誰が私を拡散したのか

339人の投稿者がTwitterで集めた101万482人の「顧客」(3)

2022年11月28日16時33分 辻麻梨子

(イラスト:qnel)

11月21日に2回目の記事をリリースした翌日、私は再び拡散の恐ろしさを思い知らされた。

被害を相談してくれた知人Aさんのフォルダが、再びアプリに投稿されているのを見つけたのだ。155人が新たにダウンロードしていた。

性的な写真や動画の投稿が止まないのは、投稿者にカネが入るからだ。

写真や動画をダウンロードするには有料のカギを購入する必要があり、代金の一部が投稿者に支払われる。売り上げはポイントで支給され、貯まったポイントはAmazonギフトカードなどに交換できる。他の投稿者の写真や動画をダウンロードするためのカギとも交換可能で、再投稿のための新たな写真や動画を仕入れるために使う。

投稿者は自身の「商品」をダウンロードしてもらうために、必死に宣伝する。その舞台はTwitterだ。

今回発覚した被害の構図。赤矢印は写真と動画の流れを示す

「投稿者の努力ってやつです」

前回の記事で報じた通り、性的な写真や動画が取引されているのは「動画シェア」や「アルバムコレクション」というアプリだ。

アプリに投稿されたフォルダには、それぞれにアルファベットや数字の組み合わせが、フォルダ名として付与されている。

投稿者は無数にあるフォルダの中から、自分が投稿したものを見つけてもらうため、Twitterでフォルダ名をツイートする。その際ツイートには、フォルダの中に入っている被害者の顔がわかる写真、属性などの説明を加えて、カギを購入するよう促す。

Aさんの写真や動画も、Twitterで宣伝されていた。その投稿者には、約2400人のフォロワーがおり、1日あたり60件以上ツイートしている。それらのほとんどが被害者の顔写真付きだ。毎回のツイートには「フォローとリツイートが励みになります」と書いていた。

私は投稿者にTwitter上で直接連絡し、Aさんの写真が入ったフォルダと、それを宣伝するツイートを消してほしいと伝えた。投稿者からはすぐに「削除しました。ご連絡ありがとうございます」と返信があり、Aさんのフォルダを宣伝する2つのツイートは削除された。

ところが、アプリの中を見るとフォルダ自体は消えていなかった。

翌朝、その投稿者は相変わらずツイートで、自分が投稿したフォルダを宣伝していた。

「おはようございます。朝昼晩見る層が違う為頑張って投稿しています。同じものが被らないようにしているつもりですが。あまり周りではみない投稿者の努力ってやつです」

反省している素振りは全くない。

「今夜『風呂盗』更新したら、また買ってくれる方いますか」と宣伝

無断で性的な写真を入手して投稿し、カネ儲けをしようとする人間はどういう神経をしているのだろうか。Twitter上で「動画シェア」、「アルバムコレクション」をキーワードに検索すると、犯罪であるにもかかわらず、自身の行為を堂々と喧伝するツイートが出てくる。

「お気に入りをupします!ネタ提供ができるように頑張ります!」
「カギ使う価値ありの超美人さん いいね、リツイートお願いします」

フォルダの内容を「オススメ度」、「レア度」で評価し、星のマークの数でランク付けしている投稿もある。

被害者の素性がわかるフォルダは人気が出る。モザイクのない映像や、S N Sのアカウント名が含まれているケースだ。ある投稿者はこうしたフォルダを渡す場合の、追加料金までとっていた。

「モザナシ、アカウント付き欲しい方 Paypay1000円or アマギフ1500円〜」

より悪質な投稿者もいた。その人物は自ら風呂場やトイレを盗撮し、それらをアプリに投稿している。

「今夜風呂盗更新したら、また買ってくれる方いますか?リピーター募集中です」

氷山の一角

Yahoo!のリアルタイム検索サービスを使うと、Twitterに投稿されたこれらの宣伝の数の多さがわかる。

11月27日午後4時50分に検索したところ、過去24時間の間に「動画シェア」というキーワード付きで投稿されたツイートは1702件だった。7日間だと9626件、30日間だと28,396件だ。「アルバムコレクション」では、24時間で1,952件、7日間で10,618件、30日間で27,355件だった。

大量のツイートはどれくらいの人数で行われているのか。

私はこうしたツイートがあることを知ってから、ほぼ毎日、1時間ほどかけて、ツイートを行っているTwitter上のアカウントの情報を集めてきた。その結果、動画シェアとアルバムコレクションに投稿したフォルダを宣伝しているアカウントが、計339見つかった。

これらの中には、同一人物が作ったと見られるアカウントも含まれる。違法なツイートを行っているアカウントは、Twitter社から利用制限を課される可能性があるからだ。複数のアカウントを作成するのは、制裁への対策だ。こうしたアカウントのことを、投稿者らは「避難アカウント」と呼んでいた。

339のアカウントに対して、フォロワー数の合計は、のべ101万482人だった。300人あまりの「売り手」に100万人超の「顧客」がついている構図だ。最もフォロワーの多いアカウントは、4万2000人がフォロー。そのほか、フォロワーが1万以上いるアカウントは30あった。

これらは約1カ月の間に自力で調べて判明した数字だ。実際に起きていることの、氷山の一角でしかないだろう。

=つづく

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