人質司法 なぜ労組は狙われたのか

「エリートコースの裁判官は国を負けさせない」 関西生コンの無罪判決、「軽視」した国賠判決【大寄麻代裁判長を問う③】

2025年11月14日 17時48分  渡辺周

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国家賠償請求訴訟の判決後、記者会見する関西生コン支部の西山直洋さん=東京都千代田区で2025年10月31日、千金良航太郎撮影

労働組合「関西生コン支部」(関生支部)が、国を訴えた国家賠償請求訴訟では、「和歌山事件」で無罪が確定した組合員たちのケースも争われた。

「最初から犯罪容疑をかけるような事案ではなかった。逮捕し身柄を拘束したのは不当だ」。関生支部はそう主張していた。

実際、大阪高裁で2023年3月に和田真裁判長が出した判決は、関生支部の主張に沿い無罪を出した。

ところが2025年10月31日にあった国賠訴訟の判決では、東京地裁の大寄麻代(おおより・あさよ)裁判長が、大阪高裁の判断を否定。「逮捕したのは仕方がなかった」と判断した。

国が被告になった場合は、何が何でも守るという意図があるのではないか。

大阪高裁が信用しなかった証言

「和歌山事件」について説明する。

2017年8月18日、和歌山の生コン会社の経営側が、大阪市内の関生支部事務所に元暴力団員2人を差し向けた。関生支部の組合員たちは4日後、和歌山県内にある経営側の事務所に行って謝罪を求めた。この行為が威力業務妨害と強要未遂に問われ、組合員たちが逮捕された。一審では有罪となったものの、大阪高裁は「元暴力団員に脅威を感じたのは無理がない」と判断。そもそも労組活動は憲法28条で保障されているので犯罪にはならないと指摘して、無罪とした。検察は上告せず判決が確定している。

国賠訴訟では和歌山事件に関し、執行委員の西山直洋氏が自身の逮捕の不当性を訴えた。結果的に無罪判決が出たからではなく、逮捕・勾留の当時の判断そのものが不当だという主張だ。

不当だと主張する大きな理由の一つに、警察と検察が信用した木下俊介氏の証言がある。

木下氏は元々、関生支部の京津ブロック長。和歌山事件で、経営側の事務所に謝罪を求めに行った一人だ。

ところが木下氏は事件後、関生支部を辞め経営側に付く。2019年4月頃のことだ。西山氏が逮捕されたのは、この年の11月14日。木下氏が経営側に付いた後、西山氏に不利な証言をした。

大阪高裁の無罪判決でも、木下氏の証言について「関生支部が根拠もなく謝罪を要求したことを強調した不自然な内容」、「信用できるものではない」と断じた。

証言への一致しない評価

ところが国賠訴訟の大寄判決では、以下のように判断した。

「本件逮捕時及び本件勾留時に木下供述の信用性を肯定できるとした警察官及び検察官の判断が、合理的根拠が客観的に欠如していたことが明らかであるとまでは認められない」

大寄判決がそう判断する根拠は何か。

和歌山の経営側事務所に関生支部が謝罪を求めに行った際、木下氏は事務所の中で経営側とやりとりし、西山氏は外にいた。

木下証言によると以下のような経緯だ。

交渉の途中、木下氏は外にいる西山氏のところへ行き、経営側との交渉手順について伝えられた。西山氏は、大阪にいる湯川裕司副委員長から電話で受けた指示を、木下氏に伝えた。

大寄判決はこの木下証言について、和歌山地検の以下の見解を支持した。

経営側とのやりとりは録音が残っている。その内容が、木下氏が西山氏から伝えられた内容と整合性がある。木下証言には客観的な裏付けがある。

だが考えてみてほしい。木下氏が西山氏から伝えられたという内容を、録音内容に合わせ、でっちあげている可能性もある。そうであれば、木下証言と録音内容に整合性があるのは当たり前だ。

証人で出廷前日に逮捕

なぜ大寄判決は、ここまで強引な理屈で国側に落ち度はないと主張するのか。

興味深いのは、西山氏が逮捕される翌日の2019年11月15日、西山氏は別の国賠訴訟で証人として出廷する予定だったことだ。その国賠訴訟は、米軍施設反対の市民運動に関するもの。関生支部が運動に協力したことで強制捜査を受けたのは不当だと訴えていた。

西山氏の証人尋問はそれまでにも2回、延期になっていた。いずれも期日間近になって、大阪府警と滋賀県警に労組活動に絡んで逮捕された。警察は3度、西山氏の国賠での証人尋問を阻んだことになる。3度目の和歌山県警による逮捕時は、翌日の証人尋問が終わったら、任意で出頭するとまで警察に告げていた。

西山氏は逮捕の狙いが証人尋問の阻止にあったと主張した。だが大寄判決は一蹴した。

「和歌山県警の警察官や国(検察官)に別件民事訴訟における尋問期日を延期させる実益があったとは考え難い」

国が訴えられた裁判で証言させないため、西山氏を逮捕したと大寄判決が認めてしまえば、国は窮地に陥る。それを避けたかったのではないか。大寄判決についての、ある現役の裁判官の見解はこうだ。

「エリートコースを歩みたい裁判官の場合、国を負けさせるような判決は出さない」

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