人質司法 なぜ労組は狙われたのか

保育所に出す就労証明書、会社に求めたら「強要未遂」で逮捕 裁判官は「労組法は分かりません」/関生支部執行委員・安井雅啓さん<関西生コン事件・証言#9>

2025年04月16日 17時07分  渡辺周、中川七海

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関生支部の活動の主眼は、労働者の暮らしを守ることだ。賃金の交渉はもちろん、ハラスメントに遭っていないか、休暇はしっかり取れているかと幅広く目配りする。困っている労働者がいれば、経営者側に赴いて交渉に入る。

京都の生コン会社で、関生支部に加入したミキサー運転手がいた。例年は、子どもを保育所に預けるための就労証明書を発行してくれていた。だが関生支部に加入した途端、就労証明書を出さなくなった。

就労証明書を出すよう経営者との交渉にあたったのが、安井雅啓さんだ。

ところが、安井さんは「強要未遂」に問われた。交渉に臨んだ他の組合員とともに、京都府警に逮捕されてしまった。

その後に待っていたのは、無知な裁判官による勾留決定、刑務官による拘置所での嫌がらせだった。

態度が変わった立川英樹検事

2017年、京都府木津川市の村田建材に、ミキサー車の運転手が就労証明書の発行を求めたところ拒否されました。それまでは毎年、子どもの保育所に提出する就労証明書を出してもらっていました。でも2017年に彼が関生支部の組合員になると、断られたんです。

僕や関生支部の仲間が、その運転手のために村田建材の経営者との交渉に当たりました。しかし、経営者は就労証明書の発行に応じません。「就労証明書がなくても保育所には入れると市の担当者が言っていた」と言うので、経営者の前で木津川市の「こども宝課」の担当者に電話し確認しました。さらに経営者にもこども宝課に電話して確認するよう求めました。すると、経営者は電話中に急に「体調不良」を訴えて救急車を呼び、ぐったりとなりました。

ここまで経営者を追い込むのは「やり過ぎ」ということで、私は2019年6月に逮捕されました。結局、就労証明書の発行には応じなかったので、「強要未遂」に問われました。

一審の京都地裁では懲役1年執行猶予3年でしたが、こんなん罪になります? 急にぐったりしたのなんて仮病に決まってるじゃないですか。

そう思っていたら、案の定、大阪高裁は「就労証明書の作成を拒むことができなくなって、村田建材は追い詰められていた。仮病を疑ったのは無理もない」と判断しました。僕は村田建材との別のやり取りで30万円の罰金になり、これはこれでおかしいのですが、就労証明書の交渉は罪になりませんでした。一緒に交渉した同僚も無罪です。

大阪高裁の判決が出た後、別の関生支部の事件で京都地裁に傍聴に行った時のことです。僕の取り調べをした立川英樹検事が声をかけてきました。「元気にしてますか? 実は僕も安井さんと同じ地域に住んでるんですよ」って。

僕を取り調べていた時と明らかに口調が違いました。高裁での判決が影響したんでしょうね。調子いいですよね。立川検事も「こんなん事件にならん」と思っていて、後ろめたかったんやなと感じました。

友延裕美裁判官「労組法は勉強しておきます」

結局、家宅捜索や逮捕、勾留は関生支部を弱体化させるためにやっていたんです。犯罪の立証が重要なのではありません。嫌がらせです。

家宅捜索では、僕が家にいない間に警察が来たことがありました。妻が対応したんですが、幼い子どもが別々に寝ていると、それぞれの部屋に行くんです。必要ないと妻が止めても、捜査員は行きよるんです。妻のタンスの中も開けた。

取り調べでは「当時の武委員長と湯川副委員長が全部悪い、あなたは悪くない」という分断作戦でした。関生支部を潰すためには、トップを潰さなあかんということでしょうね。

京都拘置所では「おい」か「285番」と呼ばれていました。

刑務官に随分嫌がらせをされました。点呼の際には「畳の2本目の線に合わせるんじゃ、ボケ」と言われました。パンを申し込む時は、マークシートに記入して注文するんですが、何度も「記入の仕方がおかしい」と言うんです。どこがおかしいか尋ねても教えてくれず、当初はパンが食べられませんでした。

勾留中は就寝時間と昼休憩以外は横になれない。横になったら怒られるんです。坐骨神経痛になりました。運動すると言っても、外へ出て壁にボールを投げるだけです。有罪が確定しているわけじゃないのに、あの扱いは絶対におかしい。「未決勾留」ってなんやねん。

一番印象に残っているのは、勾留理由の開示公判です。検察が勾留を請求したとしても、承認するのは裁判官なんですが、なぜ承認したかを公判で明らかにするよう求めることができます。

友延裕美裁判官は、こちらの弁護士が労働組合法のことを説明している時に「よく分からない」って平気で言うたんですよ。「勉強しておきます」って。

むちゃくちゃ腹が立ちました。傍聴席は「何を言うてんねん」とざわつきました。

体を張るのは関生だけ

逮捕・勾留されても、関生支部を辞めようと思ったことはありません。辞めたら今まで自分がやってきたことを否定することになるからね。自分が悪いことをしたのなら納得いくけど、納得いかへん。間違いなく。家族も理解してくれています。僕が組合に入ってなかったら、今の安定した生活もなかったからね。

これくらい体を張って労働者の権利を守るというのは、もうウチしかない。だから、弾圧されるんです。関生支部は絶対に必要ですよ。ウチがなくなったらすごい状況になるんとちゃいます?

労働組合というのは、1人ではできんことを可能にするからね。悩まずに相談するとか、組合に加入して一緒に闘うとか、「どうせ無理やろう」と諦めずに一歩を踏み出してほしいです。

【取材者後記】関生が「頼りになる存在」であり続ける理由/編集長 渡辺周

インタビューを始める直前まで、安井さんは労働相談を受けていた。

相談者の中には、労働者の権利を知らないまま、苦境に陥っている人が多い。12時間働いても8時間の賃金しかもらっていない。そんなケースがザラだという。

だがなぜ、関生支部に相談に来る労働者が絶えないのだろうか。警察と検察からは犯罪者扱いされ、世間では「反社会的勢力」のレッテルが貼られている。普通は人が寄り付かなくなるはずだ。

答えは、安井さんの「これくらい体を張って労働者の権利を守るというのは、もうウチしかない」という言葉にあると思う。安井さん自身、組合員が子どもを保育所に預けて働けるようにするため、文字通り体を張った。

労働者の権利を知るための勉強も必要だが、一番大切なのは、権利を勝ち取るための闘争力だ。そこに「頼りになる存在」であり続ける真因がある。

非正規雇用の割合はこの30年で、4割に倍増した。経団連が大企業の利益追求のため、自民党に政治献金をしてきた結果だ。

日本では正社員しか加入できない「企業内労働組合」が主流だ。かつてなく、関生支部の重要性が増している。

明日、大阪高裁で判決

4月17日、大阪高裁で安井さんたちの判決公判がある。

大阪高裁では2021年12月にも判決があった。一部無罪だった。

2023年9月には最高裁で公判があったものの、最高裁は結論を出さず、大阪高裁にもっと調べを尽くすよう審理を差し戻した。明日は大阪高裁での2度目の判決ということになる。

結果が出次第、詳報する。

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