人質司法 なぜ労組は狙われたのか

腰縄に繋がれ法廷に現れた夫、最前列で傍聴した妻「ちゃんと見とかなあかん」/関生支部組合員・萱原成樹さん夫妻<関西生コン事件・証言#10>

2025年04月23日 13時19分  渡辺周、中川七海

夫は腰縄に繋がれて、法廷に入ってきた。妻として、見るに堪えない。

それでも目を逸らさなかった。夫は何も悪いことをしていない。「無実の人」を裁く司法の罪を、傍聴席の最前列で目に焼き付けた。

証言記録の10回目は、関生支部組合員の萱原成樹さん夫妻。

萱原さんは、法令遵守を建設会社に求めた活動で「恐喝未遂」と「威力業務妨害」の容疑をかけられ、滋賀県警に2回逮捕された。判決は大津地裁で懲役2年6カ月(執行猶予4年)。控訴している。

妻も関係あるとニヤリ、滋賀県警組織犯罪対策課・水上博隆刑事

朝の5時、自宅に滋賀県警が踏み込んできました。僕と妻は2階。僕の母は1階で寝ていた。子どもは1階のこたつで勉強していて、寝落ちしているような時でした。うちは築50年で狭い一軒家。大勢でドタドタと来られたので、潰れてしまうんちゃうかと心配になりました。

関生支部の活動は家族にはあまり話していませんでした。何も知らないのに、妻や子どもの部屋まで捜索していました。関係ないよと言っても通用しません。滋賀県警は暴力団の捜査をする組織犯罪対策課が来ましたから、荒っぽいんです。子どもが学業で使っているパソコンまで持って行きました。

母は、僕が連れて行かれる時に泣いていました。

逮捕された後、滋賀県警が妻に電話していたことを知りました。僕は事情聴取の際、滋賀県警組織犯罪対策課の水上博隆刑事に抗議しました。妻は関生支部の組合員ではないし、労組活動の話も妻にはしていません。別人格なんだし人権侵害です。でも水上刑事は「関係あるんや」とニヤッとしていました。

「組合を辞めて」とか「刑が軽くなるから容疑を認めて」と、妻から僕に言わせるのが目的だったんだと思います。妻には感謝しています。ああいうことがあれば、もう家を出ていくとなってもおかしくないんやけど。気丈に振る舞ってもらって、ありがたいと思っています。

水上刑事は最後の取り調べの日、「昇進決まってるんや、管理職ですわ」とポロっと言っていました。「はい、そうですか」って感じです。

「放っておいたら自分たちに返ってくる」

大津地検での取り調べの日のことです。

地検に着いても呼ばれず、警察官と車の中で待機していました。手錠をかけられたままです。僕の体が大きい上に、両側の警察官も大きい。

その状態で4時間が過ぎ、どんどん胸が苦しくなってきました。警察官には「なんか顔色悪いぞ」と言われました。エコノミークラス症候群でしょうね。警察官は早く取り調べを始めるように検事に要請し、別室で休むようにしてくれました。

ところが多田尚史検事(当時は副検事)は、取り調べの部屋に入ってくるなり「そんなわがままを言ってもらっては困る」と言いました。多田検事は「組合削ったる」と言った人です。

勾留期間は7カ月半でした。勾留理由で警察と検察が言ってくるのは「証拠隠滅と逃亡の恐れがある」です。でも家族がいて逃亡するわけがない。証拠隠滅も、自宅への家宅捜索で全部持っていっているから、あり得ない。

水上刑事にも、「これは冤罪を生む人質司法と言われるやつやで」「こんなんしたらあかんやんか」と言いました。憲法には恣意的拘禁をしてはならないと書いてある。「憲法の方が上位にくるんやから、あなたがどんな権力を持っててもあかんよ」と言いました。それでも水上刑事は「こんなん普通やから」と。この人は開き直っているなと思いました。

警察と検察は、関生支部を弱体化させる目的でやってるんやと思います。だって普通に考えたらおかしな話でしょう。自民党の議員が2000万円、3000万円と着服しても捕まらないんですよ。

普通やったら、これだけの弾圧を受けたら潰れると思います。でも潰れないのは、反原発運動など社会運動をしている人が関生支部の活動を見てくれているからです。

当時の武建一委員長が警察署で勾留されていた時、毎週のように応援に来てくれていた人たちがいました。全て手弁当です。「ありがとうございます」って言ったら、こう返されたんです。「これを放っておいたら、私たちのことに返ってくる。私たちは私たちのためにやってるんや」って。

涙が出そうになりました。ああいう人たちがいるからこそ、私たちは潰れないんです。有益な活動をしてきたからこそ、人がついてきてくれるんだと確信しています。

妻「警察がなぜ私の携帯番号を? 」

夫が勾留中、私の携帯に警察から電話がかかってきました。電話には出なかったですけど、留守電が入っていました。「なんで自分の携帯番号が知られているんだろう? 」ということが一番怖かったです。

夫に面会に行った際も、警察の人から「帰りにちょっと寄ってもらえますか」と声をかけられました。でも関生支部の人たちには「絶対に何もしゃべったらあかん」と言われていたので、断りました。

夫とは手紙のやり取りもしていました。一番覚えているのが、「留置場で細かい虫がいっぱい出るんやけど、どうしたらいい? 」という手紙です。

インターネットで検索して、ダニみたいな虫やろうと思って、その写真を手紙に同封して送りました。警察の人が手紙の中身を確認しているでしょうから、こんな虫がいっぱい出てるぞとアピールしたんです。

弱った夫の姿に涙

関生支部での組合活動のことはあまり聞かされていませんでしたが、夫が悪いことをしているわけではないことは分かっていました。毎日、顔を合わせているんですよ。悪いことをしていたら、人相が変わりますから分かります。

夫が釈放されて帰ってきた時は泣いてしまいました。関生支部の人が車で家まで送り届けてくれたんですが、ちょっと腑抜けた感じになっていたんです。入院していたおじいちゃんのように、目に生気がなくなっていたんです。それを見るとちょっとね、というのがありました。

裁判の時は、傍聴席の一番前に座りました。

自分の夫が腰に縄をつけて出てくるのは嫌なものです。それでも、しっかりと見とかなあかんと思ったんです。

検察官の2人は、あまり協調できていないようで「大丈夫? 」という感じでした。

判決は有罪でしたが、悔しいというより「結局、これってどうなるのかな」と思いましたね。有罪にしておいて、後で無罪だという結果になった時に、どうやって責任を取るんだろうって。

【取材者後記】「家に上がるなら靴を揃えて」の鋭さ/編集長 渡辺周

関生支部の組合員や家族へのインタビューでは、最後に「これは言っておきたいというメッセージはありますか」と尋ねることにしている。

萱原さんの妻は、滋賀県警へのメッセージとして言った。

「人の家に上がるなら、靴を揃えてください。そこはちゃんとしなきゃね」

滋賀県警は朝の5時に自宅に押し寄せた。その際に靴を脱ぎ散らかして「ヤバかった」という。家宅捜索が行われる中、彼女が警察官たちの靴を揃えた。

鋭い感性だと思った。

彼女は萱原さんから、関生支部での活動を聞いていたわけではないし、憲法が認める労働組合の権利について詳しいわけではない。だが、日々の暮らしで大切にしている所作と照らし合わせ、「この警察官たちは粗暴だ」と見抜いた。一事が万事。捜査権力の暴走を、彼女の着眼点が象徴している。

夫の顔つきを見て、「この人は悪いことはしていない、正しいことをしている」と判断していた点も鋭い。

理屈や知識も必要だ。しかし、五感を投入して相手を観察することは、それよりも優先すべき基本態度だと思う。

このシリーズの証言集では、動画を制作している。より多くの人が、関生支部の組合員や家族に五感で向き合ってほしい。

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