新聞社やテレビ局が経営難で記者教育を担えない中、ジャーナリストを目指す若者はどうしたらいいのか?
3回目となるタンサユースナイトが昨年12月25日に開かれた。参加した若者たちと語ったのは、Tansa編集長の渡辺周。朝日新聞で16年間記者として活動した後、2017年にTansaを創刊した。
渡辺は、新旧メディアの双方を経験したことで見えてきたことについて語った。
語源に込められた「スクープ」の意味
渡辺はまず、スクープの重要性について説いた。インターネット時代では、誰もが情報を検索して入手し、発信できるようになる。ジャーナリストがプロフェッショナルである以上、誰でもできることしかやらないのであれば、必要とされないからだ。
スクープとは、自分たちが掘り起こさなければ永遠に隠される事実を明るみに出すことだ。「いずれわかることをいち早く報じる」ことではない。いち早く報じる競争は他社を出し抜いて、その記者が社内で高評価を得ようとしているに過ぎない。
だが何でも暴けばいいというものではない。芸能人のゴシップはそのメディアの売り上げを伸ばそうとしているだけだ。
大切なのは、スクープの目的だ。渡辺はその語源を引き合いに出した。
スクープには「掬い取る」という意味がある。ここから渡辺は「放っておけばこぼれ落ちることを掬いとる」ことが本来のスクープだと説明した。
多数派からこぼれ落ちる少数派の立場になって、社会にスクープを放つのがジャーナリストの仕事なのだ。
自分なりのテーマを追う
次にジャーナリスト教育について話した。
「ピューリッツァー賞」の名前に冠されていることで知られる、アメリカの新聞王・ジョーゼフ・ピューリッツアーはジャーナリスト教育の重要性を感じ、コロンビア大学のジャーナリズムスクール設立の資金を拠出した。
だが日本の大学には本格的なジャーナリズムスクールがない。これまでは、マスメディア会社が記者育成を担ってきたが、それも近年は経営基盤が弱くなり育成まではできなくなってきた。
では、ジャーナリストを目指す若者はどうしたらいいのか。これは難問で明快な回答はないという。
だが一つには、自分なりのテーマを追うことが大切だと渡辺は話す。
組織の中で求められることに取り組むのではなく、まず自分の感情、心の幅が揺れたことをテーマにするのだ。自分のテーマを基点に、誰に何を聞いたらいいか、どこで学べばいいのかを考える。そこにジャーナリストとして育つための突破口がある。
高校生「明確に誰かが悪いことをしていない問題は?」
参加者からは積極的に質問が出た。
ジャーナリストを志す高校生は、「探査報道を専門とするTansaは権力に反抗的な取材をすることに対して怖さはないのか」と質問した。
渡辺は「怖がることは大事」だと答えた。
2022年、世界では57人のジャーナリストが殺害された。日本では日常で記者が殺害されることは日常的ではないにしても、大きな力を相手にする以上リスクがあることには変わらない。
だからこそ、準備をする。一番強いのは事実だから、取材を重ねる。味方は社会にいると信じて報道する。情報を表に出すことは安全の確保にもつながる。
高校生は「明確に誰かが悪いことをしているわけではない問題も取材対象になるか」とも質問した。
渡辺は例として、旧優生保護下での強制不妊手術を挙げた。障害者を社会から排除することを狙いとし、1万6500人超への手術を国が主導して推進した。
強制不妊手術を専門とする病院で、多くの手術を担った医師は地域では「善人」として知られていた。写真が趣味で、産婦人科で働いていた時は、自分が取り上げた赤ちゃんの写真を撮って母親にプレゼントしていた。
たとえ善人でも、組織や構造の中に組み込まれた時、保身の気持ちがもたげ感覚が麻痺していく。ジャーナリストの役割は、その構図を可視化して警鐘を鳴らし、同じことが繰り返されるのを防ぐことだ。
渡辺は「明確に誰かが悪いことをしているわけではない問題こそ、取材対象にすることが重要だ」と答えた。
大学生「どうして朝日新聞を辞めてTansaを? 」
大学生の参加者からは、「どうして朝日新聞社を辞めて、Tansaを立ち上げたのか」と質問があった。
渡辺の答えは「ジャーナリストであるため」。
渡辺が朝日新聞社を退職したのは2016年。朝日新聞社は従軍慰安婦や東京電力福島第一原発事故の報道でバッシングを受け、すっかり萎縮してしまったという。さらに経営難が加わり、権力を監視するという報道機関としての使命より、組織の延命を優先するようになった。
ならば誰の顔色もうかがわず、ジャーナリズムの使命を全うできる報道機関を自分で作ろうというのがTansaを創刊した理由だと渡辺は語った。
大学生は、Tansaで活動する学生インターンの活動内容にも興味を持った。
ジャーナリストに必要な心構えや知識についてレクチャーを受けてレポートを書いていることや、実際の取材にも可能な限り同行していることを説明した。
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