人質司法 なぜ労組は狙われたのか

「やられたことは返さなあかん」、2回逮捕でどちらも無罪、「反撃」へ/関生支部副委員長・松村憲一さん<関西生コン事件・証言#8>

2025年04月09日 13時45分  渡辺周、中川七海

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警察と検察は、逮捕・勾留で関生支部の組合員たちの気力を萎えさせようとした。

ところが、全く通用しなかった相手がいた。関生支部副委員長の松村憲一さんだ。「心が折れることは絶対ない」と言い切る。

インタビュー中は終始淡々。時々冗談を口にする。部屋に入ってきた時は、「私の見た目が怖いと思われるかもしれないですが、映像的に大丈夫ですか」。

関生支部への弾圧に対して、「やられたことは返さなあかん」と言う。松村さんの真意とは?

「はしゃぐ」滋賀県警

私は滋賀県警に2019年2月、和歌山県警に7月に逮捕されました。滋賀県警は、工事現場での法令遵守を求めるビラを撒いたことに対し、威力業務妨害の容疑をかけました。和歌山県警は強要未遂と威力業務妨害。元暴力団員を使い脅してきた生コン会社の経営者に、関生支部が謝罪を求めたことが逆に罪に問われました。

いずれも、裁判で無罪が確定しています。

滋賀県警の逮捕は、関生支部執行委員の大原明と同じ日でした。警察が複数人を逮捕する時、普通は同時にやるんです。ただあの時は滋賀県警がヘマをしたみたいで、僕の自宅に来るのが遅れた。僕は大原の家に滋賀県警が来たと聞いてそっちへ駆けつけた。後になって僕の家にも滋賀県警が到着し、「帰って来い」となった。

滋賀県警は和歌山県警に比べると、強引でしたね。関生支部事務所への家宅捜索の時も滋賀県警の捜査員たちは、「お前らヤクザやろ」くらいのノリで来ましたからね。関生支部は以前から弾圧を受けているので、家宅捜索を何度も受けていますが、家宅捜索するにしても一定のルールがあるんです。例えば大阪府警が家宅捜索をする時は、関生支部の組合員が立ち合いをする。こちらの権利ですから。入口から組合員と一緒に入っていく。

ところが滋賀県警は入口までどさっと来て、こちらが「ちょっと待てや」と言っても関係ない。はしゃいでました。

逮捕されると、僕の場合は完全に黙秘します。名前も言いません。滋賀の事件では5カ月くらい勾留されていましたが、検察に行ったのは手続きで2回だけ。取り調べは全然なかった。ただ勾留されていただけなんです。めちゃめちゃ退屈でね、誰もかまってくれへんし。

釈放後、居酒屋で両親にご馳走

関生支部に入ったのは1997年です。同級生がたまたま関生支部にいてましてね。何もしてないんやったらどうやと誘われました。僕も生活していくためには、しっかり仕事せなあかんなという感じで入りました。

すごいなと思ったのは、生コン産業の労働者の賃金や待遇が、当時の水準から考えると高かったことです。労働者がそういう経済的要求をしていくためには、やっぱり労働組合がないとできないなと実感しました。

両親と同居しています。僕が滋賀県警に逮捕された時、母親は心配そうな顔をしていました。どこの親もそうなんでしょうけど。父親は出勤するところだったんですが、警察から鞄の中を見せろと言われたみたいで、ちょっと怒っていましたね。

学生の頃は悪さをしていました。あの時代は若い人が暴れていて、ちゃんと勉強している方が個性的やった。いろいろな経験をしながら、これはあかんわなということを学んで社会人になっていくわけですが、親孝行というものをあまりしたことがありません。今回の関生支部への弾圧で、勾留から釈放された時は、地元の居酒屋で両親にご馳走しました。

関生支部の活動が社会に認められるまで

関生支部への弾圧に負けず、組織を維持していくには、まず僕自身が折れないことですね。まあ、折れることは絶対にないんですけど、そこが一番かなと。やられたことは、きっちり返さなあかんので、最低限、それがちゃんと返せるまでは何がなんでもという気持ちです。

返すというのは、我々の運動が否定されたわけやから、この活動が正しんやいうことを、きちんと社会に認められるようにすることです。そのためには関生支部の組合員も増やしていく。産別労組が本来の労組活動の主流として社会に認められることが大事だと思っています。

【取材者後記】個の強さあってこその「連帯」/編集長 渡辺周

スイミーという物語がある。レオ・レオニ作で、谷川俊太郎が訳した。小学生の時に読んだ。

スイミーはある小魚の名前だ。きょうだいたちは赤い体をしていたが、彼は黒色。泳ぎが得意だった。ある日マグロに襲われ、きょうだいたちは食べられてしまうが、スイミーだけは泳ぎの速さを活かして逃げた。独りになったスイミーは、死んだきょうだいのように赤い体をしている魚たちと出会う。だが彼らも小さく、マグロに怯える日々を送っていた。

スイミーは一計を案じる。みんなで身を寄せ合って大きな魚のフリをしてマグロを追い払ったのだ。自身は黒いから、目の役をした。

いい話のようだが、私には疑問が残った。もしマグロが接近してきて、「なーんだ、小魚の集まりか」と気づいたらどうするのか。小魚たちは身を寄せ合っているから、逆に一網打尽にされてしまうではないかーー。

関生支部への弾圧は苛烈だ。逮捕前から、警察は組合員の自宅近くまでやってきて監視する。家宅捜査では大勢の捜査員がズカズカと押し入ってくる。妻や子の私物まで見ようとする。マグロは小魚の集まりを大魚と勘違いして去ったが、捜査権力は甘くない。

個々人が、まずは強くないと権力の暴走には対抗できない。松村さんは「組織を維持していくには、まず僕自身が折れないことですね」と語ったが、その通りだと思う。

もちろん、誰しもが鉄の意思を持つわけではない。それでも、個が少しでも強くあろうという気持ちを持ってこそ、チームの結束が相手を跳ね返すだけの力になっていく。関生支部を取材していると「連帯」という言葉をよく聞くが、それは個が同じ使命に向かって団結するということだと思う。馴れ合いとは違う。

湯川裕司委員長の判決公判が京都地裁であった日、開廷前に「被害者側」の生コン会社の経営者たちがたむろしていた。いかつくて「オラオラ感」に満ちていた。

だが開廷直後に裁判長が無罪を告げると、経営者たちはひとり、またひとりと法廷を出ていった。傍聴席で私の左隣に座っていたのが松村さん。ニヤリと笑って言った。

「すっかりおらんくなった」

経営者たちは経済的利益、警察官や検察官は組織の体面と自分の保身で動いているだけだ。弾圧する側は、個が弱い「寄せ集め」でしかない。そこに勝機があると思う。

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