人質司法 なぜ労組は狙われたのか

ショベルカーに追われても闘った45年間 「ヤクザが見逃され、関生が逮捕される」理由とは/関生支部副委員長・武洋一さん<関西生コン事件・証言#13>

2025年05月14日 14時37分  渡辺周、中川七海

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日経連(現・経団連)の大槻文平会長は1980年代、関生支部の活動を牽制した。

「資本主義の根幹にかかわる」、「箱根の山を越えさせない」。

大槻氏が日経連の会長に就いたのは1979年。同じ年に関生支部で活動を始めたのが、現副委員長の武洋一さんだ。武さんは証言する。

「弾圧は、関生の労働運動が盛り上がると10年周期でやって来た」

権力の「虎の尾」を踏むと登場するのが、弾圧トリオ。「生コン経営者」、「暴力団関係者」、そして「警察」だ。

圧倒的に不利な状況の中でも、武さんは闘い続けてきた。45年間の原動力は何なのか。

財界が恐れる「関生の東京進出」

1980年代、関生支部の運動は盛り上がっていました。ミキサー車の運転手で、日々雇用(日雇い)でも1日1万6000円の賃金でした。以前はトラックの運転手をしていたんですが、生コンのミキサー車の運転手を始めた時は「金額を間違えてるんちゃうか」とびっくりしたほどです。

関生支部の労働運動のおかげなわけですが、運動が盛り上がってくると困るのが財界です。

日経連の会長で、三菱鉱業セメントの会長もしていた大槻文平は「関生方式は箱根の関を越えさせない」と新聞なんかで言うてましたね。資本主義を司るメンバーからすれば、労組は企業内組合に閉じ込めておきたい。それが関生支部のような産別労組が関西だけではなく、東京にまで広がってしまったら、産業構造自体がひっくり返ってしまうということやからね。

生コン業界の経営者たちは、関生支部の活動が「威力業務妨害」やと昔から言うてるけど、無茶苦茶してんのはあっちやからね。こっちが抗議に行ったら、ショベルカーで追いまくられてね。消防署が使うような放水用のホースありますよね。あのホースの金具で組合員が殴られて、頭を割られたこともありました。

経営者たちはヤクザとも繋がっています。ヤクザの名前を出して脅してくる。

それでも警察に逮捕されるのは関生支部なんですよ。権力側にしたら、関生の運動が広がっていくと社会構造が変わるという危機感がある。ヤクザを叩くよりは、関生を叩いた方がいいという力が働いているんじゃないかと思いますね。

阪神淡路大震災の教訓

労働組合がコンプライアンスを死守しなかったら、世の中がおかしくなるんよ。

1995年の阪神淡路大震災の時、あんだけコンクリートの建造物が壊れるとは夢にも思わなかったですよね。私たちは高速道路や建物の倒壊現場に調査に行きました。そうしたら、鉄筋コンクリートの柱の中が空間になってるんですよ。一斗缶、長靴、瓦礫、安全靴とかゴミがいっぱいなんよ。そりゃ壊れるわ。手抜きやもん。

建設であれ自動車であれ、どんな産業でも労働者は自分たちが作ったものに責任と誇りを持たないと。そのために労働組合は、現場での規則や手順をしっかり守っているか、コンプライアンス活動でチェックするんです。それが威力業務妨害になるなんて、ちゃんちゃらおかしい話だ。

私は特に今の連合(日本労働組合総連合会)のみなさんに言いたい。例えばトヨタが不祥事を起こした時、何をしましたか。連合傘下の組合員が、自分たちの仕事に責任と誇りを持つという意識がないとダメです。

逆にその意識を関生支部は持っている。連合の枠を越えているから、政治権力と大企業が許さないんでしょうね。

10年周期でやって来る弾圧

2018年からの今回の弾圧で、滋賀県警の組織犯罪対策課が関生事務所に来た時は、「上からの指示やから今回は徹底的にやる」っていう言い方をしてたよ。捜査員の中には、スマホの裏に旭日旗のシールを貼っている奴もおった。大阪府警は警備部やったからまだ許せるけど、滋賀県警はなんで暴力団捜査を担当する「組対」が来るねんって。

私は今回、ストライキの現場にも行っていないのに大阪府警に威力業務妨害容疑で逮捕されました。家には新聞社の記者が集まっていました。なんで先に逮捕の情報を知ってるんやって。うっとうしいから帰らせろと警察に言いました。帰らせた後で、家の前に警察車両をつけさせてサッと乗り込みました。そうすれば逮捕されるところを写真に撮られることがないから。

結局、不起訴でした。取り調べでは黙秘やから「帰らせてくれ」と言うたら、検事は本を読んでんねん。「お前の読書に付き合うのは嫌や」と言っても帰らせてくれへん。

関生支部への弾圧は、10年周期でやって来る。でも今回は規模も悪質さも全然違う。大企業がこの30年で弱ってきた一方、非正規労働者が増えてきた。「声を上げ始めたら、たまらん」というタイミングなのかもしれません。

【取材者後記】日本警察の決定的な矛盾/編集長 渡辺周

関生支部の人たちは、あまりに酷い目に遭い過ぎて、少々のことでは驚かなくなっている。45年間、関生支部で活動している武洋一さんはその典型だ。

生コン会社の経営側に「消防ホースの金具で頭を割られた」とか、「ショベルカーで追いまくられた」とか、さらりと言う。

だが取材する側にしたら驚きの連続だ。

私が最も驚いたのは、警察の暴力団関係者に対する態度だ。生コン会社の経営者たちは関生支部を押さえ込むため、暴力団関係者を利用している。それにも関わらず警察は、経営側を被害者に位置付けて関生支部を摘発してきた。

これも、関生支部の人たちにしたら、見慣れた光景かもしれない。2018年からの弾圧でも、暴力団関係者や元暴力団員が、経営側から関生支部に差し向けられている。

しかし、日本の警察にとって暴力団は壊滅の対象であるはずだ。

1964年からの3次にわたる「頂上作戦」では、幹部をターゲットにして暴力団の弱体化を目指した。1991年に暴力団対策法ができてからは、取り締まりが苛烈に。微罪の容疑での強制捜査を繰り返し、暴力団壊滅のためには「何でもあり」の様相だ。マスコミには、組事務所への家宅捜索の情報をリーク。その場面を撮らせることで、警察の「活躍」をアピールしている。

なぜ暴力団の壊滅を目指す一方で、生コン経営者たちと暴力団関係者との繋がりは黙認するのか。武さんの見方が鋭い。

「権力側にしたら、関生の運動が広がっていくと社会構造が変わるという危機感がある。ヤクザを叩くよりは、関生を叩いた方がいいという力が働いているんじゃないか」

非正規労働者が増えて、大企業の正社員との格差が開いている。為政者たちが今の社会構造を変えたくなくても、変えねばならない。

社会不安が増せば、治安も崩れる。警察はそのことを強く自覚するべきだ。

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