誰が私を拡散したのか

【アルバムコレクション運営者を追う】ハワイの若手社長は利用された? (30)

2024年07月04日 19時31分  辻麻梨子

FacebookTwitterEmailHatenaLineBluesky

イラスト:qnel

マレーシア在住の新田啓介は、デジタル性暴力が繰り返されるアプリ「アルバムコレクション」を、2020年に譲渡したという

相手はハワイにある「Eclipse Incorporated(以下イクリプス社)」。新田は、イクリプス社が犯罪を防ぐ手段を講じるかを確認しないまま、アルバムコレクションを譲渡した。そう私たちの取材に説明した。

イクリプス社の社長はウィリアム・リールという人物だが、新田は一度会ったことがあるだけで、よく知らない相手だと言う。

イクリプス社とはどういう会社で、社長のウィリアム・リールは一体何者なのか。

実態のない「ペーパーカンパニー」か

イクリプス社の名前自体は、アルバムコレクションの取材を始めた時から知っていた。アルバムコレクションのウェブサイトに、以下の名前が記載されていたからだ。

運営事業者名

Eclipse Incorporated

運営責任者

William Leal

所在地

2333 Kapiolani Blvd #3515 Honolulu, HI 96826 USA

ハワイ州政府に登記されているイクリプス社の記録も見つかった。確かに社長は、「William Leal」となっている。

だがイクリプス社について、業務内容などの具体的な情報がない。会社のウェブサイトもなかった。私たちは当初、イクリプス社が実態のないペーパーカンパニーではないかと考えた。

譲渡先の社長とは「たまたま会った」

イクリプス社がペーパーカンパニーなら、誰がアルバムコレクションを運営しているのか。

着目したのが、アルバムコレクションに先行する類似アプリだ。

アプリの名前は、「写真カプセル」と「動画コンテナ」。どちらも現在は使われていないが、アルバムコレクションと同じ仕組みで写真や動画のやり取りができるアプリだった。いずれも違法な性的画像の取引の温床となっていた。

重要なことは、写真カプセル、動画コンテナ、アルバムコレクションは、アプリ内のデータなどが一致したことだ。つまり共通の人物が運営している可能性が高い。

ホワイトハッカーが、写真カプセルと動画コンテナ内のデータを検証し、両アプリの運営者だった人物2人に行き着いた。

その2人のうち、実際の運営を担っていたのが、マレーシア在住の新田啓介だった。

2023年12月、私たちは日本に一時帰国した新田啓介を東京・渋谷で取材した。分かったことは、ハワイのイクリプス社はどうやらペーパーカンパニーではないということだ。

新田によると、アルバムコレクションは児童ポルノなどの違法な性的画像取引の温床となり、対応しきれなくなった。そのため、アルバムコレクションをハワイのイクリプス社に譲渡することに決めた。

イクリプス社を紹介したのは、アルバムコレクションのシステム整備を担当していた「システム会社」。イクリプス社の代表者であるウィリアム・リールには、譲渡の前に「たまたま会った」。

新田は、イクリプス社の担当者とは今でも連絡をとっていて、その担当者は日本人だという。ただ、その日本人がイクリプス社の中で何者なのかについては、曖昧なことを言った。

「ただ彼が実際に社員かどうかちょっとわからないですけども。社員証を見たこともないし」

26歳の社長

アルバムコレクションの運営者については、私たちはNHKスペシャル「調査報道・新世紀」取材班と共同で取材している。イクリプス社の実像を掴むため、ハワイ在住のNHKのリサーチャーに協力を仰いだ。

2024年1月、NHKのリサーチャーから連絡が来た。

リサーチャーは、2つの名前を見つけていた。イクリプス社が登記していたマンションの1室の住所に紐づいた名前だ。

1人はウィリアム・リール。年齢も分かった。26歳だ。

もう1人は64歳の男性だ。父親かもしれない。

リサーチャーは、その男性にメールを送った。ほどなくして返信が届いた。

「確かにウィリアムは私の息子です。どんなことが知りたいのでしょうか」

メールにはウィリアムの写真も添付されていた。「25」とかたどられたろうそくの乗ったケーキを前に、微笑んでいる。ウィリアムが自分で撮った写真だった。

「息子が何かトラブルに巻き込まれたのでしょうか」

父親は現在ハワイに住んでおらず、ウィリアムとは別居中とのことで、最近の息子の様子はよく知らなかった。だが、リサーチャーのメールで「アルバムコレクションというアプリに関わっている可能性がある」と伝えると、こう返ってきた。()内はTansaが補足。

「ウィリアムが、Tinderのようなマッチングアプリの会社にマネージャーとして雇われたということは元妻に聞いたことがあります」

「そのアプリ会社の銀行口座を開設するために、ウィリアムが(東京から)ハワイに戻ってきたことがあったとも覚えています」

「息子が何かトラブルに巻き込まれたのでしょうか。本人に確認してみます」

数日後、父親からメールが届いた。ウィリアムと話をしたという。

父親によると、「ウィリアムは東京からハワイに帰れるから」という理由で、イクリプス社に雇われた。本人は、今はもう働いていないと言っているという。

「ウィリアムはまさか自分がアプリのオーナーになるとは思ってもみなかったようです。 彼はもうそこで働いていないと言っていました。私は彼に世間の注意を向けたくありません」

「ウィリアムはアルバムコレクションが違法な行為に使われていると知っていたら、関わり合いにならなかったはずです」

私たちは父親に会って取材をしたいと伝えたが、実現しなかった。

「取材を受けて息子の汚名を返上したいが、必ずしもそうなるとは思えない。あまり知らない人とは話したくないんです」

取材班、ハワイ入り

父親からのメールの返信はしばらくの間、途絶えた。

やはり直接ハワイに行き、事実を確かめるしかない。ウィリアムは東京に引っ越したと父親は言っていた。だとしても、登記されたイクリプス社の住所、ウィリアムの周辺の人物などを辿れば何か掴めるかもしれない。

私たちは4月6日、ハワイへ到着した。日本で多くのデジタル性暴力被害を生んだアプリの運営会社が、一体なぜこんな離れたところにあるのか。

父親には、取材班がハワイに来たことを伝えようと電話をした。すると彼は、イクリプス社の背景を話し始めた。

=つづく

敬称略

シリーズ「誰が私を拡散したのか」の取材費をサポートいただけませんか。巨大プラットフォームも加担して違法な性的画像や児童の性的虐待の動画などが売買・拡散され、多くの被害者を生み出しています。私たちは2022年から、被害を止めるための報道を続けています。海外出張などを含む徹底的な取材には、資金が必要です。こちらから、ご支援をお願いいたします。

FacebookTwitterEmailHatenaLineBluesky
誰が私を拡散したのか一覧へ