虚構の地方創生

コロナ地方創生臨時交付金、無駄遣いの横行が判明/全国ワースト100事業 北海道・東北編(1)

2022年03月16日15時49分 辻麻梨子、齋藤林昌、長谷野新奈、小倉優香

コロナ禍で、「地方創生」と名付けられた交付金が全国の自治体に渡りました。正式名称を「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金」といいます。目的は、感染対策と打撃を受けた地域経済や住民生活の支援。コロナ関連の政策の中で最も多い、15兆円の予算が配分されました。

交付金の特徴は、使い道が自由なことです。各自治体は、自分たちで使い道の計画を立てます。政策の指揮をとる内閣府は、この自由度を大々的にアピールしました。

政策が始まる2020年春、地方創生推進事務局の村上敬亮審議官は会見でこんな発言をしています。

「コロナ対策であればまったく制限はない」

「計画書はぶっちゃけ大雑把でいい」

「細かく審査しないで数千万や1億を使うことになるが、自治体を信じている」

その言葉通り、国は使い道を検証しないまま補正予算や閣議決定で合計8回予算を積み増しています。しかし、原資は税金です。こんな気前がよくていいのでしょうか。

Tansaが交付金の使われた約6万5000事業をデータベース化したところ、コロナに乗じた無駄遣いが全国で横行していたことがわかりました。使い道は着ぐるみづくりや現金ばらまき、婚活支援や五輪聖火リレーなど、「なんでもあり」の様相です。なぜこんな無茶苦茶なことが起きているのでしょう。

さらに取材を進めると、2014年から当時の安倍政権下で進められた「地方創生」が政権維持に利用され、都会の大企業がその利権に群がり、地方は活性化の処方箋を持たないまま税金が浪費されるという構図が浮かび上がりました。

この間、巨額の税金をつぎ込んでおきながら東京への一極集中は進み、地方はさらに衰退しています。この責任は、一体誰がとるのでしょうか。シリーズを通して、地方創生の虚構を暴きます。

(2015年から2020年にかけて人口増加した都道府県は、わずか9都府県だ 撮影:小倉優香)

「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金」

新型コロナの感染拡大防止と、感染拡大の影響を受けている地域経済や住民生活を支援し地方創生を図る目的で、2020年4月に決定された交付金。2020年度の第一次補正予算で初めて1兆円が組まれて以降、3回の補正予算と5回の予備費がつけられた。総額は15兆1760億円。自治体が自由に使うことのできる「地方単独事業分」のほか、時短営業や休業に協力する飲食店への協力金やコロナの検査を無料にするための費用なども含まれている。

1794自治体の6万5000事業をチェック

Tansaは、2020年度の第1次と第2次の補正予算で計上された地方創生臨時交付金の事業をデータベース化した。都道府県と市町村が内閣府に提出した事業計画に基づいている。事業の数は約6万5000件、金額は計3兆円に上る。

データベースを使って、Tansaは全事業に目を通した。その上で納税者の視点から、全国の無駄遣い100事業を選んだ。まずは5回にわたり、この100事業についての詳報から始める。

初回は北海道、東北編。スライダーの表中の事業費は、自治体によって交付金の額を示している場合と、交付金以外の予算も含む総事業費を記している場合とがある。

さらに表中から一部の事業を選んで、その取材結果を報じる。

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黒松内町 河床掘削

通常の工事に臨時交付金を「たまたま充当」

北海道黒松内町は、札幌市と函館市のほぼ中間に位置する人口2696人の町だ。町は地方創生臨時交付金104万5000円を、町の西部を流れるオサナイ川の河床掘削事業に充てた。

河床の掘削とは、河川の底に堆積した土砂を撤去する作業だ。土砂がそのままになっていると川の流れを堰き止めてしまい、洪水や氾濫を引き起こす可能性がある。オサナイ川に限らず、災害の危険がある河川があればその都度掘削工事を行っている。

今回、地方創生臨時交付金を充てたのは、地元の建設業者への経済的支援のためだという。建設業者はコロナの影響で大型の事業が遅れており、その分収入が減少していた。本来は2021年度に計画していたオサナイ川の河床掘削事業を前倒しで実施することで、業者にはやく事業費を支払えるという。

だが、河床の掘削は日頃から実施しているものだ。工事を前倒すにしても、財源は町の予算でやるべきではないか。尋ねると町職員は、こう回答した。

「町も国から地方交付税をもらっており、税収だけで賄っているわけではない。たまたま今回の交付金は工事に充てた」

「お金をきちんと色分けしているわけではないので、問題はない」。

コロナ対策と地方創生のために配られた交付金だが、町の同じ財布に入るので何に使っても問題ないという認識だ。こうした使い道が認められるのであれば、臨時交付金は単に町の財政を補填するものになる。

東神楽町 コメ配布

町の実態を把握せず全町民にコメ配布

北海道東神楽町は人口10,097人でコメや野菜を中心とした農業が盛んな町だ。

町は、地方創生臨時交付金809万円を活用して、特産品のコメ2kgを全町民に配布した。事前に1人につき1枚、コメの引き換えはがきを町民へ送付。町民はそのはがきを町内に設置された窓口に持参し、コメと引き換えるという流れだ。

事業の目的は、コメの価格高騰で落ち込んでいる消費を拡大することだ。コメの価格高騰は、コロナ禍による外食産業の需要の落ち込みで起きていることから、コロナ対策として使う。

だが、東神楽町は町内のコメ消費の減少率は把握していない。全国的に消費が落ち込んでいるというデータを参照しているだけだ。

そもそも、町内のコメ消費の量を増やしてどのような経済効果があるのだろうか。事業の目的は、価格高騰でコメが食べられない人にコメを提供することだけなのだろうか。

産業振興課の担当者は次のように説明する。

東神楽町外へのコメ産業PRも目的に含まれており、町外へのPRとしては北海道新聞で取り組みを掲載してもらいました」

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岩手県

五輪組織委員会職員に交通費、聖火展示事業で

岩手県はオリンピックの聖火を展示する事業に、交付金109万7613円を充てた。展示は2021年3月12日から16日にかけて、5つの町村で1日ずつ開催された。交付金は会場の警備費、チラシ印刷費、大会組織委員会から派遣される聖火の管理者複数名の交通費などに使用した。

 五輪の聖火展示事業は、総務省が呼びかけたものだ。本来、聖火の使用は聖火リレーのみとされている。だが総務省が「聖火を活用した地方創生事業」と位置付け、自治体が費用を負担して聖火を展示することを推奨した。自治体の負担分には、地方創生臨時交付金や特別交付税を充てることができるともしている。

 県の担当者は経済効果について、5日間で一般客2220人が来場したことに加え、大会関係者の滞在などで一定の効果があったと説明した。

福島県郡山市

GReeeeNを歌った動画を応募すれば商品券

福島県郡山市は、GReeeeNの楽曲「星影のエール」を歌う動画を市内外から募集した。応募すれば、市内の飲食店や旅館で使える商品券と宿泊券をもらえ、動画は青年会議所のYouTubeチャンネルでアップするという事業だ。商品券と宿泊券に必要な予算は青年会議所が負担し、「星影のエール」の原盤使用料29万7000円をコロナの交付金で賄った。

一般枠174組、企業枠19組、アーティスト枠10組が応募した。

狙いは二つ。

一つは、商品券と宿泊券を市内で使ってもらい経済を活性化させること。

もう一つは、音楽都市を掲げている郡山市が、コロナ禍でも音楽で盛り上がっていくことだ。市国際政策課によると、GReeeeNは地元出身で「郡山フロンティア大使」を務めていることから、歌の動画を募集する際の楽曲として「星影のエール」を使うことにした。

ところが、今回の事業で青年会議所のホームページにアップした動画は、2021年9月で見られなくなった。29万7000円で「星影のエール」の原盤を使用できるのは1年間のみだからだ。

新潟県新潟市 

中止になった新潟まつりの予算が浮いても、代替イベントは交付金充当

新潟市では、花火や踊りで毎年夏に90万人の人出で賑わう「新潟まつり」が、2020年はコロナの感染防止のため中止に。地方創生臨時交付金の750万円を使って、代替イベントを実施した。

実施したイベントは二つ。

一つは、子どもたちの花火の絵240作品の展示会。施設内での展示のほか、画像データを壁面に投影するイベントを開いた。述べ485人が参加した。

もう一つは、新潟まつりの花火のバーチャル動画をYouTubeなどで配信するイベント。

しかし新潟市は毎年、新潟まつりに6000万円の補助金を出している。2020年度の予算も用意していた。中止になった新潟まつりの代替イベントを実施するなら、6000万円の市費から拠出すればいいのではないか。なぜ、国の地方創生臨時交付金を使うのか。

市観光政策課の担当者が言う。

「ウィズ・コロナのイベントとして実施し、交付金を充てるなら適切ではないかということになった。新潟市は財政状況も厳しい」

次回は関東編を報じる。

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