公害「PFOA」

「主な汚染源だとダイキン自身が思ってはります」と信じ込む大阪府、突き放すダイキン(25)

2022年07月15日12時30分 中川七海

大阪・摂津でのPFOA公害の原因が、ダイキン工業淀川製作所であることは明らかだ。私が入手したダイキンの社外秘文書によると、摂津での汚染状況を裏付ける量のPFOAを淀川製作所は敷地外に排出していた。

ところが、ダイキンは自身が汚染源であることを頑なに認めない。「弊社が原因の一つの可能性」との見解に留め、汚染源ではない可能性まで示しているのだ。私たちの取材には、幹部が「PFOAは危険なんですか」と開き直る始末だ。

汚染の原因がはっきりしなければ、対策も進まない。国会ではついに、ダイキンの汚染への対応が審議の俎上にあがった。

環境大臣、ダイキン対応を大阪府知事に丸投げ

2022年4月28日、参議院環境委員会では、大阪・摂津でのPFOA汚染についてダイキンを名指しして審議した。Tansaの本シリーズを元に、共産党の山下芳生が質疑に立った。

山下は、淀川製作所から敷地外へのPFOA排出量について、「把握しないと対策が取れない」と指摘し、国が排出量を把握するよう迫った。

答弁に立ったのは環境大臣の山口壯だ。

「大阪府の知事さんがどういうふうな政治をされておられるか、しっかりと議論していただきたいと思います」

山下が食い下がる。

「どういうことですか、今の答えは。環境省はやりませんということですか。大阪府に任せるということですか、環境大臣として」

山口は両手を縦に振りながら、「大阪府」を強調してこう答えた。

「大阪府の摂津市の仕事、大阪府はしっかりやっていただきたい、我々はきっちり助言を行います」

2020年にPFOAの全国一斉調査を実施し、摂津の地下水が全国ダントツの濃度であると発表したのは環境省だ。それでも大臣である山口は、府知事の吉村洋文に対応を押し付けたのである。

2022年4月28日の参議院環境委員会で答弁する山口壯環境大臣=参議院ウェブサイトより

確認を頑なに拒む大阪府事業所指導課

国会での環境大臣の答弁を受け、私は大阪府知事の吉村に取材を申し込んだ。だが吉村は秘書課を通じ「担当課が対応できる」と、府の事業所指導課に対応を一任した。同課のウェブサイトには業務内容が次のように書かれている。

事業所指導課では、大気汚染や水質汚濁の防止、化学物質対策、土壌汚染対策などのため、法律や条例に基づき、工場等の排出事業所に対する規制・指導などの業務を行う

6月3日午後1時、私と編集長の渡辺周が府の咲洲庁舎21階に着くと、3人の担当者がやってきた。事業所指導課の次のメンバーだ。

萩野貴世子 課長

窪田剛 主査

深江健吾 技師

名刺交換すると、課長の萩野が言った。

「東京から来られたんですか」

私は驚いた。今日の取材は、国会での審議に端を発している。環境大臣が知事の吉村を指名し、ダイキンへの対応を求めたのだ。国会で配られた資料には、Tansaのクレジットも入っていた。だが知事から取材を任された担当課長がTansaによる報道を調べていなかったのである。

不安を感じつつ取材を始めたが、予感は的中した。どうも話が噛み合わない。私は、国会を見た上で取材に臨んでいるのか尋ねた。

主査の窪田が答える。

「いや、見ました。見ましたけど、聞いただけなのでちょっとそこまで頭に入っていないという・・・」

「頭に入っていない」では困る。国会では環境大臣の山口が、淀川製作所から敷地外へのPFOA排出量を把握するよう求められ、府に対応を一任した。私は、府が排出量を把握しているかを尋ねた。

窪田が答える。

「把握はしてないですね、うちとして」

なぜ、把握していないのか。国会での審議の通り、どれだけのPFOAが敷地外へ排出されたかを把握しなければ、ダイキンの責任を認定したり、汚染対策を講じたりすることができないはずだ。その点を指摘すると、課長の萩野が答えた。

「把握しなくても、ダイキンが主たる原因だということで、3者で協議しながら・・・」

萩野の言う3者とは、ダイキン、大阪府、摂津市だ。2009年から始まった3者会議は今も続き、22回に上る。PFOA汚染への対策を協議してきた。府からは事業所指導課が参加している。

しかし、萩野のこの回答には決定的な矛盾がある。ダイキンは自身を「主たる原因」だと認めていないのである。

それどころか、「弊社が原因の一つの可能性」という見解に留め、原因ですらない可能性を示している。これまで報じてきた通りだ。大阪府への取材の前日、私はダイキンの広報とやり取りした。その時点でも、ダイキンは「原因の一つの可能性」という見解のままだった。

編集長の渡辺が「主たる原因だとダイキンは思ってないですよ」と事業所指導課の3人に告げた。

だが窪田は否定する。

「いや、思ってはります」

そうであればと渡辺が言う。

「じゃあちょっと今ここで確認してくださいよ。我々が昨日ダイキンに取材して得た回答とは違うんですよ」

それでも窪田は聞く耳を持たない。

それはもうダイキンの方も認めてます」

ダイキンが自身を汚染源だと認めているかどうかは重要な問題だ。事業所指導課の言う通り認めていれば、住民への謝罪や補償の話を始めることできる。私と編集長は何度も、目の前に座る3人に、ダイキンへの確認を求めた。電話1本かければ済む話だ。

それでも窪田たちは「確認の必要はないです」と拒み、ダイキンが自身を「主たる原因」だと認めていると言い張った。

これでは取材にならない。取材開始から20分ほど経過した頃、私と編集長は取材の中断を決めた。

知事の吉村は「担当課が対応できる」と事業所指導課に任せた。だが吉村の判断は間違っていた。事業所指導課の3人には、知事への抗議文を提出することを伝え、府庁を後にした。

ダイキン役員たちが口を揃えて

府への取材から4日後。私と渡辺はダイキンの役員たちを本社で取材した。取材に応じたのは次の3人だ。

平賀義之 執行役員 化学事業、化学環境・安全担当

小松聡 化学事業部 企画部 環境技術・渉外専任部長

阿部聖 コーポレートコミュニケーション室 広報グループ長・部長

その中で、府の事業所指導課が「ダイキンは自身を汚染の主たる原因だと思っている」と言っていたことを伝えた。

これに対してダイキンの役員たちは、府の見解が間違っていると明言した。私が入手した社外秘文書を示された執行役員の平賀は、従来の「原因の一つの可能性」から、「弊社が原因の一つになっていることには間違い無い」と見解をその場で変更したものの、「主たる原因ではない」と言った。

ただダイキンと大阪府は、摂津市も入れた2009年からの3者協議で、13年間にわたりPFOA汚染について話し合ってきた。汚染の原因について見解が違うことなどあるだろうか。私は幹部たちに、最後にもう一度確認した。

「府が間違っているということでよろしいですか」

役員たちは口を揃えて答えた。

「はい」

Tansaは吉村知事に抗議

大阪府の事業所指導課は、事実と異なる発言を繰り返した上、こちらが確認作業を求めても怠った。

6月8日、私は編集長の渡辺と連名で知事の吉村に抗議文を出した上で、知事本人への直接取材を申し込んだ。抗議文には、ダイキンが府の見解を否定したことも明記した。

2022年6月8日に提出した大阪府の吉村洋文知事への抗議文

2日後、窪田からメールが届いた。

6月8日付けで大阪府知事あてにいただいた取材申込みについては、事業所指導課の所管になりますので、事業所指導課で対応いたします。よろしくお願いします。

知事は取材を辞退し、先日と同じ事業所指導課が取材に応じるという。だが、事業所指導課はあてにならない。私は次の通り返事した。

先日の取材時からお伺いしている通り、「大阪府とダイキンは共に、ダイキンが主たる汚染原因だという認識で一致しているということで良いのか」を、まずはダイキンにご確認の上、教えてください。この点を明確にご教示いただかない限り、取材は進みません。よろしくお願い申し上げます。

窪田の回答は、相変わらずダイキンへの確認を拒否するものだった。

大阪府は、ダイキンが主たる汚染源と考えて対策を要請しており、その要請をうけダイキンは対策を実施しているところです。大阪府としては、改めて同社に認識を確認する必要はないと考えます。以上、繰り返しの回答になりますが、よろしくお願いします。

=つづく

(敬称略)

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