人質司法 なぜ労組は狙われたのか

犯罪者に仕立て上げられるか、嘘の供述をするか/関生支部を告訴した経営者の無念【作られた関西生コン京都事件 -前編】

2025年02月24日 19時00分  渡辺周、中川七海

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京都市上京区にある京都府警察本部

2025年2月26日、生コン産業の労働組合「関生(かんなま)支部」に対する弾圧事件が山場を迎える。

京都での関生支部の労組活動に対し、検察が湯川裕司委員長に懲役10年を求刑した事件の判決が出るのだ。

懲役10年の求刑は、近畿一円の関生支部への弾圧事件の中で最も重い。罪状は、生コン業者の経営側に対する「恐喝」や「強要未遂」。検察は、関生支部が経営側を「畏怖させた」と主張している。

しかし、関生支部はストライキなど労組活動を実行したに過ぎない。憲法で保障された活動だ。犯罪にはならない。

実際、和歌山での労組活動が「強要未遂」などに問われた事件では、大阪高裁で無罪判決が出た。和田真裁判長は「憲法28条の団結権等の保障を受け、これを守るための正当な行為は、違法性が阻却される」と述べた。検察は憲法の壁を前に上告できず、無罪が確定した。

ではどうやって、京都での関生支部の活動を犯罪に仕立て上げたのか。警察と検察が用いたのは、「究極の人質司法」と言うべき手法だった。

判決を直前に控え、2回に分けて詳報する。

後部座席にパンをいっぱい積んで

鍵を握るのは、久貝博司氏という生コン会社の経営者だ。京都の業者でつくる協同組合の役員として、業界の発展に尽力してきた。

労組の関生支部とは、二人三脚で歩んできた。それには理由がある。

生コン業界は、大企業であるセメント会社とゼネコンに挟まれる存在だ。セメント会社は、生コンの原料であるセメントを高く売ろうとする。ゼネコンは生コンを安く買おうとする。小さな会社が多い生コン業界は利益を確保するため、協同組合を作って値段の交渉をする。

しかし、協同組合には入らない生コン会社もある。これを、協同組合の外という意味で「アウト社」と呼ぶ。アウト社は抜け駆けして生コンを安売りし、仕事を取ろうとする。アウト社が多くなれば、生コンが値崩れする。業界全体が低迷する。ミキサー車の運転手をはじめ、業界で働く人たちの賃金も下がる。関生支部は、アウト社に対して協同組合に加入するよう働きかけてきた。

労組である以上、賃金や労働条件をめぐり経営側が作る協同組合と交渉するし、ストライキも実施する。だが、セメント会社とゼネコンの狭間で足元を見られるのが生コン業界だ。大きな相手と渡り合っていくために、労使で協調してきた。

久貝氏は京都の協同組合の役員を長年務めた。関生支部のメンバーとは親しく、一緒にスキーに行ったりジャズバーで一杯やったり。久貝氏は自身もジャズベースを弾ける腕前で、バーでよく演奏して聴かせた。美味しいパン屋を見つけたら、そのパンを車の後部座席いっぱいになるほど買って「これおいしいで、食べや」と関生支部に持ってきた。

久貝氏が特に親しかったのが、京都エリアの担当をしてきた現委員長の湯川氏だ。京都の生コン業界を労使共に潤わせようと互いに知恵を絞った。

厳しい局面を乗り越えなければならない時が幾多とあった。それでもユーモアを忘れない久貝氏の姿を、湯川氏は覚えている。

久貝氏が「ポケモンGO」にハマっていた時期があった。現実の世界と仮想空間を重ね合わせ、ポケットモンスターというキャラクターを街なかで探すゲームだ。ある時、久貝氏が湯川氏に電話してきた。

「お前の家の近くにポケモンおるから、今から行こう思うねん」

「わしはそんなもんに屈さへん」

関生支部との協力が功を奏し、京都の生コン業界が安定してきた矢先のことだった。

2018年春から、久貝氏が京都府警・組織犯罪対策第一課から取り調べを受けるようになった。自宅や久貝氏の会社にも家宅捜索が入った。京都地検も取り調べに加わった。

警察・検察の捜査の建前は、関生支部との「共犯関係」を立証することにあった。経営側の人間でありながら、久貝氏が関生支部と結託して京都府内の生コン業者を恐喝したという構図だ。

ところが、警察・検察の本当の狙いはそこにはなかった。久貝氏に、「関生支部から脅された経営者」としての役割を演じさせることにあった。関生支部の共犯者であるという口実で久貝氏の捜査に着手。その後、久貝氏に関生支部を裏切らせ、被害者の立場に転じさせて関生支部への告訴状を出させる。その告訴状を受けて、関生支部への捜査に入っていくというシナリオを描いていたのだ。

2018年春のこの時期、湯川氏は久貝氏と会っている。湯川氏が逮捕される前のことで、久貝氏は湯川氏をはじめ関生支部に警察・検察の矛先が向かわないよう踏ん張っていた。

「相手は事件を作ろうとしている。でも大丈夫や。わしはそんなもんに屈さへん」

京都府警への供述調書で「深く反省」

だが警察と検察の取り調べは執拗だった。久貝氏は毎週のように聴取に呼ばれた。任意の聴取なのに、1回あたり5時間、長い時で7時間に及んだ。

2018年12月27日、久貝氏は担当取調官である府警組織犯罪対策第一課の物部誠警部補に対し、自分は被害者である旨を供述すると共に、捜査が始まった当初の自身の警察への態度を謝罪した。

「自宅や会社への捜索では、携帯電話を隠しました。関生支部と私のやりとりを知られたくなかったからです。証拠の隠滅と言われても仕方ありません。反省しています」

2019年夏には、久貝氏が理事を務めていた「京都生コンクリート協同組合」(京都協組)が、湯川氏と前委員長の武建一氏を恐喝で刑事告訴した。

解決金とは

京都協組が出した告訴状の対象は、2つの事件だ。

一つは2014年8月の通称「ベストライナー事件」。ベストライナーというミキサー車を手配する会社が解散する際、従業員の退職金や正社員化の約束を果たさなかった賠償金として、京都協組が関生支部に1億5000万円の「解決金」を支払った。ベストライナーは京都協組が設立した会社で、久貝氏も取締役を務めた。

もう一つは2016年11月の「近畿生コン事件」。京都協組加盟の近畿生コンが突然、破産申し立てをしたのを受け、6000万円の「解決金」を京都協組が関生支部に支払った。破産手続き中の従業員の給料や、近畿生コンの工場が京都協組に加盟していない「アウト社」に渡らないよう関生支部が占拠したことへの対価だ。占拠が必要だったのは、アウト社が操業すると、生コンの安売り合戦が始まりかねないからだ。京都協組と、労働者の賃金水準を維持したい関生支部双方の利益にかなう。占拠自体、未払いの賃金や退職金を確保するために労組がとる手法だ。

ここで「解決金」について説明しておく。

解決金は、企業が労働者に対して損害を与えた場合に支払う。解雇や倒産に伴う解決金が多いが、当該労働者への差別があった場合やセクハラでも支払われてきた。

例えば石川島播磨重工業は、労組活動をしたことや共産党の支持者であることを理由に168人の従業員を差別し、2007年に解決金を支払った。当時の朝日新聞と毎日新聞によると、金額は約10億円だ。

金額はケースにより様々だが、民営化に反対した労組員のJR不採用問題では、904人分の解決金として計約199億円が支払われた。

法廷で検事の顔色をうかがった久貝氏

解決金の支払いは、経営側と労組側の問題処理として何ら問題がない。

しかもベストライナー事件が起きたのは、久貝氏らの京都協組が告訴状を出す5年前、近畿生コン事件は3年前だ。本当に「関生支部に脅された」という認識があるならば、すぐに被害を訴えていたはずだ。それどころか、久貝氏は二つの「事件」があった後も、関生支部と連携していた。

立件するにはあまりにも無理筋だが、警察と検察はあきらめない。こう考えていたはずだ。

何としても「ベストライナー事件」と「近畿生コン事件」を立件する。関生支部にかけた容疑はいろいろあるが、両事件は恐喝としての捜査だ。関生支部のリーダーである湯川委員長を長期間服役させることができる。そうすれば、関生支部の組織を壊滅させられる。そのためには、「関生支部に脅されてはいない」と主張する久貝氏を落として、被害者にするのだーー。

だが、どうやって警察と検察は久貝氏を籠絡したのか。2018年春に捜査が始まった当初は「相手は事件を作ろうとしている。でも大丈夫や。わしはそんなもんに屈さへん」と湯川氏に言っていた。

久貝氏は2024年5月に亡くなった。癌を患い、闘病の末のことだった。Tansaは、複数の生コン業界の関係者から生前の久貝氏の証言を得た。久貝氏は警察・検察の取り調べについて、次のように語っていた。

「『あなたの会社や生活基盤など、どうにでもできる』と言われた」

「関生支部を守るようなことを言っていると『このままだと、あなたを逮捕するしかない』と迫られた」

「あそこまで圧力かけられたら、自分ではどうにもできない。湯川くんにはすまんことをした」

これらの証言を裏付けるような行動を、久貝氏は公判中に見せた。

2022年の第4回公判のことだ。久貝氏は証人として、湯川氏側の永嶋靖久弁護士から尋問を受けていた。質問に答える形でベストライナー事件の経緯を説明している際、永嶋弁護士から注意される。

「証人にお願いなんですけれども、証言をする際に、証言の途中で検事さんの顔を見て検事さんの表情を確認するのはやめてください。お願いします」

自身が犯罪者に仕立て上げられるか、嘘の供述をするか。「究極の人質司法」に怯える久貝氏の姿が、そこにはあった。

畝本直美検事総長と楠芳伸警察庁長官は

Tansaは、検事総長の畝本直美氏と、警察庁長官の楠芳伸氏に以下の質問状を送った。

京都生コンクリート協同組合(以下、京都協組)を被害者とする事件についてです。この事件では、京都協組理事の久貝博司氏を被害者として捜査が進められました。しかし久貝氏は当初、被疑者として取り調べを受けています。当方の取材によると、久貝氏は京都府警の取り調べで「このままでは逮捕せざるを得ない」「あなたの生活基盤はどうにでもなる」などと言われて、恐喝事件の被害者としての立場に転じました。公判でも被害者として証言しましたが、検察官のストーリー通りに証言するよう検察官から言われています。

 

久貝氏に被害者としての証言を強要したことは、事件のでっち上げに当たると考えますか。でっち上げには当たらないと考えますか。理由と共に教えてください。

だがまともな回答は返ってこなかった。

最高検察庁企画調査課企画係

「個別の事件にかかわることなので、お答えは差し控えます」

警察庁広報室

「個別の事件に関わることなので、お答えは差し控えます」

=後編につづく

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