人質司法 なぜ労組は狙われたのか

妊娠中に迫られた「関生を続けるなら会社辞めて」 それでも留まり弾圧裁判を記録した日々/関生支部組合員・川西杏奈さん<関西生コン事件・証言#14>

2025年05月21日 19時05分  渡辺周、中川七海

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懲役10年を求刑された湯川裕司委員長に、京都地裁で無罪判決が出たのは2025年2月26日の午前10時過ぎ。朗報は関生支部組合員やその家族、支援者たちを駆けめぐった。

川西杏奈さんはその時、大阪市内にある関生支部事務所にいた。他の組合員は出払っており、一人で留守番だ。

事務所で待つ川西さんに、仲間たちが次々に「無罪やで! 」と連絡してくる。涙が出た。身重で法廷に傍聴に出かけ、裁判の内容を記録した日々、仲間たちの裏切り・・・。いろいろなことがあった。

どんなに警察や検察に標的にされても、一点の曇りもなく関生支部で活動してきた。組合員だった父の姿を見てきたし、我が子にも自信をもって自分の行動を示している。

『かわいそうなぞう』を読んで

小学校1年生の時、学校の図書館でたまたま『かわいそうなぞう』という絵本を読みました。戦争中、空襲で檻が破壊されたらゾウが逃げる。危ないからという理由で、上野動物園のゾウが殺されるというお話です。それを読んで嗚咽をあげて泣きました。絵本を読んだ後、まもなくして湾岸戦争があって、「もう絶対に戦争は嫌や」と思いました。

父が関生支部の組合員でした。労働組合って、賃金や労働条件を上げることだけではなくて、反戦運動にも取り組んでいることを知りました。自分もそういう運動に取り組みたいなと思うようになり、大人になってから関生支部に入りました。

子どもは小学3年生と4歳の娘、3歳の息子がいます。『かわいそうなぞう』を読み聞かせています。

長女は内容をしっかり理解できているので、「戦争が嫌や」とずっと言っています。自宅の前を、関生支部のデモ隊が労組の旗をピラピラさせながら「戦争やめろ」と通ることがあります。長女はベランダに走って出ます。デモ隊が通った道を歩く時は、彼女自身も「戦争やめろ」とか言って歩いていますね。

湯川委員長の「おいでや」

2人目の子を妊娠していた時、「関生支部での活動を続けるなら会社を辞めてほしい」と勤務先の会社が考えていることを知りました。関生支部が弾圧されている最中のことで、組合員がいることでその会社も捜査対象になることを恐れていたようです。そこには他の組合員もいたんですが、自分たちの身を守るために組合を辞めていきました。

私は組合を辞める気はなかった。でも2人目の子がお腹にいる状況で、「これからどうしたらいいんやろ、今から仕事も見つけられへんし」とすごく悩んでいました。

しばらくして、湯川委員長が勾留から釈放されました。「おいでや」ということで、私は専従として関生支部で事務の仕事をすることになりました。

今回の弾圧では、先頭に立っていた人がどんどん逮捕されたり、裏切る人が出てきたり。引き継ぎが全くできない状況で、残された役員たちは大変だったと思います。関生支部の内部がギスギスしているのを感じました。会議やそれ以外でも揉めていることがありましたし。

目をそらされた時の悲しさ

関生組合員たちの裁判で、私はメモを取る任務がありました。裁判を傍聴できない人たちに報告するためです。集中を途切らせないよう、ノートにメモをし続けましたね。産休に入るまでは、どの裁判でもこの仕事をしました。

法廷では腹が立つことがいろいろとありました。

例えば検察は、コンプライアンス活動について「軽微な不備に因縁をつけた」って言うんですよ。軽微でも法律違反なのに、検察は法律違反をしてもいいと言うんだ、と思いましたね。

組合員がコンプライアンス活動で注意している音声を、検察が証拠として再生することもありました。でも「これ危ないですよ」とすごく丁寧な言い方なんですよ。よくこんなものを威力業務妨害の証拠として出してくるな、と思いましたね。

関生支部の元組合員が検察側の証人として出てきた時は、私は彼と目を合わせようとして、めっちゃ目を見てたんですけど、絶対に見てくれなくて。その人はすごく活動熱心だったのに関生を裏切った。「なんでこんなことになったの? 」って。私はすごく悲しかった。

湯川委員長が京都地裁で無罪判決を受けた時は、関生の事務所で留守番をしていました。事務所や携帯に仲間たちが連絡してきてくれて。一番早く知らせてくれたのは、湯川委員長のお連れ合いです。私たち仲良しなので。

警察と検察は、正当な労働組合活動を事件に作り上げて、恥ずかしくないのかと言いたいです。

裁判官には、労働法をもっとしっかり分かってもらって、正しい判決を出していただきたいと思います。

【取材者後記】観察される大人たち/編集長 渡辺周

どうやったら、次の世代に労働運動や社会運動を根付かせていけるか。川西杏奈さんは、我が子にそのマインドを引き継いでいる。自身も、関生支部の組合員だった父の姿に影響を受けた。

川西さんの答えは明快だ。

「自分がしていることに自信をもって、子どもたちに話をすることです」

勤め先から「関生支部での活動を続けるなら会社を辞めて」と迫られた時、川西さんは不安になった。2人目の子がお腹にいる状況で、新しい仕事は見つけられないからだ。

もしあの時、川西さんが関生支部を辞めて会社に留まっていたら、どうだっただろう。子どもたちの将来を考えると、生活の安定が必要だ。川西さんの選択を、誰も責めることはできないだろう。

しかし、子どもの立場になった時どうだろう。「お母さんは、あなたのために我慢して信念を曲げた」と言われたら、どんな気持ちがするだろう。

それよりも、はればれと自分の選択について語ってもらった方が、子どもは嬉しいのではないだろうか。「よし、自分もお母さんみたいに頑張る」と挑戦心が育つのでないか。

子どもは、常に大人を観察している。次の世代への引き継ぎを考えるならば、まずは大人が頑張る必要がある。本当に頑張れば、助けてくれる仲間も現れる。川西さんの生き様はそのことを教えてくれた。

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