人質司法 なぜ労組は狙われたのか

保育所に出す就労証明書を会社に求めただけ、なぜ「完全無罪」にならないのか 最高裁に忖度の大阪高裁 関西生コン事件

2025年04月17日 19時29分  渡辺周、中川七海

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あるミキサー運転手が、生コン会社で日雇いの仕事に就いてから5年が過ぎていた。その間、娘が生まれた。妻と共働きだったが、暮らしは苦しい。正社員になりたいと思った。

労働組合の関西生コン支部に加入した。組合員たちと共に、正社員になる交渉を会社とするためだ。

会社側は信じられない行動に出た。子どもを保育所に預けるために必要な、就労証明書に押印しないのだ。

それまでは毎年、証明書に押印していた。会社は労組嫌い。関生支部に入ったことへの嫌がらせだった。当然、関生支部の組合員たちは抗議した。

ところが組合員たちは逮捕・勾留され、裁判で「強要未遂」に問われてしまったーー。

2025年4月17日、その結果が大阪高等裁判所で出た。

判決は、運転手のために抗議した2人の組合員のうち、1人は無罪だが、もう1人は有罪。

どう考えても「完全無罪」にもかかわらず、なぜ中途半端な判決になったのか。

仮病疑惑

2017年10月から12月、京都府木津川市の生コン会社「村田建材」と、関生支部の組合員たちとの間で起きた一件が、裁判の対象になった。

10月16日、関生支部は村田建材に対し、ミキサー運転手が組合に加入したと通知。非正規雇用から正社員にするよう要求した。以後交渉には、関生支部執行委員の安井雅啓氏と、組合員の吉田修氏らがあたった。村田建材側は、取締役の村田保美氏が対応した。

すると村田建材は、運転手が求める就労証明書に押印しないと言い出した。運転手は娘を保育所に預けるため、11月中には市役所に証明書を提出しなければならない。安井氏と吉田氏は、村田氏に対し、就労証明書に押印するよう求めた。

しかし、村田氏は就労証明書への押印に応じない。

11月27日のことだ。

村田氏は、「就労証明書がなくても保育所を利用できる」と市役所の担当者が言っていた、と語った。そこで吉田氏は、その場で市役所の担当課に電話し、就労証明書が必要であることを確認。さらに村田氏にも担当課に電話するよう促し、村田氏は担当者から就労証明書が必要な旨を告げられた。

すると、村田氏はその電話の最中、突然体調不良となり、ぐったりした。救急車を呼ぶ事態になった。安井氏と吉田氏は「急にそんなん、なるわけない」と仮病を疑った。

警察を呼んだ村田建材

その後も村田氏は、就労証明書への押印に応じない。

12月4日、安井氏が関生支部の組合員と共に、村田建材の事務所を訪れた。だが村田氏は、「全てを弁護士に任せることにした」と言って、取り合わない。安井氏は就労証明書の用紙を机に置いて、指で叩きながら「何が弁護士や、関係あらへんがな。(就労証明書を)書いてもらわなあかん」と言った。

このやりとりの間、村田建材の従業員が安井氏らをスマホで盗撮していた。安井氏は、就労証明書の用紙を机に叩きつけて怒った。

安井氏が、もう1人の組合員を部屋に残して外に出ると、警察が来ていた。部屋に戻って安井氏は、警察を呼んだことと盗撮について、村田氏に謝罪するよう求めた。

その日以降も就労証明書に押印するよう求めたが、結局、村田氏は最後まで拒んだ。

判断が変遷した裁判所

一連の経緯に関し、裁判所の判断は分かれた。

2020年12月17日の京都地裁は、村田氏が急に体調不良を訴えた日に着目。「体調不良に陥っていることが明らか」なのに、「執拗に要求した」と判断し、脅迫であると認定した。安井氏を懲役1年(執行猶予3年)、吉田氏を懲役8カ月(執行猶予3年)とした。

2021年12月13日の大阪高裁は、村田氏が急に体調不良を訴えた日の評価を変えた。「(村田氏への役所職員の説明により)村田建材が就労証明書の作成等を拒むことが困難になるという、状況的に追い詰められた際の突然の出来事」と捉えた。

その上で「仮病を疑ったことは無理からぬ面がある」と判断。吉田氏を無罪とした。安井氏に関しては、村田建材が警察を呼んだ日の抗議は行き過ぎだと認定し、罰金30万円とした。

その後、裁判は最高裁に移った。だが最高裁は自ら判断を下さず、大阪高裁に審理を差し戻した。

「最高裁の顔を立てたんか! 」

そして今日、大阪高裁での2度目の判決が出た。

村田氏が急に体調不良を訴えた日については、安井氏と吉田氏が罪に問われることは何もないと断じた。

しかし、村田建材が警察を呼んだ日について、石川恭司裁判長は「社会通念上、受忍すべき限度を超えている」と述べた。吉田氏はその日は同席していなかったので無罪だったが、安井氏は懲役6カ月(執行猶予3年)とした。

京都地裁は、村田建材に就労証明書を出す義務はないし、安井・吉田両氏の行為は執拗で犯罪に当たると判断していた。

それに比べれば前進している。だが1回目の大阪高裁判決と比較すれば、最高裁に差し戻された後の2回目の高裁判決は後退している。

判決後、法廷に怒号が飛んだ。

「最高裁の顔を立てたんか! 誰が考えても完全無罪やろ! 」

石川裁判長は傍聴席を見つめたまま、呆然とその言葉を聞いていた。

閉廷後、安井氏と吉田氏が取材に応じた。

安井雅啓氏

「吉田さんが無罪になったことは嬉しい。7割悔しくて、3割嬉しいという心境です。石川裁判長とは最後に目が合いましたが、『本当は無罪判決を出したかった』というような顔をしていました。でも最高裁の手前、どうしても有罪にせなあかんということでしょう」

吉田修氏

「安井さんが有罪だったので嬉しくありません。関生支部は『反社会的勢力』という色眼鏡で見て、我々の労働組合としての活動を理解していない。私たちは、村田建材で働いていた運転手とその妻から相談を受けて、彼を正社員にしてあげたいと思った。目的は彼の家庭を守ること、純粋にそれだけだったんです」

安井氏は最高裁に上告し、無罪獲得を目指す。

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