公害「PFOA」

全国44のPFAS団体が「全国連絡会」を発足 食品安全委・環境省に要望書を提出 「紛れもない人権侵害、水道基準は子どもに合わせて」

2026年03月19日 22時38分  中川七海

FacebookTwitterEmailHatenaLineBluesky

「PFAS全国連絡会」(仮称)呼びかけ人代表の小倉博司氏=東京都千代田区で2026年3月19日、千金良航太郎撮影

「令和の化学物質公害」に立ち向かうため、全国のPFAS汚染地の市民団体が一致団結した。

2026年3月19日、全国44の市民団体からなる「PFAS全国連絡会」(仮称、以下「連絡会」)が発足。環境省と内閣府食品安全委員会に、水道基準の見直しや実態調査の実施などを求める要望書を提出した。

提出先の省庁担当者と連絡会との意見交換会も、公開で実施された。

要望4項目

連絡会発足のきっかけは2025年11月。神戸で開催された、PFASに関する勉強会だ。

勉強会終了後、会に参加した「円城浄水場PFAS問題有志の会」代表の小倉博司氏と「明石神戸PFAS汚染と健康を考える会」代表の渋谷進氏が意気投合した。

「PFOAかPFOSかといった物質の違いや、企業か軍事基地かといった汚染源の違いを超えて、全国の市民が横に繋がろう」

「大阪PFAS汚染と健康を考える会」のメンバーらも加わった。3団体が中心となって全国に呼びかけ、今日までに44の団体が連絡会への参加を決めた。わずか4カ月の出来事だった。

▽北海道

江別の水を考える会

▽秋田県

秋田県大館市PFASと市民の健康を考える会

▽東京都

多摩地域のPFAS汚染から命と健康を守る連絡会

昭島PFAS汚染から市民を守る会

PFAS汚染を明らかにする立川市民の会

PFASを考え、安心で住みやすい国分寺を創る市民の会

安全な水を求める西東京市民の会

有機フッ素化合物汚染を明らかにする国立の会

小金井の水連絡会

▽千葉県

柏・鎌ヶ谷・白井地域のPFAS汚染を考える市民の会

▽神奈川県

相模川・さがみ地域協議会

桂川・相模川流域協議会

座間のPFASを考える市民の会

神奈川PFAS横須賀18団体協議会

▽静岡県

清水PFAS問題を考える連絡会

浜松PFAS汚染を考える会

▽岐阜県

PFAS汚染からいのちの水を守る各務原市民の会

環境・未来・各務原ーPFAS汚染を考える会ー

▽愛知県

豊山の生活と健康を守る会

安全・安心して暮らせる北名古屋の会

▽三重県

四日市公害災害市民ネット

▽滋賀県

環境しがの会

日本科学者会議PFAS問題研究委員会

▽京都府

由良川・犀川流域のPFAS汚染を考える会

▽大阪府

大阪PFAS汚染と健康を考える会

大阪・摂津市PFOA汚染問題を考える会

ダイキン公害問題を考える会

東淀川PFAS汚染と健康を考える会

▽兵庫県

明石神戸PFAS汚染と健康を考える会

PFAS問題を考える明石の会

PFAS問題を考える西脇市民の会

安全安心な水を求める西脇市民の会

環瀬戸内海会議

▽岡山県

円城浄水場PFAS問題有志の会

▽広島県

川上弾薬庫

▽山口県

瀬戸内海の静かな環境を守る住民ネットワーク

▽熊本県

地下水と農業と環境を守る住民の会

みんなの水と緑を守る会

地下水を守る熊本の会

熊本の環境を考える会

▽沖縄県

宜野湾ちゅら水会

PFAS汚染から市民の生命を守る連絡会 ほか

2026年3月19日、連絡会は発足のこの日、環境省と内閣府食品安全委員会に対して要望書を提出した。

要望書では、次の4点を求めている。

・水道水基準の再考:2026年4月1日に施行予定の水道水基準(50ng/L)は、国内外の最新知見や各国の厳しい基準値が十分に考慮されていません。科学的根拠に基づいた速やかな見直しを求めます。

・許容摂取量(TDI)の再評価:食品安全委員会が設定したPFOS・PFOAの耐容一日摂取量(20ng/kg/日)についても、最新の毒性評価に照らし合わせ、全面的な見直しを行ってください。

・最新研究の活用:見直しにあたっては、国内外の動向を注視するだけでなく、国が主導している大規模疫学調査「エコチル調査」等の研究成果を積極的に反映し、予防原則に立った基準策定を行ってください。

・大規模調査の実施:PFASを使用する基地、フッ素樹脂を製造・使用する事業所や産業廃棄物処分場含め、現在把握されている汚染地域は氷山の一角に過ぎません。住民団体や住民団体が推薦する研究者も参加する全国規模での環境調査を速やかに実施してください。

・汚染源の特定と透明性の確保、規制措置:汚染源を明確に特定し、その情報を広く一般に公開するとともに、適切な影響評価及び規制措置を実施し、さらに必要に応じて設備や排水の基準など規制措置を講じてください。

・疫学調査の強化:国・自治体・企業の責任において、汚染が懸念される地域の住民を対象とした大規模な血液検査および健康調査を含む疫学調査を断行してください。

「自前の知見」を採用せず

(左から)内閣府食品安全委員会の塩尻善彦氏、下平浩己氏、井本昌克氏、竹口敦子氏=東京都千代田区で2026年3月19日、千金良航太郎撮影

要望書の提出後、提出先の担当者たちとの公開意見交換会が開かれた。連絡会のメンバーに加え、研究者や報道関係者など100人超が会場とオンラインで参加した。

まずは、内閣府食品安全委員会との意見交換。次の4人が出席した。(敬称略)

井本昌克 食品安全委員会事務局 評価第一課長

 

下平浩己 食品安全委員会事務局 評価第一課・課長補佐、獣医師

 

竹口敦子 食品安全委員会事務局 評価第一課・課長補佐

 

塩尻善彦 食品安全委員会事務局 総務課・課長補佐(総括、国際)

食品安全委員会には、食品を経由した化学物質が人体に悪影響を及ぼすことを防ぐ役割がある。食品や化学物質による健康影響について調査・検討し、「食品健康影響評価書」を作成する。体に取り込んでも良いとされる1日あたりの許容値「耐容一日摂取量(TDI)」などが盛り込まれる。その評価書をもとに、環境省や厚労省などの省庁が法整備を進める仕組みだ。

食品安全委員会は、法制度の基となる非常に重要な役割を担う存在なのだ。

だが、連絡会は食品安全委員会のPFASに関する評価書を問題視していた。TDIを決めるプロセスが不透明かつ、重要な科学論文が加味されていなかったのだ。

京都大学名誉教授の小泉昭夫氏が、疑問を呈した。小泉氏は、国内のPFAS研究の先駆者だ。

「評価書作成にあたって、子どもに染色体異常が出るという『長谷川論文』を採用していないのはなぜですか」

京都大学名誉教授の小泉昭夫氏=東京都千代田区で2026年3月19日、千金良航太郎撮影

「長谷川論文」とは、信州大学の長谷川航平(助教)らが2024年9月に出した科学論文だ。妊娠中の女性約2万5000人と生まれてきた子どもを調査し、PFAS曝露との関連性を研究した結果、PFAS曝露と染色体異常の関連が認められた。染色体異常は、流産をはじめ、子どもの低身長や知的障害といった症状につながる可能性がある。

さらにこの研究は、環境省からの助成を受けて実施されていた。食品安全委員会のPFASワーキンググループの委員の一人である中山祥嗣氏(国立環境研究所)も、研究メンバーの一人だ。「自前」の科学論文を、食品安全委員会はなぜ採用しないのか。

食品安全委員会の井本課長は、評価書完成時期に、論文が完全に公開されていなかった点を挙げた。評価書は2024年6月、長谷川論文は2024年9月だったのだ。

ところがその後、食品安全委員会には「評価書」の内容を検討し直すタイミングがやって来る。

2025年2月、環境省がPFOA・PFOS水道基準を制定するにあたって、食品安全委員会に諮問した。長谷川論文の内容を加味して、TDIをより厳しい値にすることができる。だが、食品安全委員会は2024年6月に作成した評価書の内容を変えることはなかった。

食品安全委員会の評価書を元に、環境省は50ng/Lという水道基準を制定。2026年4月から施行される。

食品安全委員会・井本課長を直撃すると

井本課長が述べた「論文が公表されたタイミングが遅かった」という理由が崩れた。

意見交換会終了後、井本課長を直撃した。

中川「2025年2月に、長谷川論文を踏まえた評価書の見直しをしなかったのは、なぜですか」

井本課長「長谷川論文は検討材料にしました」

中川「ではなぜ、長谷川論文を加味して、評価書の見直しをしなかったのですか」

そこへ、課長補佐の下平氏が割って入る。

「その件については、食品安全委員会のホームページで公開している議事録の内容が全てです」

「議事録」とは、2025年2月18日の会合の記録だ。そこでは、国立がん研究センターがん対策研究所・副所長(当時)の祖父江友孝氏が次のように発言していた。

「最近の文献の内容についても確認をしております。その結果、諸外国のリスク評価機関が注目している肝臓、脂質代謝、生殖発生、免疫、発がん、こういったエンドポイントのうち、肝疾患や心血管疾患などの疾患との関連を示唆する論文が散見されておりますけれども、今のところTDIを見直す必要性につながる論文は見られておりません」

長谷川論文については、「このエコチル調査で報告された染色体異常とPFASとの関連については、質の高い研究により関連がありと示された重要な結果だというふうに思います」と評した一方で、こう述べた。

「調査対象の約2万5000人のうち、染色体異常が観察されたのは44例で、統計的な不確実性が大きいということ。それから、妊娠12週以前に流産をした妊婦が含まれていないということ、あるいはPFASばく露レベルが比較的低いために他の要因の影響を受けやすいことなどの問題点もあります」

「約2万5000人のうち、染色体異常が観察されたのは44例」は、約570人に1人の割合だ。PFAS曝露の被害は全国各地で起きており、予防原則に立てば、決して見過ごせないはずだが、食品安全委員会としてTDIを見直すことはなかった。

この会合から約1年後の2026年1月、祖父江氏は、食品安全委員会のトップである食品安全委員会・委員長に昇進した。

環境省・𠮷川課長「子どもに50g/Lの水を飲ませてもいい」

環境省の𠮷川圭子・環境管理課長=東京都千代田区で2026年3月19日、千金良航太郎撮影

環境省との意見交換会では、次の5人が出席した。(敬称略)

𠮷川圭子  環境省 水・大気環境局 環境管理課長

 

渡辺崇一  環境省 水・大気環境局 環境管理課 水道水質・衛生管理室 有機フッ素化合物対策室 室長補佐

 

前田理沙  環境省 水・大気環境局 環境管理課 主査、有機フッ素化合物対策室

 

塚田源一郎 環境省 大臣官房 環境保健部 化学物質安全課長、化学物質審査室

 

川原志郎  環境省 大臣官房 環境保健部 化学物質安全課 環境リスク評価室 室長補佐

連絡会は、水道基準50ng/Lの見直しをはじめ、汚染の実態把握や汚染源の特定、疫学的な健康調査の実施を求めている。

会場からは、水俣病などの化学物質汚染がきっかけで環境庁が設立した経緯を挙げた上で、環境行政としての安全・安心の具現化を求める声が相次いだ。

しかし、「知見の収集に努めます」の一点張り。

会場で参加していた「宜野湾ちゅら水会(沖縄県)」代表の町田直美氏が手を挙げ、官僚らに尋ねた。

「50ng/Lの水を、子ども・赤ちゃんに飲ませていいのですか。一人ずつ答えてください」

水・大気環境局の環境管理課・𠮷川圭子課長が答えた。

「私も2児の母です。個人的には、現在の数値に納得しています。子ども、幼児にも使っています」

町田氏が再度尋ねる。「赤ちゃんに飲ませてもいいのですか」。

𠮷川課長が言い切った。

「はい、飲ませてもいいです」

会場がどよめいた。𠮷川課長以外は、マイクを取ることはなかった。

この日は、国会議員4人も会場に駆けつけた。

山添拓(参・共産)、辰巳孝太郎(衆・共産)、三上えり(参・立憲)、高良沙哉(参・沖縄の風)だ。

山添氏は連絡会の要望同様、こう述べた。

「国がやるべきことははっきりしている。実態調査です」

「世論を作っていかないとダメだ」

宜野湾ちゅら水会代表の町田直美氏=東京都千代田区で2026年3月19日、千金良航太郎撮影

記者会見では、連絡会のメンバーが思いを語った。

宜野湾ちゅら水会(沖縄県) 代表・町田直美氏

「これは紛れもない人権侵害です。女性・子どもという一番弱い立場の人に照準を合わせた基準にしてほしい」

円城浄水場PFAS問題有志の会(岡山県) 代表・小倉博司氏

「率直な感想を言うと、環境省は世の中で起こっていることを見て見ぬふりしている。自分たちが動いて、世論を作っていかないとダメだと分かった」

「地方でPFAS汚染と闘っている我々との温度差を感じざるを得なかった。知見がないと言いながら、血液検査も推奨しない。運動を積み上げて声を拡大させていきたい」

京大名誉教授・小泉氏「環境省には倫理的な問題がある」

記者会見する「PFAS全国連絡会」(仮称)のメンバー=東京都千代田区で2026年3月19日、千金良航太郎撮影

この日、連絡会からの要望で、会場参加していた京都大学・名誉教授の小泉昭夫氏が、会の顧問就任の要望を受けた。小泉氏は承諾した。

環境省、食品安全委員会との意見交換を経て、小泉氏はこう述べた。

「これは倫理の問題です。環境基準は、健康影響に関わる問題」

「特に環境省には問題が多く、モラリティの(倫理的な)問題がある。𠮷川課長が『50ng/Lを子どもに飲ませてもいい』と言っていたけれど、海外だとそうはならない」

連絡会は、参加メンバーを随時募集している。

連絡先

〒541-0054 大阪市中央区南本町2丁目1番8号 創建本町ビル2階

大阪PFAS汚染と健康を考える会 気付

TEL:06-6268-3970(代表)、090-8376-1215(窓口:長岡)

FAX:06-6268-3977

FacebookTwitterEmailHatenaLineBluesky
公害「PFOA」一覧へ