リーダーの先輩たちが次々に逮捕、次世代を担う時に見えた関生の強さ/関生支部執行委員・平田郁生さん<関西生コン事件・証言#4>
2025年03月12日 12時12分 渡辺周、中川七海
逮捕・勾留された関生支部の組合員は、その多くが幹部だ。警察・検察の狙いが、組織の壊滅にあったからだ。
次々と組合員が抜けていく。残された組合員は、リーダーたちが不在の日々を耐え忍ぶ。平田郁生さんはその一人。弾圧の渦中、役員に就く決断をする。
平田さんは京都大学を卒業後、闘う労働組合に惹かれて関生支部に加入した。次世代にわたり貫きたいのは、「労働者の生活を守る」という原点だ。
働く人の生活基盤を守る運動の強さ
バリバリの理系でした。小学生の時からアインシュタインの「相対性理論」に興味を示していましたね。
京都大学では理学部の地質学鉱物学教室で学びました。抽象的な理論よりも具体的なものがいいと考えたんです。フィールドワークにもよく出かけました。
在学中の2011年に東京電力福島第一原発の事故がありました。当時、改憲や安保法制反対などいろいろな社会運動をしていて、原発再稼働反対の運動にも加わりました。でも原発は止まりませんでした。
そういう状況の中で、後輩が関生支部の存在について教えてくれました。すごく強い労働組合で労働者の権利をしっかり守っていると。
2017年に関生支部に加入しました。当時は大型免許を持っていなくてミキサー車を運転できなかったので、誘導の仕事なんかをやっていましたね。その年の12月にはストライキを経験しました。
関生支部に実行力があるのは、労働者の生活を守っていることが大きいと思います。生活の基盤を守ること自体が運動であって、その上にいろんな活動が乗っかってくるんで、やっぱり強いなと思いましたね。日々雇用の先輩が「俺は学校で勉強なんかしたことないけど、関生に入って労働運動の勉強をしてみると面白いもんやなぁ、だってこれ俺らのことやんか」と言っていた。僕にはすごく新鮮で感動したんです。
反原発や改憲反対などの運動で率先して活動する人には、仕事を引退して自由な時間がある。ある程度の年金もある。子育てや仕事で日々追われている人は、運動はできないですよね。生活困窮者も増えている中で、社会運動をしている人は高齢者が多いというのはある意味当たり前です。
萎縮に「やばい」
2017年に関生支部に加入して、翌2018年から弾圧が始まりました。やっぱり権力は組織をよく見ているから、キーマンになる人から順番に逮捕していくわけです。そうするとリーダーシップがなくなっていく。こんな状況でどういう方針を組織として打ち出していっていいか、難しいんだろうなと末端から見ていて思いました。
弾圧が始まった頃、京都と滋賀の大津エリアを担当するブロック長が「俺もやられるかもしれん。それでも自分たちの運動に自信持ってやっていたら絶対大丈夫や」とゲキを飛ばしたことがありました。ところがそのブロック長は逮捕されると、組織を去ってしまった。ゲキを飛ばしていた人がコケたというのは、ちょっとショックでした。
リーダーたちが逮捕され、残された組合員たちはすごく萎縮していた。これはやばいなと思いました。
弾圧が始まって1年が経った2019年11月に、僕は役員に選ばれました。当時の副委員長から「平田君、次の役員にどうや」って話があったんです。
それまで僕は「ここでやられたら行動を仕掛けなあかん」とか、いろんな声をあげてきたんです。でも、関生に入ってきたばかりのペーペーの言うことなんて全然通らないわけですよ。だから打診があった時、役員になりたいと思った。この状況でちょっとでもモノを言っていける立場になりたいと思いましたね。
ひどくなり過ぎた状況では闘うしかない
現実の壁ってすごく厚いですよね。ちょっと頑張ったくらいでは、世の中ってなかなか変わらない。
世の中に馴染んで生きていくこともできるかもしれません。でもそれでは、本音を語れない。
関生支部の仲間といると、自分を飾らずに素で付き合えるし、信頼関係を築くことができる。こういう弾圧された組織にいるっていうのは、大変なことではある。でも、何の偽りもなく真っ当に活動できるという感覚を持っています。
若い世代を巻き込みながら活動を続けていく上では、まずは労働組合が労働組合としての役割を果たす存在であり続けること。それが最低限のスタートラインだと思います。闘うことで、ちゃんとした賃金と労働条件を確保している。その実態がものすごく大事です。運動をどう広めるかということもあるんですが、まずはこの実態を絶対に守らなあかん。
どんどん状況がひどくなってきているんで、楽観視は全くしていませんが、逆にひどくなりすぎたら闘うしかありません。いいことを、ちゃんとやり続けることですよね。それなくしては、僕たちの活動を評価してくれる人に巡り合うこともないと思っています。
【取材者後記】現場の「肌感覚」を求めて/編集長 渡辺周
平田郁生さんの半生を振り返った時、そこには「肌感覚」を求めて現場へ、現場へと身を投じていく思い切りのよさがある。
小学生の頃から、天才物理学者のアルベルト・アインシュタインの相対性理論に興味を示していたという。高校卒業後は京都大学の理学部に進んだ。
在学中に東日本大震災が起きた。核エネルギーの可能性を見出したアインシュタインの理論とは裏腹に、原発は事故で福島の人たちの暮らしを奪った。原発反対運動をはじめ様々な活動に参加した。
それでも物足らない。為政者たちは日本の社会運動など存在しないかのように原発稼働を復活させ、憲法を無視して戦争ができる国へと突き進んでいく。
関生支部を知った時、「この人たちとは何の偽りもなく真っ当に活動できる」と感じた。さらに現場へ。生コンのミキサー車に乗るため大型免許をとった。
平田さんの気持ち、分かるなぁと思う。私たちジャーナリストも、肌感覚を求めて現場に赴くからだ。
関生支部は「反社会的勢力」のレッテルを警察と検察に貼られ、世間からは心無い誹謗中傷が浴びせられた。だが私が今、関生支部の人たちが世間が貼ったレッテルとは対極の存在にあることを確信しているのも、「現場に行ってみよう」と会いに行ったからだ。「お前、ちょっと鼻声やな、風邪ひいたんか」と後輩を気遣う先輩、事務所の建物は古くても清潔なトイレ。関生支部のチームとしての強さを物語るような細部も、現場に行ったからこそ知ることができた。
嬉しいのは、平田さんが次世代を担う存在だということだ。暮らし向きがどんどん悪くなり、自由にモノも言えない。閉塞感が漂う時代にあって、逆に「闘うしかない」と言い切るのが頼もしい。
「人生、楽しんでます」と言う平田さんに、悲壮感はない。まずは現場に飛び込んでみれば道が開ける。平田さんのこの感覚を、一人でも多くの人に味わってほしいと願っている。
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