誰が私を拡散したのか

各国巡る取材の果て、沖縄で途絶えた「組織犯罪」の手がかり 性的画像拡散アプリを野放しにする警察(41)

2025年06月20日 19時32分  辻麻梨子、渡辺周

イラスト:qnel

性的画像の取引で年間数億円の収益を上げていたアルバムコレクションと、沖縄米軍基地を舞台にした麻薬密輸事件。共通点は、いずれもショーン・ハートという人物が関わっていることだ。

アルバムコレクションを運営するイクリプス社の社長は、ウィリアム・リールだったが、実際はハートがリールに指示を出していたとみられる。沖縄の麻薬密輸でも、主犯格として懲役13年が確定した。

ところが、さらにそのハートに指示を出していた可能性のある人物がいる。「シマムラ」だ。沖縄の事件で登場する人物で、判決文だけではなく、証拠と裁判過程の記録を丹念に閲覧したところ、シマムラとハートの関係性をうかがうことができた。

シマムラが証拠隠滅を指示?

私たちは那覇地検で、麻薬密輸事件の刑事裁判記録を閲覧した。

刑事事件の記録には、被告であるハートや事件に関係した人物の調書、事件の証拠となる薬物や防犯カメラの写真、麻薬の入った荷物の輸出入のデータなどが含まれていた。細かな情報も多いが、コピーや丸ごと書き写すことは禁止だという。会議室で職員の立ち会いのもと、メモをとった。

ハートは事件前、CBDと呼ばれる合法薬物を輸入するビジネスをしていた。シマムラからの依頼で沖縄米軍基地内の私書箱で荷物を受け取り、運搬する仕事も請け負っていた。だが2021年6月の荷物には麻薬が入っていた。ハートは中身がCBDだと思っていた。これがハートの主張だ。

3回目の公判でハートは、自身の弁護士である大井琢と次のようなやりとりをした。()内は資料では黒塗りだが、Tansaが取材をもとに加筆した。

「2020年12月に、このルートを使ってあなたの荷物じゃないものを入れてますよね。誰の依頼ですか」

「(シマムラ)っていう人から依頼されました」

「(シマムラ)っていうのはあなたとの関係、どういう人物ですか」

「客みたいなものですね。CBDの。CBDとかを買ってくれました。」

ハートはシマムラのことを、「客」としか言っていない。

だが弁護士の大井への取材で、重要なことがわかった。

一連の事件では、2021年6月ごろにまず運搬役の人物らが逮捕された。その後、沖縄県警の突き上げ捜査で関与が判明し、ハートが逮捕されたのは同年10月だ。

ハートは、「自分が逮捕される前にシマムラから指示があり、携帯電話を捨てた」という趣旨の主張をしていたという。

単なる売り手と客であれば、ハートがシマムラから証拠隠滅まで指示されるだろうか。

甲府市内のマンションに金庫

刑事裁判の記録を見ていて、もうひとつ気になることがあった。ハートが逮捕された場所だ。

ハートは東京に住んでいたが、2021年8月に山梨県甲府市のマンションに引っ越した。麻薬の運搬役が逮捕された約2カ月後のことだ。

逮捕の直前には、甲府市内のホテルに別人の名前で宿泊していた。ホテルを出てきたところを、逮捕された。ハートが住んでいたマンションの一室は、家宅捜索を受けた。

警察の差押調書によると、部屋は3LDK。ベッドが2台置かれ、押入れとクローゼットには金庫があった。金庫の中からは現金のほか、覚醒剤成分を含み米国ではADHD治療薬としても使われるアデロールが見つかった。部屋には別の人物がいた形跡もあった。

指名手配されているのに、米当局にも知らせず

この事件では計10人が逮捕されている。主犯格はハートということになっているが、そのハートは逮捕される前、シマムラから携帯電話を捨てて証拠を隠滅するよう指示された。

共犯者が逮捕された直後は、東京から山梨に引っ越して、そこには現金や麻薬、そして別の人物がいた形跡もあった。

私たちはこれを「組織犯罪」だと考えている。

実際、沖縄県警は組織犯罪対策課が捜査した。

私たちはNHKの取材班と沖縄県警の組織犯罪対策課・山城裕司警視を取材した。

2021年6月、沖縄県警は米・NCIS(海軍犯罪捜査局)から通報を受けた。米軍基地内の私書箱で荷物を受け取っていた米軍属の人物が、中身が違法薬物であることを自ら申し出たからだ。

県警や税関はクリーン・コントロールド・デリバリーという手法で、麻薬を代替物に入れ替えて荷物を追跡。軍属から荷物を受け取る予定だった人物らを那覇市内で逮捕した。そこから突き上げ捜査を行い、運搬役に指示を出していたハートが逮捕されたのだった。

しかし捜査はそこで終結した。

薬物が誰によって、どのように売買されたかまでの捜査はしなかったのだ。山城は「小南(ハートの日本名)で止まっちゃってる」と言う。

ハートは日本に来る前、米国でも逮捕され指名手配されていた。そのことについても、沖縄県警は米国の警察に連絡すらしなかった。今も、米国では指名手配されたままだ。

警察の怠慢で拡大し続ける被害

アルバムコレクションで、本人が同意していない性的画像や児童ポルノが売買されていることを知ってから、私たちは運営者の正体を追い続けてきた。

ホワイトハッカーとともにアプリの痕跡をたどって、前身となったアプリを始めたのが高浜憲一と新田啓介であることを突き止めた。高浜にはシンガポールまで取材に行った。

昨年3月には、イクリプス社が登記されていたハワイで取材した。そこでは、運営の中心は社長のウィリアム・リールとは別の人物であることをつかんだ。浮上したのがショーン・ハート。そして「半グレ風」の日本人だ。

日本人の正体を知るために、ハートが関わった沖縄での麻薬密輸事件も調べた。ハートに証拠隠滅も指示した「シマムラ」という人物が浮上したが、情報は途切れてしまった。

アルバムコレクションと、沖縄の麻薬密輸事件での登場人物は重なっている。日米の捜査当局がしっかり捜査していれば組織犯罪として解明できたかもしれない。

杜撰でやる気のない捜査を尻目に、デジタル性暴力の被害は拡大する一方だ。

アルバムコレクション以外にも、様々なアプリやネット上のツールが犯罪の温床となっている。次回以降、現状を伝えていく。

=つづく

敬称略

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