コロナ世界最前線

長引く症状、どうすればいい?(12)

2020年08月25日14時33分 谷本哲也

Silas Camargo SilãoによるPixabayからの画像

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新型コロナに感染すると、重症になった方だけでなく、軽〜中等症の方でも症状が長引く場合があることが分かってきました。約1割の方で12週を超えても症状が長引き、ごく一部の方では何ヶ月も続くことがあるようです。

この1割は軽症の方も含めた全体での数字です。入院するような重い症状のあった方に限ると長引く割合がもっと高く、2、3週間で普通の状態に戻れたのは65%だけだったとする報告もあります。

今回は、英国医師会誌(BMJ)のオンライン版に「Management of post-acute covid-19 in primary care」のタイトルで8月11日に掲載された診療指針について、一般の皆様にも参考になる部分をご紹介します。

12週間経ってようやく

英国医師会誌の診療指針では、ある40歳の健康な男性が感染した後の経過を紹介しています。

まず、強い倦怠感、気力の低下、食欲不振が4日間続きました。その後もいつものような日常生活を送ることが難しく、以前は積極的にやっていた運動は全くできなくなりました。

入院まではしなくても、重めの症状はさらに3週間続くことになります。

何の前触れもなく完全にぐったりし、すぐにベッドへ倒れ込んでしまう。そして熱が出て3日ほど何もできない。頭痛にも苦しみ、薬を飲んでも十分に効きません。喉の腫れや食べ物を飲み込む辛さまで出てきて、匂いも感じなくなる、という具合です。

どうにか元の日常に戻り始めたのは、7〜8週が経ってからです。それでも日中は眠く倦怠感があります。息切れや嗅覚障害が残るだけではなく、不安感やうつ状態にもさいなまれました。

ある程度運動できるまで回復したのは12週も経った後でした。今までの病気ではなかった経験です。人生で初めて肉体的にも精神的にも参ってしまったそうです。

なぜ一部の方で症状が長引くのか、その理由は不明です。多いのは、咳、微熱、倦怠感で、症状は改善したり悪化したりを繰り返します。その他、息切れ、胸の痛み、頭痛、筋肉痛、脱力感、胃腸や神経の症状、発疹や糖尿病の悪化、血管の閉塞、うつ状態など精神系の症状も知られています。

もしこのような症状が長引く場合、本当にコロナ感染の後遺症による症状なのか、他の病気が隠れていないか血液検査やレントゲン検査などでチェックすることも必要になります。

しっかり休養を取れば次第に回復

では快方に向かうためにはどうすれば良いのでしょうか。

呼吸器症状や倦怠感がある場合は、時間をかけて焦らずにリハビリテーションを進めることが良いようです。ほとんどの方はウォーキングなどの軽い運動から徐々に慣らすことで対処できます。腹式呼吸法で深呼吸を繰り返し、横隔膜を含めた呼吸筋を鍛える訓練も役に立ちます。呼吸で酸素を血液に十分取り込めているか、自宅でも測定できるパルスオキシメーターという小型機器の使用も勧められています。

その他、心臓の合併症、胸痛症、血管が詰まる血栓塞栓症、頭痛やめまい、ボーッとするなどの神経系の合併症、精神的な合併症は、その程度に応じた対処が必要になります。

若い人に比べ、ご高齢の方では症状が重くなりやすく、筋肉が減ってしまうサルコペニア、栄養不足、うつ、せん妄、慢性の痛みなどの問題が出てくることがあります。ご高齢の方では、これらのサポートも重要になってきます。

新型コロナに感染した後の症状は、まだ不明なことが多いのが現状です。それでも今のところ、特別な治療をしなくても、しっかり休養を取り、バランスの取れた段階的な対応をすれば、多くの人で徐々に回復するだろうと考えられています。むやみに不安を感じる必要はありません。

スポーツ選手が復帰するには

男子テニスの錦織圭選手も新型コロナに感染していたことが、8月16日に明らかになりました。幸い軽症とのことですが、心配されるのは症状が長引くことによる後遺症です。トップアスリートへの影響は、延期されている東京オリンピックの開催可否などの判断にも関係してくるかもしれません。元どおりのトレーニングや試合に復帰するために何が必要となるでしょうか。

これもケースバイケースで、焦らず徐々に進めることが推奨されています。

倦怠感や咳、息切れや熱が続いた場合は無理せず、症状が改善して2、3週間位経つまでは最大心拍数の60%程度までの運動に制限しておきます。検査でリンパ球が下がったり、酸素投与が必要だったりした場合は、運動を始める前に呼吸機能検査なども含め、しっかりした医学的評価が必要です。

心臓関係に問題が出た場合も、精密検査をした上で慎重に復帰を検討することになります。特に心臓の合併症は注意が必要で、3〜6ヶ月は休養し、様々な心肺機能検査でフォローアップをした上で徐々に競技生活に復帰することが勧められています。

軽症から回復した後でも、心血管に負担がかかる運動に入る前に1週間は軽いストレッチング程度にしておくことです。ゆっくりとしたウォーキング程度からはじめ、運動負荷で症状が悪化するようなら休憩を長めに取ります。いきなり強度の高いトレーニングをすることは避けた方が無難です。

余談ですが、錦織圭選手は島根県松江市出身で、鳥取県米子市出身の私とは山陰雲伯地域の同郷となります。コロナの後遺症にも十分気をつけて頂き、また活躍を目にできる日を待ち望んでいます。

    • 谷本哲也(たにもと・てつや)
      1972年、石川県生まれ、鳥取県育ち。鳥取県立米子東高等学校卒。内科医。1997年、九州大学医学部卒。ナビタスクリニック川崎、ときわ会常磐病院、社会福祉法人尚徳福祉会にて診療。霞クリニック・株式会社エムネスを通じて遠隔診療にも携わる。特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所に所属し、海外の医学専門誌への論文発表にも取り組んでいる。ワセダクロニクルの「製薬マネーと医師」プロジェクトにも参加。著書に、「知ってはいけない薬のカラクリ」(小学館)、「生涯論文!忙しい臨床医でもできる英語論文アクセプトまでの道のり」(金芳堂)、「エキスパートが疑問に答えるワクチン診療入門」(金芳堂)がある。

 

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