人質司法 なぜ労組は狙われたのか

関西生コン事件、あす大阪高裁で判決 一審判決には決定的な「矛盾」、湯川委員長への懲役4年は覆るか

2025年11月17日 18時24分  渡辺周

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大阪高裁

2025年11月18日、労働組合「関西生コン支部」(関生支部)の湯川裕司委員長への控訴審判決が、大阪高裁で言い渡される。

一審の大津地裁では懲役4年。建設現場での法令違反や不備を指摘する「コンプライアンス活動」や、コンプラ活動を受けた側の生コン会社から寄付金を受領したことが、それぞれ威力業務妨害や恐喝に当たると認定された。

執行猶予なしの懲役4年という刑の重さは、寄付金の受領が恐喝と認定されたことが主因だ。

しかし、その認定には決定的な矛盾がある。

懲役4年は覆るか。控訴審判決を前に、杜撰な一審判決を振り返る。

「団体権」と言い間違えた畑山裁判長

一審の大津地裁の裁判長は、畑山靖氏。2023年3月2日の判決言い渡しでは、判決文を読み上げている際に重大なミスをした。

憲法28条が保障している労働組合の「団結権」を「団体権」と言い間違えたのだ。陪席の裁判官にミスを指摘され言い直した。

労組活動について、畑山裁判長が理解できていないことは、判決内容からも明らかだった。

関生支部のコンプラ活動について、「工事現場において軽微な不備を指摘する活動」と認定。生コン業者や建設会社への妨害や脅迫にあたるとみなした。

だが、工事現場での不備を指摘することは重要だ。些細なミスであっても積み重なれば大事故につながることがあるからだ。

これは労働災害を防ぐために、米国のハーバート・ウィリアム・ハインリッヒが提唱した「ハインリッヒの法則」として知られる。この法則によると、1件の重大事故に対して29件の軽微な事故と300件の異常がある。働く人の安全を守る労働組合としては、たとえ裁判所が「軽微な不備」として片付けても、現場で改善を求める活動は必要だ。

1995年の阪神淡路大震災の際、関生支部員たちは現地を調査してコンプラ活動の重要性を痛感した。倒壊した建物の鉄筋コンクリートの柱の中が空洞で、一斗缶や長靴などが投棄されていたのだ。

明暗分けた「木下証言」

湯川氏による恐喝だとみなされた事件は、2015年5月21日に起きた。

一審判決によると、当時は副委員長だった湯川氏は、武建一委員長と共に、大阪市内のホテルラウンジで、タイヨー生コンの代表取締役A氏と面会。A氏が、関生支部によるコンプラ活動に畏怖していることに乗じ、現金1000万円を脅し取った。現金を受け取ったのは武氏で、湯川氏は現金の受け渡しの際は席を外していた。

これに対して湯川氏の側は、コンプラ活動はタイヨー生コンの法令無視の企業体質を改善するために実施したと主張。1000万円は、関生支部50周年記念事業で会館を新築する際のカンパだったとの認識を示した。

湯川氏側の主張はなぜ退けられたのか。大きな要因が「木下証言」にある。関生支部の元組合員で、京津ブロック長の木下俊介氏による証言のことで、以下のように裁判で述べた。

「湯川氏から指示を受け、タイヨー生コンの専務に圧力をかけるため、タイヨーに関係する現場でコンプラ活動をした」

一審判決は、木下氏の証言について「信用できる」としたが、真逆の判断をした判決がある。関生支部の和歌山での事件について、逆転無罪を出した大阪高裁の判決だ。

和田真裁判長は、「憲法28条で保障されている労組活動は違法性が阻却される」という前提を示しつつ、関生支部側を有罪とした一審判決の間違いを具体的に指摘した。

その一つが、和歌山事件でも関生支部に不利な証言をした木下証言だ。和田裁判長は「不自然な内容」、「信用できるものではない」と断じた。木下氏は証言した当時、関生支部を辞めて、生コン経営者で作る「大阪広域生コンクリート協同組合」(大阪広域協)に付いていたからだ。 大阪広域協は、関生支部とは鋭く対立している。

同じ事件なのに真逆の判断

タイヨー生コンから1000万円を受領したことを「恐喝」とした大津地裁の判断には、さらに決定的な矛盾があった。

タイヨー生コンの代表取締役A氏から、直接1000万円を受け取った当時の委員長、武建一氏が大阪地裁では無罪となっているのだ。他の事件の審理との兼ね合いで、タイヨー生コンへの「恐喝」について、湯川氏は大津地裁、武氏は大阪地裁で裁判をした。

大阪地裁の裁判長は佐藤卓生氏。2021年7月13日の判決ではタイヨー生コンへのコンプラ活動について以下のように認定した。

「その行為の客観的な態様からみて、脅迫的であったり、高圧的であったり、相手を畏怖させるような不穏当な発言に及んだりしたなどとは認められない」

その上で、タイヨー生コンから1000万円を受け取ったことは、次のように評価した。

「相手方を畏怖させて金銭の交付を要求する行為と評価できるものではない」

「全体として高圧的とはいえない態度で、湯川からタイヨー生コンの納入先の工事現場における不備の内容について説明させ、協働組合と労働組合との協力・連携及び大阪広域協の一本化による値戻しの実現を参考にして、大津においても労働組合と協力して業界を再編した方がいいという話をした」

この判決は、2023年3月13日の大阪高裁での控訴審判決でも維持され、確定した。

労働法学者の意見書を証拠採用

今回の大阪高裁での審理では、裁判官の求めで労働法学者の追加意見書が弁護側から提出され、証拠として採用された。労組活動の本義を意識した進行だった。

裁判長は石川恭司氏。明日11月18日午後2時30分から、湯川委員長のほかコンプラ活動に参加した他の組合員らに判決を言い渡す。

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