人質司法 なぜ労組は狙われたのか

関西生コン事件、大阪高裁で一部無罪 湯川裕司委員長への実刑は回避しても残る「産別労組」への無理解

2025年11月18日 19時59分  渡辺周、中川七海、千金良航太郎

判決後、組合員や支援者の前で裁判の報告をする、関西生コン支部の湯川裕司委員長=大阪市で2025年11月18日、千金良航太郎撮影

2025年11月18日、労働組合「関西生コン支部」(関生支部)の湯川裕司委員長らへの控訴審判決が大阪高裁であった。

一審の大津地裁では湯川委員長に懲役4年。建設現場での法令違反や不備を指摘する「コンプライアンス活動」や、コンプラ活動を受けた側の生コン会社から寄付金を受領したことが、それぞれ威力業務妨害や恐喝に当たると認定された。執行猶予なしの懲役4年だったのは、寄付金の受領が恐喝と判断されたからだ。

これに対し、大阪高裁は恐喝に関しては一審の判決を破棄し、無罪。コンプラ活動は威力業務妨害などに当たるとし、有罪を維持した。

その結果、湯川委員長は懲役3年・執行猶予5年。実刑は回避された。

ただ、産業別労働組合として必須なコンプラ活動は有罪とされたことから、最高裁に上告する。

石川裁判長「一審は論理的経験則等に反し不合理」

判決後に掲げられた「一部無罪」と「不当判決」の旗=大阪市で2025年11月18日、千金良航太郎撮影

一審判決によると、2015年5月21日、当時は副委員長だった湯川氏が、武建一委員長と共に、大阪市内のホテルラウンジで、タイヨー生コンの代表取締役A氏と面会。A氏が、関生支部によるコンプラ活動に畏怖していることに乗じ、現金1000万円を脅し取った。

これに対して湯川氏の側は、コンプラ活動はタイヨー生コンの法令無視の企業体質を改善するために実施したと主張。1000万円は、関生支部50周年記念事業で会館を新築する際のカンパだったとの認識を示していた。

大阪高裁の裁判長は石川恭司氏。恐喝について「是認することができず、事実誤認がある」とまで踏み込み一審判決を破棄した。理由については以下のように述べた。

「原判決は、面会までにAが現金1000万円を用意し、面会の際に持参した事実をもって、面会前に支部側がその支払いをタイヨー生コンに要求したと認め、これが被告人湯川らの実行行為に当たると判断したが、推認力の乏しい間接事実による推論といわざるを得ず、論理的経験則等に反し不合理である」

コンプラ活動はなぜ有罪になったのか

判決前、大阪高裁に対し労働法に基づいた正当な判決を求めてデモ行進する、関西生コン支部の組合員と支援者たち=大阪市で2025年11月18日、千金良航太郎撮影

大阪高裁は恐喝を無罪とした一方で、コンプラ活動については有罪を維持した。執行猶予をつけたものの、湯川委員長をはじめ組合員らに懲役1年〜3年を言い渡した。

コンプラ活動は、労働災害や生コンの品質低下を防ぐために必要だ。工事現場などでの法令違反や、手順通りに行っていない作業を改善させる。1995年の阪神淡路大震災の際、関生支部員たちは現地を調査してコンプラ活動の重要性を痛感した。倒壊した建物の鉄筋コンクリートの柱の中が空洞で、一斗缶や長靴などが投棄されていた。

しかし石川裁判長は、「生コン供給契約の相手方を、アウト企業から協組に変更させることを意図したもの」と認定した。

生コン産業は、販売先のゼネコンに比べて小さい。そのため協同組合で生コン価格を決め、「安売り合戦」にならないようする。だが協同組合には入らず安売りをする業者もある。協組の外という意味で「アウト企業」と呼んでいる。

関生支部は、アウト企業ではなく、協組の加入企業から生コンを購入するよう求めたのと同時に、コンプラ活動を行っていた。このため石川裁判長は、コンプラ活動の目的が生コン供給契約の変更にあったと判断し、「威力業務妨害」や「恐喝未遂」とした。

【解説】石川裁判長の産別労組への無理解/編集長・渡辺周

石川裁判長は関生支部のコンプラ活動を、なぜ違法と判断したのか。そこには、産業別労働組合に対する無理解がある。

産別労組は、その産業全体の発展のために存在する。労働者の賃金や待遇のためだけに活動しているわけではない。

生コン産業の場合、仕入れ先のセメント会社、販売先のゼネコンに挟まれており、中小零細企業ばかりだ。そのため、協同組合を作って価格交渉し、協組に加入せず安売りをする「アウト企業」を減らすことは、産業全体の利益にかなう。だからこそ、関生支部はアウト企業対策では経営側と協調してきた歴史がある。

コンプラ活動も生コン業界の信頼のために必須だ。建物や橋、道路といった社会的なインフラの安全を維持するには、細かな違反でも見逃さないことが必要だ。米国のハーバート・ウィリアム・ハインリッヒが提唱した「ハインリッヒの法則」によると、1件の重大事故に対して29件の軽微な事故と300件の異常がある。

しかし石川裁判長は、アウト企業対策とコンプラ活動が重なったことをもって、有罪とした。産別労組を理解していないと言わざるを得ない。

関生支部の湯川委員長は「産業民主主義」の確立を提唱している。経営者だけが産業の行方を決めるのではなく、労働者も自身が関わる産業のために知恵と力を出していくという意味だ。

日本では企業内労働組合がほとんどで、自社のことだけしか頭にない。産業全体のために活動するという発想自体が乏しい日本社会を、今回の判決が象徴している。

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