米カリフォルニア州・クパチーノにあるApple本社=NHKスペシャル「調査報道・新世紀」取材班撮影
※実態をより正確に伝えるため、性暴力に関する加害や被害の内容が含まれます。フラッシュバックなどの症状がある方は閲覧に十分にご注意ください。
Appleのデジタル性暴力への対応が、鈍い。
2023年12月、Appleは児童ポルノなど、違法画像の取引に使われていた「アルバムコレクション」というアプリをApp Storeから取り下げた。Tansaが本シリーズ「誰が私を拡散したのか」で追及した結果だ。
ところが、Appleが提供する同様のアプリは、まだあった。
「動画シェア」だ。
2019年頃から、Appleのストアで誰もが使えるアプリとして提供されてきた。盗撮やリベンジポルノ、さらには未成年を暴行する犯行映像までが取引されている。
Tansaは8月4日、AppleのCEOティム・クック氏に質問状を送った。動画シェアを取り下げるかどうかに加え、被害への対策も尋ねた。
8月14日になってAppleは、動画シェアをアプリストアから取り下げた。
しかしなぜ、2023年にアルバムコレクションを取り下げた時に、すぐに手を打たなかったのか。日本の警察からは、2016年の時点で違法画像の取引に使われるアプリを配信停止にするよう、要請を受けている。
アプリを取り下げても、すでに投稿された画像はオンライン上で拡散される。対応が遅れれば遅れるほど、被害は拡大する。
巨大プラットフォーマーとして、デジタル性暴力を撲滅する責任感が薄いとしか思えない。
今回、Apple Japanの広報はTansaに「オフレコ」での面会を申し込んできた。
被害者よりも自社の体裁。内々に済ませたいということだろう。
Tansaはデジタル性暴力について調査をしています。
デジタル性暴力の被害を経験したり、子どもやご友人など身近な人が被害にあったりしていませんか。
デジタル性暴力の範囲は定まっていません。Tansaでは、本人が望んでいないのに、下着や裸の画像や動画を撮影されたり使われたりした経験を広く指すことにします。
被害防止には実態解明が不可欠です。ご協力をお願いします。
連日投稿される子どもの性暴力被害
動画シェアは、未成年の性的画像の取引にも使われている。毎日のように新たな被害が発生しているので、規模は計り知れない。
これまでの取材で目にしたのは、盗撮や子ども自身による自撮り、大人との性行為を強いられている画像や映像などだ。
路上で性的暴行に遭い、泣きながら抵抗する少女の映像まで見つかった。犯罪の様子を加害者自身が撮影した、あまりにも恐ろしい映像だ。

未成年が性行為を強制されている動画2本、写真13枚を販売する動画シェアのページ
App Storeの動画シェアのページには、2022年6月1日付で次のようなレビューが書き込まれていた。
タイトル:このアプリは
「犯罪です。Twitter等でこのアプリ名を検索すると無数の児ポなどをアップロードしたファイル名が認知できます。運営には早急に児ポや犯罪動画などを投稿しているユーザーに対し刑事罰などの天誅を与えてください」
被害者の画像や映像の投稿は、一度きりでは済まない。それらを購入した人が、保管したり、さらに別の場所への投稿を繰り返す。画像は、削除を要請しようと思っても手に負えない範囲にまで拡散してしまう。
性的画像で金儲け
動画シェアは、2016年12月頃から運営を始めたとみられる。
画像や映像などの大容量ファイルをやりとりできるアプリだ。ウェブサイトやアプリの紹介ページには、家族や友人と画像を共有できると謳う。
運動会や遠足、楽しい仲間との思い出の写真や動画をみんなで共有!!
家族旅行、誕生日祝いの写真を家族で共有!!
会員登録なし、ログイン不要。
だが実際に取引されているのは、違法な性的画像ばかり。性的な画像や映像を、本人の同意なく提供したり売買したりすることは犯罪だが、動画シェアはそうした犯罪の温床となっている。
なぜ性的画像の取引にアプリが使われるのか。理由は、画像のやりとりと金儲けを同時にできる仕組みにある。
動画シェアの仕組みはコインロッカーを思い浮かべるとわかりやすい。
ユーザーはアプリの中に、フォルダという「箱」を作ってそこに性的画像を投稿する。フォルダには鍵をかける。鍵は有料課金をしなければ開けられない。
鍵を多くの人が購入すれば、投稿者に入る利益は増える。そのため投稿者はフォルダに投稿した内容を、オンライン掲示板やSNSで宣伝する。被害者の顔写真が添付されている場合もある。
被害画像を取引できるのは、動画シェアのアプリをダウンロードした人同士だ。サイバーパトロールなどで露呈しないため、犯罪行為が発覚しづらい特徴もある。

動画シェアで入手した画像を配布する、とXに投稿する加害者
中国・瀋陽市が運営者の拠点か
Appleは、動画シェアを自社のストアに置いてきた。言わば「市場」の役割を果たしてきたが、動画シェアというアプリを制作し、市場での売買を管理してきたのは「運営者」だ。市場で商売をさせているAppleにも金が入るが、当然、運営者も利益を得る。
動画シェアのアプリの開発者は、「WHISON GROUP LIMITED」という。ウェブサイトの利用規約やプライバシーポリシーでは、「動画シェア運営委員会」という名前も使っている。
だが、正体不明だ。
Tansaはホワイトハッカーの協力を得て、運営者の調査を進めてきた。さまざまな公開情報から、犯罪の証拠や個人の情報をつかむOSINT(オープンソースインテリジェンス)の手法を活用した。
これまでに見つかった情報は、代表者とみられる人物の名前、年齢、運営の拠点だ。動画シェアは中国の瀋陽市を拠点にしている可能性が高い。
さらに中国の企業データベースや住所録も調べたが、詳しい情報はつかめなかった。
動画シェアの運営者は、自社のサービスが違法な性的画像の取引に使われていることを認識している。
私は2022年9月と2023年3月、運営者にメールで質問状を送ったが、返事はなかった。被害者から動画シェアに対し、画像を削除してほしい、という問い合わせもきているはずだ。
Googleも3年前まで掲載
動画シェアの運営者は悪質極まりない。だが、動画シェアを審査し、誰でも簡単に入手できるよう提供し続けてきたのがAppleだ。
Tansaは2022年9月、Apple Japan社長の秋間亮氏宛に質問状を送った。以降、複数回にわたり、具体的な被害を提示して問題を指摘してきた。しかし一度も返信が来ることはなかった。
Googleも、動画シェアを自社のストアGoogle Playで掲載していた。2022年時点で少なくとも10万回以上ダウンロードされていた。Tansaの指摘を受けて、同年9月に削除した。Appleよりは3年早く削除したことになる。
ところがその後、全く同じアプリが「動画シェア+」と名前を変え、Googleのストアに再び掲載された。Googleのアプリ掲載審査は機械学習などが担うため、見抜けなかったのだろう。
Googleは、2023年4月に再度Tansaの指摘を受け、動画シェア+も削除した。
AppleもGoogleも、ストアに掲載するアプリの安全性を確保していると、表向きにはアピールしている。しかし、実態が伴っていない。

東京・渋谷にあるGoogleの日本オフィス=2024年11月8日、羽賀羊撮影
Apple広報部からの提案
いかに巨大プラットフォーマーが、デジタル性暴力への対応を軽んじているか。
今年8月4日、TansaがAppleのCEOティム・クック氏宛てに質問状を送ってからの、同社とのやりとりが象徴している。
質問状では動画シェアを削除するかどうかに加え、以下の2点を尋ねた。
①被害の拡大を防ぐためにどのような対策を取るか。同じ運営者によるアプリ申請の拒否や、日米の警察への通報などを行うか。
②画像共有アプリを使った同様の被害を防ぐため、ユーザーレビューの確認など効果的な措置を実施するか。
私は質問状を送ってから、動画シェアがストアから削除されたかを毎日確認した。しばらくは変化がなかった。
8月10日になって、メールで返信が届いた。Apple Japan広報部のビリー・コール氏からだった。Appleから返信があるのは初めてのことだ。
コール氏は「大変重要な課題についてご取材されていることと認識しております」と記していた。電話で事前に話した上で、会いたいという。
私は8月12日の午前10時30分にまずは電話で話すことを、コール氏と約束した。
だが問題は、コール氏がオフレコを要請してきたことだ。オフレコとは、聞いた話を報道しないという意味である。私は「基本的にオフレコには応じていない」と伝えた。その上で、オフレコにしたい内容とその理由を尋ねた。
コール氏が、オフレコの理由を返信してくることはなかった。電話をかけてくるという約束も、すっぽかされた。
被害対策に「バッテリー交換」「画面の修理」の相談窓口を案内
8月14日になって、コール氏から以下のメールが届いた。
いただいたご報告に対して、下記の通り、
「Apple」として返答させていただきます。
当社は、報告のあった違反について慎重に調査を行い、当該アプリをApp Storeから削除いたしました。このような内容のお申し立ては極めて重く受け止めており、アプリの開発者に対しては、不適切かつ悪質なコンテンツを確実に検知し、迅速に対応することを求める厳格なApp Storeルールを設けています。
App Storeから入手したアプリにおいて違法行為が疑われる場合は、どなたでもその事象を以下のウェブサイトまたは電子メールアドレスからご報告いただけます。
問題を報告する:https://reportaproblem.apple.com/
Apple Supportに問い合わせる:https://support.apple.com/ja-jp/contact
Apple Legalに問い合わせる:https://www.apple.com/jp/legal/
法的手続きの連絡先: mailto:lawenforcement@apple.com
どうぞよろしくお願いいたします。
動画シェアは同日、ストアから削除された。
だが回答の中でAppleが提示した窓口を開き、私は唖然とした。どれも到底、アプリで起きたデジタル性暴力の被害を訴えられるような窓口ではない。
例えば、「問題を報告する」というページでは、ダウンロードしたアプリに関する報告しかできない。
「Apple Supportに問い合わせる」のページでは、「iPhoneの画面の修理」「iPhoneのバッテリー交換」といった相談の項目が並ぶ。
「Apple Legalに問い合わせる」のページに至っては、製品の保証やライセンス契約の内容が羅列されていた。「倫理およびコンプライアンス」という項目を開くと、英語のページが表示される。
トップに掲げられているのが、以下のクック氏のメッセージだ。
We do the right thing, even when it’s not easy.
(たとえ困難であっても、私たちは正しいことをする)
Tim Cook
私が知りたいのは、被害の防止と救済につながる具体的な対策だ。コール氏にメールをして再度尋ねたが、返信はなかった。
元Apple幹部が語ったずさんな運営
Appleは、デジタル性暴力被害を生むアプリを掲載し、犯罪行為に加担していることをどう考えているのか。その本音を、App Storeの基礎を作った元幹部自身が語っている。
2024年4月、TansaはNHKスペシャル取材班との共同取材で、元Apple幹部のフィリップ・シューメイカー氏に話を聞いた。
シューメイカー氏は2009年から2016年までApp Storeの統括を務めていた。ストアのガイドライン作成にも関わり、創業者であるスティーブ・ジョブズ氏とも共に働いていた人物だ。
シューメイカー氏は、Appleが犯罪を指摘する声を無視していると話した。例えばユーザーからのレビューだ。
「残念ながら、App StoreのレビューのほとんどをAppleは無視しています。私がAppleにいた当時、Appleができたのは、『アプリが落ちる』『うまく動作しない』『起動しない』などといった言葉があるかを確認することだけでした」
動画シェアにも、ユーザーが違法性を指摘するレビューがいくつもついていた。だが、Appleは一切対処しなかった。
被害者はどうしたらいいのか。私は尋ねた。
「Appleの掲載するアプリで被害を受けた人は、どうやってそのことをAppleに伝えたらいいのですか」
シューメイカーは答えられなかった。
「そうですね…わかりません」
2024年4月、米・ネバダ州の自宅で取材に応じたシューメイカー氏
神奈川県警「あらゆる措置を速やかに」
AppleとGoogleは、日本の捜査当局のことも軽くみている。
2016年8月10日、神奈川県警サイバー犯罪対策課がAppleとGooleの日本本社を直接訪問し、文書で対策を求めた。同年2月に、画像共有アプリによる違法画像の取引事件を検挙した。そのことを受けての要請だ。
8月11日付の神奈川新聞で詳細が報じられている。
同課は要請書で「現在も同様の機能のアプリが多数配信され、違法動画像が公開・拡散されている」と指摘。同様のアプリ6種類を例示した上で「違法動画の早期発見、削除に関する警告、配信停止などあらゆる措置を速やかに講じるよう」求めた。
すでにアプリをダウンロードしていれば、動画シェアは今も利用可能だ。加害者たちは今や、アプリ以外にもあらゆるオンラインのツールを使い、制止されることもなく犯罪行為を繰り返す。
刻一刻と新たな被害が出ている。
=つづく
2026年1月7日訂正:当初の報道では、 AppleはApp Storeの開発者登録の際に身分証明などを求めていないと記載しました。しかし記事掲載時点では、Appleは開発者に身分証明書の提出を求めていたため、本文を訂正しました。
誰が私を拡散したのか一覧へシリーズ「誰が私を拡散したのか」の取材費をサポートいただけませんか。巨大プラットフォームも加担する性的な写真や動画の拡散が、多くの被害を生み出しています。私たちは2022年から取材を始め、加害の実態や性的画像が拡散される構造も追及してきました。
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