「被疑者ノート」は信じない、耳を傾ける相手は捜査員 「社会通念」で押し切った関西生コン国賠判決【大寄麻代裁判長を問う②】
2025年11月07日 14時26分 渡辺周

関西生コン支部の山本智さんが取り調べ中に記録していた「被疑者ノート」
刑事弾圧を受けた労働組合「関西生コン支部」(関生支部)が、国を訴えた国家賠償請求訴訟では、2025年10月31日に黙秘権すら認めないという判決が出た。黙秘する関生支部の組合員に、検事が組合からの脱退を持ちかけたが、判決では「反省を促し、被疑事実に関する任意の供述を得ようと説得を試みた」と判断した。
裁判長は大寄麻代(おおより・あさよ)氏だ。
司法制度の根幹を否定するような判決だが、常軌を逸しているのは黙秘権に関する判断だけではない。連載「大寄麻代裁判長を問う」の2回目は、「被疑者ノート」の信用性を否定したことについて取り上げる。
ノートは、関生支部の組合員たちが、取り調べを受けた際に、不当な捜査から身を守るために記録したものだ。しかし大寄判決は、国家賠償訴訟を起こされた後の、捜査官たちの証言を信じた。
連載「大寄麻代裁判長を問う」
滋賀県警捜査員「国選弁護士に変えた方がいい」
関生支部の元組合員A氏と、山本智氏はいずれも滋賀県警の捜査員による言動を、被疑者ノートに記録していた。
被疑者ノートは、身柄を拘束されている間に受けた取り調べを記録するためのものだ。自白の強要や黙秘権の侵害がないか、捜査官の言動を記録する。日本では、罪を認めない限り釈放されない「人質司法」が当たり前のようになっている。冤罪から身を守るための必需品だ。
大寄判決では、A氏が2018年2月7日、8日、12日の取り調べの後、被疑者ノートに以下の内容を記載していたと認定した。
「井澤警察官から、組合をやめるよう説得する話をされた」
「井澤警察官から『子どもより組織が大事か』と言われた」
「井澤警察官から『組合をやめると言うまで気長に待つ』と言われた」
「井澤警察官から、私選弁護人ではなく国選弁護人に変える方がよいと勧められ、『組合の弁護士は組織のことしか考えていない』と言われた」
ところが、大寄判決は「被疑者ノートの記載内容は断片的で、前後関係や文脈が明らかではない」ことや、滋賀県警側が「発言の存在を否認している」という理由で、次のような結論を出す。
「組合脱退に関して一定の発言があったとしても、それが社会通念上相当と認められる範囲を逸脱した取り調べであると認定することはできないし、原告組合らの団結権を侵害する行為に当たるということもできない」
「お前たちはコマづかいやな」
山本氏の被疑者ノートについては、2018年11月28日の滋賀県警・西澤警察官による取り調べに関し、以下の内容が記載されていることを、大寄判決は認めている。
「上の方は金いっぱいためこんで、自分ら(お前たち)はコマづかいやな。組合をやめることを自分が周りをひっぱっていかなあかんやろ」
ところがこれに対しても、「被疑者ノートの記載は断片的で、前後関係や文脈が明らかでない」ことや、滋賀県警側が「言動の存在を否認している」という理由で、次のような結論を出す。
「西澤警察官が本件行為をしたことを認めるには足りないし、社会通念上相当と認められる範囲を逸脱した取り調べであると認定することもできない」
大寄判決ではこのように、「社会通念」という言葉が決めゼリフのように随所に出てくる。いずれも判断に対する根拠のなさを、強引に「社会通念」でごまかしている。
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