アリンコの知恵袋

政権の裏側を知るジャーナリスト「側近の忖度政治が、日本を滅ぼす」(3)

2019年10月03日17時19分 辻麻梨子

「アリンコ講座」第3回目は、経済ジャーナリストの山田厚史氏が登場。綿密な取材で見えてきた、知られざる安倍政治の裏側を語った。

山田氏は元朝日新聞記者。記者時代は青森、千葉の支局員を経て、経済記者や編集委員として金融・証券業界や大蔵省、外務省などを取材してきた。2017年からは、インターネットメディア「デモクラシータイムス」の代表として、動画を中心にニュースを配信している。同年の衆議院議員選挙では、千葉5区から立憲民主党の公認候補として立候補した経験もある。

経済と政治の中心を見つめてきた山田氏が指摘するのは、安倍政権の「側近政治」がこの国にもたらす「大罪」だ。【辻麻梨子】

経済ジャーナリストの山田厚史氏。今も取材に駆け回る大ベテランだ

首相を「手取り足取り動かす」側近たち

全国紙に載っている首相の一日の動きに、目を通したことはあるだろうか。大体の場合、朝から晩までひっきりなしに忙しい。朝からどこの大臣と打ち合わせ、その後閣議、次は次官がやって来る…といった具合に、入れ替わり立ち替わりあらゆる事柄に対処しなくてはならないのだ。

もちろん、関わる内容も全領域に及ぶ。総理大臣になった途端に政治・経済・外交・福祉などについて、あちこちで会議をしたり、意見を述べたりする必要がある。とてもじゃないけれど、これらすべての問題を完璧に理解して臨むことなんてできないはずだ。

ではどうするか。首相の周りにいる人間が首相の手となり足となって、うまく取り計らっていくことになる。首相に代わって実質的な政治を行うのが、側近たちの役割なのだ。現在安倍首相を支えている中心人物と言われるのが、総理大臣秘書官と補佐官を兼務し、「影の首相」とまで称される経産省出身の今井尚哉氏だ。そのほか財務省、外務省、警察庁などの官僚たちが秘書官や補佐官を務める。彼らは首相の「頭脳」として、首相の国会答弁のチェックからあらゆる政策の取り仕切りまで任されているのだ。

内閣官房が「暗躍」の舞台に

経産官僚の今井氏は、福島第一原発事故後の資源エネルギー庁で次長を務めた人物だ。第一次安倍政権時から首相の側近であり、首相からの全幅の信頼を得ている。おじは新日本製鐵の元社長で、経団連の会長も務めた今井敬氏。当然政治だけでなく、経済にも睨みが効く存在である。「一億総活躍社会」やアベノミクス「新・三本の矢」など、安倍政権の目玉政策を策定しているのも今井氏だった。

他にも、今月の閣議で国家安全保障局長に就任した元内閣情報官、いわゆる「官邸ポリス」の警察官僚・北村滋氏や内閣広報官で、元中小企業庁長官の長谷川榮一氏などが首相の周囲を取り囲む。彼らは毎日のように首相と面会しており、一心同体の状態だ。

秘書官は首相の直属、補佐官や国家安全保障局長は内閣官房に属する。三権分立のうちの、内閣の機能が集約している権力の中枢だ。各省庁に直轄しない政府の重要な政策はここで議論されている。側近も必然的に内閣官房に集まり、暗躍の舞台となる。

「アメリカの言いなり」で戦闘機を爆買い

側近に政治を任せる判断能力のない首相と、忖度で政治を動かす側近たちによる弊害は外交にも及ぶ。首相が出かけた先で口約束を結ぶと、側近たちがその約束を実現するために奔走。結果として、政府は米国が中国に売れずに余らせたトウモロコシを買い取ったり、航空自衛隊の戦闘機「F35」を爆買いしたりしている。冷静に日本にとっての最善を考えたら、こんな行動につながるだろうか。

しかしいつまでも安倍政権が続くのは、リスクをとって闘う政治家がいないからだ。保守派でも、現在の米国の言いなり状態に文句を言わない。権力のある首相や政府にすり寄って、甘い汁を吸おうと考えているのだろう。メディアも同様で、本気でジャーナリズムをやろうとする記者は珍しくなっている。このままでは、どんなめちゃくちゃなこともまかり通ってしまうと心配している。

「お偉いさん」が言わない情報こそカギだ

権力の舞台裏にアクセスする方法は、新聞記者時代に学んだ。朝日新聞に入社後の数年は、主に地方の警察や成田空港の反対闘争などの現場を取材してきたが、突然辞令が出て経済部への異動が決まった。

正直なところ、それまで経済分野には明るくなかったのに、最初に担当になったのは東京証券取引所。兜町の記者クラブでは、1日に5回も6回も記者向けの発表があった。その度に職員が出てきて、何やら難しい文章をずらずらと読んで引き上げていく。一体何がニュースなのかさえ、さっぱりわからない状況だった。

1年経って、やっと少しわかってきたような気がした。経済部での2年目以降は、大蔵省や日本銀行、金融証券業界を幅広く担当していたのだが、とにかくわからないことは聞くことにしていた。それも、次官や社長なんて大物ではなく、基本は現場の係長や課長が相手だ。

すると、ちょっとした現場のこぼれ話なんかが出てくる。あの人は出世を狙っているとか、あの2人は仲違いしているとか、官僚でもいわゆる普通のサラリーマンのような人間模様を抱えているのだ。そうした情報をもとに、政策決定などの背景にある本当の狙いを理解していった。お偉いさんにばかり話を聞く「表の取材」だけでは、まずわからない。

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