「仕事がんばろう!」という気持ちになりたいとき、私はラップを聴きます。だって、ジャーナリスト並みに自分の活動のシンボルとして「ペン」を語る人は、ラッパーしかいないから(おそらく、海外にはね)。
ラップに初めて関心を持ったのは17歳のとき、高校4年のフランス語の授業でした。フランスと言えば「フランス料理」みたいに、みんな軽めの話題で勉強するものと思っていたら、そうじゃなかった。先生のミッションは、フランスの社会問題を教えること。生徒たちが関心を持つように工夫し、音楽という「トロイの木馬」を使ったのです。そこである曲に出会いました。
「Regarde-moi」(私を見ろ)という曲です。ラッパーの名前は、インド洋に浮かぶコモロにルーツがあってマルセイユ出身のSoprano。聴いて驚いたのは4分40秒程度の曲の中に、フランスの現代社会が抱える問題を描いていたことでした。
Regarde-moiで語られるストーリーはとても複雑です。歌詞は3番まであって、それぞれで異なる家族の話が語られます。1番は移民の家族の息子。真面目に勉強しても、差別のせいで親、妻、子どもを支えられる仕事が得られず、「扉が全て閉まっている」と絶望してしまう。2番以降は、フランス人であっても貧困に直面している家族、そしてお金持ちなのに無責任に生きるという物語も語られていきます。1番目から3番目まで、それぞれ最後にこう叫びます。「私を見ろ」と。
しかも、ストーリーが繋がっているのです。歌詞の2番に登場する妊娠した16歳の女性の相手は、3番に出てくる無責任のお金持ち。彼が銀行にお金をおろしに行くと、必死な様子で1番の男性が銃を持って銀行に飛び込む――。
4分40秒に詰め込まれた言葉たち。「こんなストーリーテリングができるんだ」と当時の私はとても感動しました。
ラップを聴き始めるようになると、他のいいところにも気づいてきました。歌詞にあふれる言葉遊び。全身で感じるビート。マイノリティだからこそ、自信や自分の価値を強く伝えること。権力と闘う精神。
おかしく思われるかもしれませんが、ワセクロでもラップを見習いたいと思っています。私は日本語の記事を英訳させる最後のステップとして、一度声に出して読んでみます。英文記事がサイトにアップされるときも、プレビュー画面を見ながらもう一度読み上げます。
なぜなら、声に出さないとわからないことがありますから。リズムや流れがちゃんと出来ているか。言葉の使い方から読者が楽しめるか。胸を張って記事のメッセージが伝えられるか。
読むのに4分40秒程度かかる記事があれば、私は1秒だって無駄にしたくないです。
英語版エディター アナリス・ガイズバート
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