「お父さんかっこいい」 勾留生活支えた家族の理解/関生支部執行委員・大原明さん夫妻<関西生コン事件・証言#5>
2025年03月19日 19時00分 渡辺周、中川七海
妻と我が子の目の前で、連行される。逮捕された本人にとって、これほどの屈辱があるだろうか。
家族もつらい。ある日突然、警察が押し込んできて大切な人を獄中に放り込む。何カ月、何年も帰ってこない。関生支部への弾圧が罪深いのは、組合員だけではなくその家族も苦しめることにある。
大原明さんは、家族と自宅で過ごしている時に逮捕された。
労組活動に打ち込んだだけで、罪になるようなことはしていない。大原さんと妻、子どもたちは何ら恥じることはなかった。勾留から大原さんが釈放されたとき、息子は「お父さん、かっこいいよ」と言った。
証言集5回目は、大原さんと妻が語る「家族と弾圧」の物語。
「今日逮捕に来るのか、明日来るのか」で不安の日々
2018年9月に大阪府警、2019年2月に滋賀県警、2019年7月に和歌山県警に逮捕されました。勾留からやっと保釈されたと思ったら、逮捕されてまた勾留される。その繰り返しでした。威力業務妨害や強要未遂の容疑ですが、こちらは何も悪いことはしていない。滋賀の事件なんて、建設会社は建築現場で法令を遵守するべきだというビラを、10分か15分間で数枚撒いただけですよ。
逮捕される前というのは兆候があるんです。そろそろ来るぞという噂が入ってくるし、滋賀県警に逮捕される前は、滋賀ナンバーの警備車両が家の前をウロチョロしているのを見かけました。
今日逮捕に来るかな、明日かなと不安の日々でした。夜中の3時半になると目が覚めて窓の外を覗きました。犬の散歩に4時ぐらいから出ても神経がたってしまって。そういう毎日だと、終いには「来るんやったらはよ来いよ」という心境になりました。
「彼女と高級焼き肉に行く」と取調べを止める検事
妻と子ども3人の5人で暮らしていました。逮捕された当時、子どもたちは20歳前後でした。
家族には日頃から、関生支部での活動について話をしていました。だから逮捕されるようなことがあっても、悪いことはしていないということを理解してくれていました。
実際、関生支部が生コン会社の経営者と、対等な交渉をしっかりしてきたからこそ、労働者の賃金が底上げされているんです。ミキサー車のドライバーをしながら、3人の子どもを不自由なく育てて、家も購入できたのはそのおかげなんです。
警察と検察の狙いは、犯罪の立件ではなく私に関生支部を辞めさせることにありました。検事には「奥さんはこういう活動をしていることを知っているんですか」と聞かれました。
滋賀の検事なんて、ふざけた態度でしたね。ある日、取り調べをすぐに終えたので「なんでや」と聞いたら、「彼女と高級焼き肉行くんですよ」と。
ろくに取り調べもしないくせに、こちらが保釈申請をしても裁判所は許可しない。検察の言いなりやないかと、裁判所にも腹が立ちましたね。普通に暮らしている人は、この日本でこんなことが起きているとは知らないやろうなと思ったら、恐怖を感じました。
理解してくれているとはいえ、家族には心配をかけました。子どもたちにも迷惑をかけたと思います。
ゴールデンレトリバーのクレルちゃんという愛犬を飼っているんですけど、僕がいない間にストレスで毛が抜けてしまいました。今はまた毛が生えてきました。
妻「ただのビラ撒きでなぜ夫を連れていくの! 」
夫を大阪府警が逮捕しに来た時は、玄関の外でメディアが待ち構えていました。「気をつけてね」と言って送り出したんですけど、ドアを開けた瞬間にパシャッとフラッシュの光を浴びました。
勢い込んでいたのは滋賀県警ですね。7、8人くらいで来ました。その日はちょうど、娘がお友達と韓国旅行に行く日だったんです。そしたら捜査員がトランクの中を見せてくれと言うんです。娘は関係ないし、女の子ですよ。私はやめてくださいと断りました。断らなかったら開けてたんかと。私のタンスの引き出しは開けられました。下着まで開こうとしたので、それはやめてくださいと言いました。
結局、関生支部への嫌がらせでしょうね。だって滋賀の事件なんかビラを配っていただけですよ。街でティッシュを配っている人と一緒じゃないですか。納得いかへん。捜査員に「ただのビラ撒きで、なんで夫が連れていかれないといけないんですか」と言いました。
日本の憲法は何のためにあるの、と思ってしまいますよね。なんでこんなことで連れて行かれるのって。もっと悪いことしてる人はたくさんいるのに。家族だって傷つくんです。
夫の逮捕はNHKで報道されました。お昼のニュースで、夫が玄関から出て警察車両に乗り込むまでの間を撮られていました。普通の人は逮捕されて報道されれば、何か悪いことをしたのだろうと思ってしまいますよね。
私と子どもたちは、夫が悪いことをしたなんて全く思っていませんでした。夫は労組活動についてよく話をしてくれていましたし、私も関生支部の行事に何度か参加したことがあったんです。バーベキューをしたり、ビンゴをしたり。子どもたちが小さい時は椎茸狩りにも行きましたね。組合員の方や家族のみなさんと、とても楽しい時間を過ごしました。
携帯に電話してきた天川恭子検事
夫が勾留中のことです。私がアルバイトをしている青果店での仕事を終え、帰宅しようとしていたところ、見覚えのない番号から携帯に電話がかかってきました。天川という検事でした。いきなり「ご主人がこうやって勾留されていることを、どう思われますか」と言われました。「奥様の方から組合を辞めるように説得されたらどうですか」というようなことも言われましたね。
私は「分かりません」で通したんですが、「こういうことが続くといつまでもご主人が釈放されません」と言われた時は、「これって私、脅迫されてる? 」と思いましたね。
天川検事は、関生支部の組合員で知っている名前を教えて欲しいとも言ってきました。
勾留中、夫はどんどん痩せていきました。つらかったと思います。独居房で気を紛らわすことができるよう、本をよく差し入れました。長く、没頭して読める本がいいというので小説を持っていきました。
釈放されて家に戻ってきた時、夫は声が出なかったんですよ。もともとは声の大きい人だったのに、喋っても声がぶれるんです。人間って何カ月も喋っていないとこうなるんだって、ちょっとびっくりしました。
ワンコちゃんがすごく喜んでいました。夫になついていましたから。どこからそんな声が出るのかというような高い声で、キャンキャン言うてましたね。犬が一番喜んでいました。
息子は「お父さんかっこよかったで」と言っていましたね。自分がしてることを恥じることなく、突き通したことがかっこよかったそうです。息子にそう言われて、とても嬉しかったと思います。
今回のことで、ニュースが真実とは限らないということを身をもって感じました。ニュースはあまり信用しなくなりました。自分や家族を信じることが、一番大切だなと思うようになりました。
【取材者後記】分かってくれている人がいるだけで/編集長 渡辺周
分かってくれている人がいるだけで、どんなに強くなれることか。
大原さん夫妻をインタビューしていてそう感じた。それぞれ別に取材をしたのだが、互いの認識と思いがピタッと一致していた。
一致しているというのは、妻が夫の関生支部での活動を無条件に受け入れているということではない。妻自身が関生支部のメンバーと会い、夫の説明を咀嚼した上で「この活動は正しい」と判断している。だから強い。検事から携帯に電話がかかってきたエピソードを聞いている時、私が「その検事の名前を覚えていますか」と尋ねると、「天川検事です。忘れもしません」とキッパリ答えた。
妻と子どもたちの理解があるとはいえ、勾留生活の過酷さは想像を絶する。留置場は入り口が檻で、その外側は鉄の扉でシャットダウン。狭いスペースで、天井が目の前に迫る。大原さんは初日の夜、「俺無理」と思った。体重は30キロ落ちた。
妻だってつらい。夫が不在の上に、検事が自分の携帯に電話をしてきて、関生支部を辞めないと夫の勾留が続くと脅す始末だ。「お前の家族がどうなってもいいのか」と自分の要求を通そうとするのは、犯罪者の手口だ。検察は犯罪者を摘発する立場ではなく、犯罪者なのか。
メディアは、こうした権力の暴走を止めるどころか、警察と一緒にやって来てカメラを大原さんに向けた。妻は「こちらの話など何も聞かずに記者は帰っていった」と憤る。
「分かってくれている人」が家族だけではあまりに酷だ。社会全体で正しい理解ができるよう、今からでも関生支部への弾圧に抗するメディアが増えなければならない。私は心ある同業者に声をかけていくし、Tansaとしていつでも取材協力に応じる。
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