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大阪の薬剤師が3カ月半ワクチン予約取れず/コロナ患者の家族らを連日対応、医療従事者でも厚労省は「予約は個人で」

2021年09月10日15時30分 中川七海

8月上旬、大阪で薬剤師をしている知人からLINEでメッセージが届いた。

「まだ1回もコロナワクチンを打てていないのに、医療従事者の優先接種が締め切られた」

薬剤師は医療従事者に含まれる。知人は薬剤師として薬局で働き、連日100人近い患者と対面で接する。病院の処方箋を持つ患者や、自宅療養中の新型コロナ患者の家族が多い。

しかし全国知事会はすでに、医療従事者の新型コロナワクチン接種が完了したと発表している。知事会のウェブサイトには大きくこう書かれていた。

「接種完了100%」

にもかかわらず知人は、「医療従事者」として予約を取ることができないというのだ。

知人は「自分が感染して、薬局にくる患者さんにうつしてしまわないかが一番こわい」といった。

詳しい話を聞くことにした。

知人と筆者が入っているLINEグループでのやりとり。知人の発言は青色のアイコン部分

仕事の合間に空き枠を探しても

知人は、大阪府内の薬局で働いている。5月初めに医療従事者用の優先接種券が自宅に届き、その日から予約に取りかかった。

予約には、府が用意したLINE上の予約システムを使うか、医療機関へ直接電話をかけるかの2つの方法がある。しかし、どちらの方法を試してもすでに予約が埋まっていた。

翌日以降も予約を試みた。

LINEシステムには、いくつもの入力工程がある。最後まで進んでも予約が取れなかった場合は、途中からやり直さなければならない。繰り返しの作業に時間を取られる。家にいる間や仕事の空き時間を使って空き枠を探す毎日を過ごした。

5月下旬は、仕事や家族の用事で忙しかった。LINEの予約システムをチェックできない日が2週間ほど続いた。

6月に入ったある日、同僚がいった。

「5月末に、LINE予約でいきなり100件ぐらいの空き枠ができてたらしいで」

初耳だった。府からの通知もなかった。同僚によると、たまたまLINEシステムを開いたスタッフが見つけたが、それもすぐに埋まったとのことだった。

解熱剤をもらいにくるコロナ患者の家族に対応

予約が取れない間も、知人は薬局で働いていた。

5月下旬までは、大きな総合病院の向かいにある薬局に勤めていた。総合病院の処方箋を持った患者がやってくる。

病床が逼迫し自宅療養しなければならないコロナ患者の家族も、毎日のようにやってきた。新型コロナウイルスに効く解熱剤「アセトアミノフェン」を買うためだ。コロナ患者に有害な鎮痛剤「ロキソニン」と間違えないよう、薬剤師がしっかりチェックしなければならない。

6月上旬からは、クリニックが入る医療モールに隣接する薬局へと職場が変わった。常備薬をもらいにくる高齢者や、咳や熱が出ているのにPCR検査をしていない患者がやってくる。お年寄りが多く、耳のそばで大きな声で対応しなければならないことも多い。

医療従事者用の接種券が届いてから約3カ月がたった8月4日、何十回目となる予約作業に取り掛かった。LINEではらちがあかず、医療機関に直接電話をかけた。

だがそこで、すでに医療従事者の優先接種が締め切られていることを告げられた。

驚いて、LINEの府の予約フォームを開いた。すると、7月23日までに1回目の接種を終えていない医療従事者は優先接種できないとの通知が届いた。

知人はショックを受けた。

「打ち切り期限があるなんて知らなかった。これまで全然予約が取れなかったけど、期限があるとわかっていたら、もっと予約作業に時間を割いたかもしれないのに」

厚労省「自身で予約できるところを見つけてください」

病院やクリニックなどで働く医療スタッフは、勤め先の医療機関で予約・接種しやすい。だが、薬局で働く薬剤師はそうはいかない。知人のようなケースが出ているのではないか。

日本薬剤師会に問い合わせた。副会長の田尻泰典氏が説明した。

「薬剤師十数万人のうち、1人や2人、5人か10人ぐらいは漏れがあるのかもしれませんが、ほとんどの接種は済んでいるはずです」

「仕事の都合で予約が取れない場合もあると思いますが、それは職場の責任で、接種のために融通を効かせてくれるのが普通だと認識しています。私も東京での予約が合わなかったので、(経営する薬局がある)九州まで帰って接種を済ませました」

知人の住む大阪府はどうか。

健康医療部ワクチン接種推進課の担当者は、7月23日で打ち切ったことについて、「国からの通知に従った」と説明した。

では、国はどう考えているのか。厚労省はこういう。

健康局健康課予防接種室の担当者は、予約が取れない医療従事者がいることを認めた。知事会の発表については、「何を根拠に接種率が100%と出しているのかは分かりません」。

予約が取れない医療従事者はどうすればいいのか。

「自身で予約できるところで予約して受けてください。それ以上のことは回答できません」

知人は8月16日、一般の枠でようやく予約が取れた。1回目のワクチンを8月25日に接種し、2回目は9月22日だ。

全国知事会のウェブサイトには「接種完了100%」の文字

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