ。
ショーンがイクリプス社の設立手続きをウィリアムに依頼したことが事実であれば、イクリプス社には、罪を犯し、逃亡中の人物が関わっていたことになる。
そんなイクリプス社が運営していたアルバムコレクションは、児童ポルノなど、違法画像の取引による手数料で収益を上げていた。
=つづく
敬称略
(7月12日訂正)
7月11日にリリースした本記事で、ショーン・ハート氏を逮捕したのはFBIと記述していました。FBIは捜査には加わっていたものの、逮捕したのはホノルル警察でした。本文を訂正しました。
またショーン・ハート氏が母親への接近禁止命令を出されたと記述していましが、誤りでした。ショーン・ハート氏の父親に対して、妻と息子への接近禁止命令が出されていました。そのため、本文と中見出しを訂正しました。
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