イラスト:qnel
児童ポルノや同意のない性的画像の取引に使われていたアプリ、アルバムコレクション。App Storeの「写真/ビデオ」カテゴリで、ランキング1位になるほど利用され、運営者には年間数億円の金が転がり込んでいた。
このビジネスを仕切っていたのは誰か。
運営会社のイクリプスが登記されていた米国・ハワイで取材をすると、ショーン・ハートという人物が運営に関わった可能性が出てきた。しかも、イクリプスの社長であるウィリアム・リールではなく、ハートが会社の立ち上げを主導していたという証言も、リールの父親から得た。会社の設立に立ち会った会計事務所のスタッフは、ハートが会議の場にいたことを記憶していた。
ハートを知るという人物は、Tansaの報道を見てメールでこう通告してきた。
「あなたは、ショーンが日米の裏社会でどれだけの力を持っているかを知らない」
本当だろうか。
ハートは窃盗や麻薬所持の容疑で、米国の捜査当局から指名手配がかかる中、日本に逃亡したことがわかっている。共同取材を継続しているTansaとNHK取材班は、ハートの日本での足跡を辿ることにした。
米メディア「足首のモニターを外し、逃亡中」
2018年、ハートは窃盗などの容疑で、米国・ハワイのホノルル警察に指名手配されている。だが行方がわからなくなっていた。現地のメディアでもそのことが報じられていた。
同年4月8日の現地メディア「ハワイニュースナウ」には、「新たな起訴状について知らされてから、数時間以内に足首のモニターを外し、現在は逃亡中だという」と書かれている。
米国・麻薬取締局のウェブサイトには、ハートを指名手配する情報が現在も掲載されている。指定薬物を販売目的で所持していた容疑だ。
ハートが日本にいることが判明したのは、日本の報道だった。
2021年10月、ハートは沖縄県警に逮捕されていた。米国から沖縄に、コカインや大麻などを密輸した罪だ。米国の捜査当局から指名手配を受けている容疑ではない。事件を報じた琉球新報や朝日新聞によると、沖縄の米軍基地を使い、複数人に報酬を払って運搬させていた。
だが米国で指名手配されたのは2018年4月、沖縄県警に逮捕されたのは2021年10月だ。その間ハートは、どこで何をしていたのだろうか。
調べてみると、東京都内で「Xenovex(ゼノヴェックス)」という会社を立ち上げていた。2019年5月のことだ。ハートが自身で会社を作っていたという情報を得て、私たちが登記情報を洗い出したところ見つかった。
都内マンションの一室で
ハートは日本と米国にルーツがある。ゼノヴェックスの登記簿上では小南賢(こみなみ・さとし)という、日本語の名義が使われていた。
ゼノヴェックスのウェブサイトは現在は閉鎖されている。ウェブアーカイブを使い、当時のサイトを見つけた。「iPhone/Android向けアプリ開発サービス」の提供を謳っていた。
「アプリを利用するためにスマートフォンを購入するケースも少なくなく、たくさんの種類のアプリがリリースされております。提案・企画・申請・運営までアプリの全工程をサポートいたします。」
他にもWebサイトの制作が可能だとし、「企業サイト・飲食店・病院・アパレルなど、多くのジャンルでのサイト制作実績」があるとアピールしている。
アプリの開発・運営という点で、アルバムコレクションと共通性がある。ただ、それ以上の目ぼしい情報はない。
私たちはゼノヴェックスのオフィスとして登記されている、東京都内の住所を訪れた。一般の住人やオフィスが入居しているマンションの一室だ。
アルバムコレクション社長との力関係
すでにゼノヴェックスは退去していた。
だがマンションのオーナーが、ハートに部屋を貸していたことを記憶していた。退去後も登記簿上にゼノヴェックスの住所が残っていたため、連絡を試みたが、音信不通だったという。
注目すべきは、「ウィリアム」という従業員がいたことをマンションのオーナーが覚えていたことだ。アルバムコレクションの運営会社は、ハワイのイクリプス社で、社長の名前はウィリアム・リール。同一人物の可能性が高い。実は、沖縄の麻薬密輸事件ではリールも逮捕されている(その後リールは不起訴)。日本で行動を共にしていたのだ。
リールは、ハートが経営するゼノヴェックスの従業員だった。これは両者の実際の力関係を考える上で重要な情報だ。ハートの方がリールよりも上ということになる。
リールの父親も2024年3月、私たちの取材に対し、リールがハワイにイクリプスを設立したのはハートの指示だったと話している。
麻薬密輸事件との関連は?
ここまでの取材結果を元に考察すると、次のような経緯になる。
2018年4月、ハートはホノルル警察にクレジットカード情報の窃盗で起訴された。違法薬物の所持にも問われていた。しかし起訴から数時間後に、ハートは日本へ逃亡する。
同年11月、アルバムコレクションを運営するイクリプス社がハワイに登記。ハートは逃亡中のため、「手下」であるリールを登記上の社長に据える。
2019年5月、ハートは東京でゼノヴェックス社を立ち上げた。リールは同社の従業員だった。
2021年、ハートとリールは、麻薬密輸事件で沖縄県警に逮捕される。
こうなると、ハートこそがアルバムコレクションの実質的な運営者ということになる。
だが、まだ腑に落ちない。
ハートとその補佐役のリールだけが、アルバムコレクションの運営をしていたのだろうか。収益は年間で数億円。そんな大金を、本当に2人だけの収入にしていたのか。
そもそも日本にはどうやって逃亡したのだろう。日米両国の捜査当局は、指名手配者を逃し、新たなビジネスを許すほど甘いのだろうか。ハートの手助けをした組織があるのではないか。Tansaに警告してきた人物は、ハートについて「日米の裏社会に力を持つ」とまで言っている。
こうした疑惑を深めるように、沖縄の麻薬密輸事件ではハートとリールを含む、日米の10人が逮捕された。ハートは13年の懲役が確定している。重大事件だ。
アルバムコレクションのビジネスと、沖縄の麻薬密輸事件は、同じ犯罪組織が関わっているのではないか。私たちは手がかりを求めて、沖縄に向かった。
=つづく
敬称略
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