「風神雷神」の盾で乗り込んできた滋賀県警 攻められて気づいた組織の原点とは/関生支部執行委員・荒川勝彦さん<関西生コン事件・証言#15>
2025年05月28日 16時11分 渡辺周、中川七海
何も決まらない会議、次々に辞めていく組合員――。
2018年から始まった関生支部組合員の逮捕・勾留では、組合役員たちが不在となったため、組織は機能停止に追い込まれた。
だが関生支部は持ちこたえた。残された組合員が踏ん張った。
執行委員の荒川勝彦さんはその一人。「途中で逃げ出すようなことは絶対したくなかった」。
劣勢の中に身を置き、荒川さんが気づいた組織の原点とは?
関生に入って分かった「隣の会社」のこと
阪神大震災があった1995年に、ミキサー車の運転手になりました。復興需要で10年間は仕事があるという話でした。でも3年くらいで復興に目処がついてくると、会社側は雇用を切り始めた。そこで関生支部に加入することにしました。
関生支部は産業別労働組合ですから、組合員が所属する生コン会社は様々です。関生に入る前は自分の会社のことしか知りませんでしたが、関生で活動するようになってからは、他社の運転手がいくらの賃金でどういう雇用形態で働いているかが分かるようになりました。
同じ仕事をしていても、給料や待遇がこんなに違うんやということに気づき、労働者が横でつながることの大切さを知りましたね。同じ職種でも隣の会社でどんな人が働いているかも分からんよりは、視野を広げて全体状況を知り、ここはもっと改善しようと労働者同士が協力した方がいいと思います。
お茶目な仲間が「悪人」でニュースに
弾圧に動いた関西の警察の中でも、滋賀県警は勢い込んでいましたね。関生支部の事務所への家宅捜索では、機動隊が乗るようなバスで大勢でやってきました。盾やチェーンソーみたいなものを持ってきていました。「ここをどこやと思ってんの? 」という感じです。盾の裏には風神雷神の絵が描いてあった。「こいつら、めちゃくちゃやな」と思いました。
僕は関生支部では兵庫エリアの担当なんですが、兵庫県警は今回の弾圧では動かなかった。僕は逮捕されていません。
仲間たちは逮捕された時に、テレビニュースに出ていました。悪そうな人に映ってましたね。大原明さん(証言集5回目に登場)なんて、普段はアホなことばかり言っているお茶目な人やのに、悪そうな顔で映っていました。YouTubeでも散々、関生支部の組合員たちが悪人だという印象を与えてましたね。
こんな風に報道されたら、普通の人は関生支部を誤解します。私の知人も「関生支部は大丈夫か」と連絡してきました。
「絶対に途中で逃げ出したくなかった」
役員たちが次々に逮捕・勾留されて、関生支部の組織としての機能が止まりました。判断する人がいないので、会議をしても結論が出ない。何も決まらないままダラダラしていました。「これではあかんな」とは思っていたんですが、それが実際のところです。
勾留されている組合員たちには、面会もできなかった。ただ差し入れを持っていくだけでした。検察にしたら、そうやって組合員同士の連絡を遮断することで、組織を弱体化させようという狙いがあったんでしょう。
それでも自分は、弾圧が始まった当初から、最後まで関生におろうと思ってた。途中で逃げ出すようなことは絶対にしたくなかった。飯が食える、食われへんは別として、格好悪い。そういう生き方はしたくないという気持ちが自分の中にあったんです。
今後、関生支部はどうあるべきかという点については、「組織は人」ということを意識することが重要やと思います。
人のことを思いやり、自分の痛みとして感じる。こいつのために頑張ろうという思いで人と繋がる。信頼関係がないと組織はやっていけません。
【取材者後記】印象操作という罪/編集長 渡辺周
荒川勝彦さんと初めて対面した時、「澄んだ瞳をした人だなあ」と感じた。話をしていても、温かさと安心感を覚える。
証言集の14回目で取材した川西杏奈さんは、小学3年生の娘さんが荒川さんのファンだと教えてくれた。荒川さんがいるデモ隊が自宅の前を通ると、「荒ちゃんや! 」と言ってベランダに走って出るという。娘さんは荒川さんの人柄を感覚的に見抜いているのだろう。
一方で、荒川さんであっても、メディアが悪意を持って報じればいくらでも「悪そうな人」に印象操作できる。
関生支部はメディアによる印象操作で苦しんできた。それは、警察・検察・裁判所による弾圧と同じくらい酷薄なことだ。司法は世論によって左右されることを考えれば、印象操作をするメディアの方が罪は深いかもしれない。
印象操作をして平気な記者やユーチューバーには、関生支部の人たちに会いに来いと言いたい。その上でなお、関生支部の人たちが悪人だと言うのならば、それはそれだ。
しかし、関生支部の人たちは取材も受けないまま、警察や検察のストーリーを垂れ流されている。裁判で無罪判決が出ても、自社の報道を検証しない。お詫びの一つもない。
権力という盾の後に身を置いて、石を投げるような所業は卑怯だ。
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