児童ポルノや同意のない性的画像の取引に使われていたアルバムコレクションの運営に、2人の人物が関わっていたことがわかってきた。
1人は、ウィリアム・リール。アルバムコレクションの運営会社、ハワイのイクリプス社の社長だった。
もう1人が、ショーン・ハート。米国の捜査当局に2018年から指名手配されている中、日本に逃亡した。東京で2019年に起業した後、2021年に麻薬密輸容疑で沖縄県警に逮捕された。この際、リールも逮捕されているが不起訴となった。
これまでの取材で見えてきたのは、リールはイクリプス社の社長だったものの、実際の力関係はハートが上だったことだ。
だが、この2人だけがアルバムコレクションの運営に関わっていたのだろうか。アルバムコレクションの収益は年間数億円。他にも分け前を得ていたものがいるのではないか。ハートは指名手配中に日本に逃亡したことを考えると、組織的なバックアップがあったとも考えられる。
鍵を握るのは、沖縄の麻薬密輸事件だ。ハート、リールだけではなく、他に8人が逮捕されている。
イラスト:qnel
米軍基地の私書箱を利用し、密輸
裁判資料や沖縄県警への取材、報道によると以下が沖縄の麻薬密輸事件の概要だ。
2021年6月、ハートらは共謀し米国から麻薬を密輸した。押収された薬物は、コカイン計2.25kg、大麻リキッド約2kgと大麻固形物約0.1kg。コカインの末端価格は4500万円以上に上る。指示役はハートだ。
麻薬は米国から購入し、沖縄の米軍基地の私書箱に届けさせた。麻薬が入った荷物は米軍属が受け取り、複数の知人を介して東京に運んだ。受け渡し役には1人あたり10万円または20万円の報酬が支払われた。沖縄から東京へ帰る際は、手荷物検査のない船や新幹線を使うよう指示もした。
逮捕された10人の中には、アルバムコレクションを運営するイクリプス社の社長、ウィリアム・リールも含まれていた。リールはその後、麻薬密輸には関わっていないと認定され、不起訴となった。
ハートには懲役13年・罰金500万円の刑が言い渡された。現在は日本国内の刑務所で服役している。
「極悪人ではなく、人柄のいい人」
だがハートは裁判で無罪を主張した。
私たちは、ハートの弁護をした大井琢を取材した。大井は国選弁護人ではなく、ハートの依頼した私選弁護人だ。
大井は、貧困問題をライフワークとする弁護士だ。子どもの福祉にも力を入れており、保育事故で国の責任を問う訴訟を2024年に提起している。訴訟を起こした日の記者会見では「国は全ての子どもに安全な保育を保障する責任がある」と語った。
大井はハートに対し、「率直に言って、慕われるような」印象を抱いたという。
「弁護士の立場ということもあるのは前提として申し上げると、すごい極悪人という感じはしないというか、むしろ人柄のいい人」
職業はシステムエンジニアを名乗り、技術があると語っていたという。
無罪主張の理由
ハートは裁判で、以下のような理由を挙げて無罪を主張した。
「荷物の中身が違法薬物だと知らなかった」
「麻薬の入った荷物は、別の人物から依頼されたものだった」
どういうことか。
逮捕前、ハートはCBDと呼ばれる大麻由来の成分をスティック型やグミ、オイルなどに加工して販売していた。CBDは輸入の際、麻薬に該当しないかの確認や含有成分の限度値が定められているが、違法ではない。
ハートはCBDを米国から仕入れていた。だが仕入れた荷物が行方不明になったことがあったので、知人から紹介された沖縄米軍基地の私書箱を受け取りで使うようになった。逮捕時までに6回ほどこの私書箱で荷物を受け取った。1回の輸入で、1000万円ほどの利益が出た。
ハートはこの米軍基地の私書箱を、別の人物にも使わせていた。逮捕に至った麻薬はその人物が輸入し私書箱に届けた荷物であり、自身は中身を知らないまま、受け取ったというのだ。その人物は以前はCBDの輸入をしていたので、違法な麻薬とは思わなかったという。
この主張が事実であれば、ハートは無罪になる可能性がある。
裁判資料でもカタカナ表記の苗字だけ
麻薬が入った荷物を発注したとされる人物は、裁判資料中に「シマムラ」と表記されていた。判決には弁護側の主張が次のように綴られている。被告人とはハートのことだ。
「本件荷物は、シマムラなる被告人の知人が本件輸入ルートを用いて発注した荷物である。以前シマムラに本件輸入ルートを輸入させた際に見た荷物の中身は合法物質であるCBDであったので、被告人は本件荷物の中身もCBD等と思っていた」
ハートの主張が本当かどうかを確かめるためには、シマムラを聴取する必要がある。しかし、警察と検察はシマムラを聴取していない。裁判で証人として出廷することもなかった。裁判資料には「シマムラ」と苗字がカタカナで表記されているだけだ。
しかし裁判所は、ハートが私書箱に届いた荷物を主体的に管理していたと評価した。
「本件荷物の配送に当たって、被告人は、本件荷物やその他の荷物と同様に、関係者への指示・管理を行った上、関係者の高額な報酬や、交通費・宿泊費も含めてすべて負担している」
つまり、ハートが米国から沖縄米軍基地に届く荷物を管理し、輸入に携わった人物たちに指示を出していたならば、荷物の中身が麻薬だと知らなかったはずがないということだ。
思い浮かんだ一人の日本人
気になるのはシマムラという人物である。ハートが無罪を主張する根拠となる人物にも関わらず、正体不明だ。
私はあることを思い出した。
アルバムコレクションの運営会社、イクリプス社を担当していた会計事務所のスタッフの話だ。
会計事務所のスタッフによると、イクリプス社との打ち合わせの際、イクリプス社からはハートを含む2〜3人が来ていた。社長であるウィリアム・リールはいなかった。ハート以外で打ち合わせに来ていた人物について、次のように証言した。
「日本人で20代、見た目は、ちょっと、半グレじゃないですけども。かっこいいというか、スマートな半グレみたいな」
「その方は、かなり数字とかをきちんとされている方で、その方と終始、やりとりをしている感じです」
他方で、そのスタッフはハートのことをこう記憶していた。
「この人はなにか英語がしゃべれるから、一緒にアメリカでビジネスをやるから、一緒にやっているだけなのかなと思った感じですね。それくらい、なにもあまりわかっていないような印象を受けました」
ハートが、沖縄の麻薬密輸事件での無罪を主張する際に持ち出した「シマムラ」は、会計事務所のスタッフが言う「半グレ」の人物と同じではないか。
真相を知るのは、ハートだ。
私たちはこの間、服役中のハートに2度手紙を送り、取材を申し込んだ。シマムラとの関係についても教えてほしいと伝えたが、返事はなかった。
昨年12月には刑務所まで赴き、本人に面会しようとした。だが刑務官から面会依頼を告げられたハートは、「辞退します」と一言答えたという。
=つづく
敬称略
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