人質司法 なぜ労組は狙われたのか

大寄麻代裁判長、黙秘権を無視 関西生コン国賠判決、請求を全面棄却【大寄麻代裁判長を問う①】

2025年10月31日 20時45分  渡辺周、中川七海、千金良航太郎

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国賠訴訟の判決について、東京地裁の前で報告する関西生コン支部の山本智さん=東京都千代田区で2025年10月31日、千金良航太郎撮影

2025年10月31日は、裁判所が黙秘権すら認めないという歴史的な日となった。

労働組合「関西生コン支部」(関生支部)の組合員が延べ89人逮捕された刑事弾圧をめぐり、関生支部が国を提訴した国家賠償請求訴訟の判決で、東京地裁民事第1部は関生支部の訴えを全面的に退けた。裁判長は大寄麻代(おおより・あさよ)氏。

関生支部は、最長644日に及んだ身柄拘束による「人質司法」や、黙秘している組合員に検事が関生支部からの脱退を迫ったことは違法だと訴えていた。刑事事件では、すでに4件12人の無罪が確定している。

ところが判決は、黙秘していた組合員に検事が「反省を促した」と判断。憲法38条が保障する黙秘権すら認めなかった。

関生支部の湯川裕司委員長は判決後、次のように語り東京高裁に控訴することを決めた。

「人権を重んじないといけない裁判官が、本来の役割を忘れサラリーマン化し、警察や検察、政治権力に迎合することで三権分立が失われていることに強い危機感と絶望を感じています」

「それでも私たち関生支部はあきらめません。人権を守り、弱い立場にある人を救済する産業別労働組合として、信念と希望、情熱を失わずに権力による冤罪事件と闘います」

裁判官が憲法38条を知らない?

関生支部は訴訟を通じ、滋賀、京都、大阪、和歌山の各府県の警察・検察による捜査の違法性を訴えてきた。一部の事例を挙げる。

・湯川委員長の644日に及ぶ勾留。勾留期間が切れそうになると、新たな事件を仕立てて逮捕するという手法を繰り返した。

 

・中学生の息子と同居する組合員の自宅を家宅捜索した際、滋賀県警の捜査員が息子の部屋を指して「(逮捕されたら)施設に入れるんかどないすんのや」と言って動揺させる。

 

・滋賀県警の井澤武史刑事が「関生を辞めてたら任意の事情聴取で済んだ」「関生を辞めるんだったら、ええ方法を考えたる」「子どもより組織が大事なのか」と関生支部を辞めるよう迫る。

 

・大阪地検の天川恭子検事が、勾留されている組合員の妻の携帯に電話し「組合活動を続けるのはよくないので、組合活動をやめることを家族として求めるべきだ」と言う。

 

・「黙秘します」と143回言った組合員の山本智さんに対し、大津地検の横麻由子検事が「家族にも心配かけて、あなた自身も嫌な思いをしてまで続けますって思うということは、よっぽど何かないと今後しんどいと思います」などと執拗に関生支部からの脱退を持ちかける。

しかし、判決ではこうした刑事や検事たちの態度を「社会通念上認められる」と容認した。

山本さんが黙秘してもなお、横検事が捜査とも関係ない組合脱退を求めたことについては、こう述べた。

「当該組合員の良心に訴えて反省を促し、被疑事実に関する任意の供述を得ようと説得を試みていたものと理解することができる」

黙秘権については、憲法38条で「何人も、自己に不利益な供述を強要されない」と定められている。判決を出した大寄裁判長、中西永裁判官、永瀬雄大裁判官は憲法を勉強せずに裁判官になったのだろうか。

山本さんは「なんでこの国では黙秘権が認められないのか。そのことが腹立たしい。憲法を守らないのでしょうか」。

関生支部の太田健義弁護士も「検事に反省を促す権限があるのか。裁判官の発想がおかしい。3人の裁判官による合議なのに、こんな判決を出すとは恐ろしい」と怒りをあらわにした。

大寄裁判長「当事者の思いを想像している」

「裁判官ガチャ」という言葉が、裁判の当事者たちの間ではよく使われる。どの裁判官が担当するかによって、判決が左右されてしまうという意味だ。

今回、黙秘権を認めないという判決を出した大寄麻代裁判長は、どのような人物なのか。

小学部から高等部まで東洋英和女学院。1992年に東京大学文科一類に入学。法学部で学び、4年生の時に司法試験に合格した。

大学卒業後、司法修習を経て1998年裁判官(判事補)に任官し、東京地方裁判所民事部で勤務。2000年より2年間、英国オックスフォード大学大学院に留学。帰国後は東京地裁、那覇地裁、東京高裁、福岡地・家裁、知財高裁、最高裁調査官室、仙台地裁などを経て2023年より東京地裁部総括判事。裁判官に任官されてから、一環して民事裁判を担当している。

東洋英和女学院のサイトに載っている卒業生インタビューによると、中高部では文芸部や新聞部に所属。取材して記事を書くことがとても楽しかったという。中学部時代には小説を書いて応募したこともある。

裁判官になった理由については、こう語っている。

「英和時代に敬神奉仕の教えのもと、常に隣にいる人を思い、困っている人がいたら自分には何ができるかを考えるようになったことは、職業選択に大きく影響したと思っています」

裁判官になってからは転勤が多いが、裁判官の夫と異動時期を合わせたり、近いエリアで働けるように配属してもらったりした。人事異動では、できるだけ家族が一緒に暮らせるように配慮してくれたという。

裁判官として、仕事をしていく上で大切にしていることは何か。

「事件を解決していくためには、『想像力』が非常に大切です。世の中で起きる事件、トラブルの多くは、自分自身が直接体験できることではありませんから、当事者の状況、思いを想像して解決法を考えなければいけません。そのために、若いうちに好奇心を持っていろいろなことを見たり聞いたり、やってみたりする経験が必要なのです」

連載「大寄麻代裁判長を問う」を始めます

憲法すら無視する。「日本は中世か」とまで言われ、国際的な批判を浴びている「人質司法」に加担する。今回の大寄裁判長の判決を司法崩壊の危機と捉え、毎週金曜日に連載します。

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