
イラスト: qnel
「お金を貸してあげる」と持ちかけ、その「担保」と称して性的な画像や動画を送らせる加害行為が横行している。
経済的な困窮という状況につけ込んだ、新たな性暴力だ。
加害者は「動画は3本」「身分証の文字がはっきり見えるように」などと具体的な指示を出して動画を撮影させ、個人情報とともに送らせていた。返済しなければ画像をばらまく、という内容の契約書まで準備していた。
Xではある女性が「24時間365日、なんでも言うことを聞くから融資してほしい」と裸で懇願する映像が投稿されていた。本人は「加害者に脅されている」と、助けを求めていた。
加害者が画像や動画を送らせるのは、借金返済の担保とするためだけではない。
ネット上では被害者の画像と身分証が、「コンテンツ」として売買されている。大容量ファイルの送付に使われる「ギガファイル便」や、Xに投稿されているケースもあった。
多くの被害実態があると考えられる一方、現状の制度下では被害の救済策がほとんどない。
※本記事内には、性暴力や脅迫に関する記述があります。フラッシュバックなどの症状がある方は閲覧にご注意ください。
身分証を持った裸動画を要求
「先日深刻な裸ローンの相談があったんです」
デジタル性暴力の被害者を支援するNPO、ぱっぷすで取材をしているときだ。金尻カズナ代表の言葉に、私は聞き覚えがなかった。
「裸ローンってなんですか?」
「裸の写真や自慰行為をする動画を送ってくれたらお金を貸すという被害なのですが、返済を求められたときに、実際に会って性行為をしなければならないとか、送った画像を拡散すると脅されたりして、ぱっぷすに相談があるんです」
ぱっぷすが対応したのは、18歳の女性のケースだ。SNSを通じて「金を貸す」という人物とつながり、6万円を借りた。女性は親との関係が悪く、貸した金を返せと親から迫られていたようだ。
SNSで知り合った相手は女性に対し、「金を貸す条件として、運転免許証などの身分証を持った裸の動画を撮影して送れ」と伝えてきた。
その際、「動画は3本」「身分証の文字がはっきり見えるように」などと撮影の具体的な指示も出した。「参考画像」と称して、別の被害者とみられる画像も送られてきた。
加害者側は自作の「契約書」を交わすよう、求めてきたという。その中には、次のような文言が記載されていた。
返済は対面にて行う。返済場所については貸主の希望を優先すること。
返済は完了されるまで続き、時効はなし。
返済が滞り、連絡もつかなくなった場合は以下の行動を行う。
・警察への行方不明の連絡
・SNSへの個人情報の投稿
・各種WEBサイトにて提供された情報、画像、動画を販売
・裁判へ少額提訴(必ず出廷すること)、財産(貯金、家財、家、土地)の差し押さえ
Xで広がる#お金貨します の罠
「裸ローン」の被害は、どのくらい広がっているのか。金尻さんによれば、被害者と加害者はSNSでつながる。次のようなハッシュタグがよく使われている。
#お金に困っています
#お金貸してください
#お金貸します
#個人融資
試しに私がXで検索してみると、多くの投稿が表示された。「金を借りたい」という投稿も、「金を貸す」と謳う投稿もある。最初から融資の代わりに性的画像を求める露骨な投稿は少ないが、具体的なやりとりは、1対1のDM(ダイレクトメッセージ)で行われている。

Xで融資と引き換えに性的動画を買い取ると仄めかす投稿
SNSなどを通じた個人間融資は、これまでにも問題になってきた。融資の条件として性的関係を強要する「ひととき融資」と呼ばれる行為だ。政府広報や子ども家庭庁、金融庁などが新たな「ヤミ金融の手口」として注意喚起をしている。
金を借りる側は個人間の融資だと思っていても、実際にはヤミ金業者が個人を装っている可能性もあるという。
「住所、職場、実家割れてんのわかってる?」
しばらく調べていくうちに、私は裸ローンの実態を目撃した。Xを通じてリアルタイムに被害を訴える女性の投稿だ。
この女性は、SNSでつながった相手から、融資をするという条件で裸の動画を何本も送るよう強要されたという。だが、実際に動画を送っても金を借りることはできなかった。相手のアカウントをブロックしたところ、今度は脅迫されているという。
女性の公開したDMのスクリーンショットには、金を貸すことをちらつかせて脅迫する加害者の言葉が並ぶ。
「いますぐ連絡しないとどんどん晒すぞ」
「舐めたこと言ってブロックして逃げてんなよ。住所、職場、実家割れてんのわかってる?」
「動画で謝ってくれるなら融資するよ。全裸で謝って」
その日のうちに、女性を脅迫していたアカウントが1本の動画をXに投稿した。女性が裸で泣きながら謝る動画だ。
「疑いすぎてひどい言葉を言ってしまい、申し訳ございませんでした」
「私は家族のことで困っているので、なんとか…なんとか…お願いします。なんでも言うことを聞くので」
「24時間365日、どこでも呼ばれたら行って、なんでも言うことを聞いて、ちゃんと感謝の気持ちを行動と言葉で表すので、なんとか融資をお願いします」
私は女性に取材を申し込んだが、叶わなかった。女性のXのアカウントは、その後すぐに削除された。
加害者のアカウントはX上で、金を借りたいという投稿を見つけては「DMで連絡ください」と呼びかけていた。

被害女性をDMで脅迫していた加害者。この後加害者は女性が謝罪する動画をXに投稿した
「人生終了」
加害者がこうした画像や動画を撮らせるのは、被害者を永遠に脅迫することができるからだ。
さらに動画を売ることで、金儲けまでする。
身分証を持った裸の女性たちの画像や動画は、実際にいくつもネット上に出回っている。
これらは、「ギガファイル便」などのファイルの送受信サービスやXへの投稿、同意のないとみられる性的画像を集めているウェブサイトなどで見つかった。販売されているものもあれば、誰でも無料で入手できるものもあった。
身分証を持った裸の女性が写るある画像には、被害者を「コンテンツ」のように扱う言葉が添えられている。
人生終了
お金を渡す条件として我々を楽しませてもらう
イマドキ女の黒歴史誕生の瞬間をぜひお楽しみくださいませ
一部には「出演者の同意を得て撮影した作品です」などと表記して、あくまで犯罪行為ではないと主張するサイトもある。だが信用はできない。こうしたサイトには、撮影や公開に同意していない被害者の画像が掲載されていることも多いからだ。
恐喝、強要、貸金業法違反の犯罪行為
被害にあってしまった人は、どうすればいいのか。
そもそも、融資の代わりに性的画像を求めるような契約は無効だ。民法が「公の秩序又は善良の風俗に反する」として、認めていない。
相手の行為は複数の犯罪に該当する可能性もある。警察に相談することで、逮捕につながるかもしれない。
例えば、貸金業の登録をせず繰り返し金を貸す行為は貸金業法違反。「返済しなければ画像をばらまく」と脅せば脅迫罪や、「ばらされたくなければ、裸で謝れ」などと脅迫や暴行によって行為を強いることが強要罪に当たる。
画像をばらまいていれば、リベンジポルノ防止法違反だ。被害者が18歳未満の子どもだった場合には児童ポルノ禁止法に問われる。
今年2月には神奈川県警が、性行為や性的画像を担保に金を貸していた人物を貸金業法違反の容疑で逮捕した。容疑者はSNSで知り合い金を貸した相手に対し、「名前を晒す」「性交の動画を販売するから返済は不要だ」などと脅していた。
削除要請は被害者に重い負担
デジタル性暴力の被害者支援を行うぱっぷすは、ホットラインを設置し、24時間365日相談を受け付けている。
加害者に対しては、契約が無効であることを通達する「通知書」などを用意する。画像が拡散した場合、被害者に代わって画像を探し、削除要請を行う場合もある。
しかし問題は残る。相手に送った画像や動画を、確実に消せないことだ。スマホやパソコンにダウンロードされれば、繰り返し投稿できてしまう。
無断で公開された画像をインターネットから削除するには、削除要請が必要だ。投稿者やウェブサイトなどの管理者に対し、原則被害者が申し出なければならない。相手が応じなければ裁判所に訴え、認められれば削除命令を出すこともできる。ただ手続きには、少なくとも数カ月を要するのが一般的だ。
裁判費用などは被害者の負担となる。1件の被害に対応している間にも拡散が続き、別の投稿が見つかれば、再び同じ手続きを踏まなければならない。
「凶器」を放置する日本社会
多くの当事者は画像が拡散する不安を抱え、被害にあっても身近な人に助けを求めることすら難しいのが実情だ。裸ローンの実態もまだまだ明らかになっていない。
今や、他人の手に渡った性的画像は、「見られて恥ずかしいもの」という範疇にとどまらなくなっている。被害者を脅迫したり、恐喝したりできる「凶器」になりうる。
米国や欧州では、デジタル性暴力の被害者が自ら命を絶つケースが多数明らかになっている。遺族らが被害を訴えたことをきっかけに、政府や自治体、裁判所や捜査機関がプラットフォームを規制したり、被害者の保護に取り組んだりしてきた。米国では子どものデジタル性暴力をめぐり、連邦議会がXやMetaなど、プラットフォームのCEOらを追及した。
日本では、深刻な被害が各所で出ているにもかかわらず、効果的な対策も打たれていなければ、デジタル性暴力に特化した公的な支援機関もない。本人が被害画像の削除を要請しても、必ず削除できる保証もない。
社会が放置する間に、犠牲者は増え続けている。
誰が私を拡散したのか一覧へシリーズ「誰が私を拡散したのか」の取材費をサポートいただけませんか。巨大プラットフォームも加担する性的な画像や動画の拡散が、多くの被害を生み出しています。私たちは2022年から取材を始め、加害の実態や性的画像が拡散される構造を追及しています。
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