タンサユースナイト

高校生、若手記者、留学生、法曹志望の学生らが参加「迎合しない鋭い取材がかっこいい」【第2回ユースナイトレポート】

2023年12月12日16時13分 髙橋愛満

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Tansaや探査報道に興味を持つ若者たちの交流の場「タンサユースナイト」が、1030日に開かれた。2回目の今回は、ジャーナリズムに関心を持つ高校生、来春から記者になる大学生、日本のジャーナリズムを学びに来た留学生、大手メディアの記者ら11人が参加した。

百数十年続いたマスメディアの次を知りたくて

まずは自己紹介。それぞれがTansaを知ったきっかけと、ユースナイトに参加した目的を語った。

取材手法を学びたいと参加したのは、通信社3年目の記者、来春から全国紙で記者として働く大学院生だ。フランスに留学予定のユースや法曹志望の大学生も、オープンデータでのリサーチの進め方や、問題点の見抜き方を知りたくて参加した。

中国と台湾からの留学生は日本でメディアについて学んでいる。百数十年続いたマスメディアに取って代わるオルタナティブジャーナリズムとは何か。そのヒントを得たくて参加した。

来年からアメリカでジャーナリズムを学ぶ高校生は「Tansaの権力に迎合しない鋭い取材がかっこいい」と参加した。

「本当に許せない」思いを探査報道にのせる

自己紹介が終わった後は、Tansaのリポーター辻麻梨子から、「誰が私を拡散したのか」の記事ができるまでのプロセスを伝えた。

辻は、子どもや女性の性的動画や写真が、本人が知らない間にインターネット上で売買され、拡散が繰り返される実態を追っている。

取材を始めたきっかけは、被害に遭った知人からの相談だ。その知人は、突然SNSで匿名アカウントから何十件もメッセージが届き、自分の画像が取り引きされている事態を知った。

誰かにあとをつけられたり、自宅のポストに手紙が入れられたりする被害者もいる。警察に相談したが、アプリの運営者に削除依頼をすることを進められるだけだ。街を歩くのにも、この中に自分の動画を見た人がいるかもしれないという不安と、人の目に怯える気持ちはつきまとう。

辻はこの繰り返される犯罪の構造を明るみに出し、事態を変えるために1年以上、17回に渡って報道を続けてきた。今も取材を続けている。

この間、加害者グループに潜入取材したり、OSINT(Open Source Intelligence)でアプリの運営者を特定したりと様々な取材方法で切り込んできた。その結果、Googleがアプリをストアから取り下げ、加害者グループは解散した。

辻は、被害が起こる根本の原因を突き止め、インパクトを生んできたことを伝えた。

「少数精鋭組織」のディフェンスは?

辻の話を受け、参加者からは質問が活発に出た。

通信社の記者は「新しい取材手法をTansaではどのように身につけているのか」と聞いた。

日本の報道機関は体系的な記者教育ができていない。最新の取材技術の習得も世界から遅れがちだ。Tansaは報道機関として日本で唯一GIJN(国際的な探査報道機関のネットワーク)に加盟し、世界で最先端の探査報道スキルを常に吸収している。辻からは、誰でも見ることができるGIJNのリソースページを紹介した。

2020年に同様の事件が起きた韓国での取材のことも伝えた。担当した記者に直接会って、取材の方法や気をつけることを聞いたことを挙げ、辻は「同業の記者と協力することが重要」と話した。

来春から記者として働く大学生は「どうして警察や他の報道機関がこのテーマいついて扱わないのか」が気になった。社会的な問題として捉えず、被害者個人に原因を求める傾向があり、優先順位が低くなっている点を指摘した。

「少数精鋭の報道組織でどのように自分の身を守っているのか」と質問したのは、子どもの教育にジャーナリズムを取り入れたいと考えている大学生だ。

法的な面では、Tansaは顧問弁護士と協議しながら記事を出している。デジタルの観点では、暗号化できるセキュリティの高いツールを使ったりして、ハッキングの対策をしている。

記者の精神的なケアも重要だ。辻は、戦場に出ているジャーナリストのトラウマ克服の研究を参考にしていることを説明した。

Googleマネーを断ったTansa

「メディアがいかに持続可能な運営をしていくのか」という質問も出た。

世界の非営利メディアでは、アメリカのプロパブリカはピューリッツァー賞を取って大型寄付を獲得し持続している。韓国のニュースタパは市民からの4万人の寄付会員によって安定した運営を実現している。

しかし、こうした成功例は一握りだ。ほとんどの非営利メディアは運営状況が厳しい中、辻が危惧しているのは、Googleがスタートアップのメディアにお金を出していることだ。

サポートは重要だが、Googleが世界の新しい権力になっている中で、メディアがGoogleマネーによって支配されると、権力の監視を担うメディアがなくなる。

Tansaは、Googleの資金が原資の助成金を断った。辻が取材している性的画像を取引するためのアプリをGoogleが扱っていたからだ。

Tansaは独立性を守るために企業からの広告料は一切もらわず、助成金や寄付会員からの寄付で運営している。それでも辻はTansaは持続可能だと考えている。

「大手のメディアが体力が落ちていく中で、他のメディアができないことをTansaが継続的にやってくことは世の中にとって必要なこと。その仕事はなくならないので、新しい役割を担う私たちに価値を見出して支援が集まると思っている」

【次回予告】新しい時代の記者育成とは?

次回のタンサユースナイトは1225()19時~です。編集長の渡辺周が記者育成について話します。記者になりたいけど、どこに行ってどうやって学べばいいのか。新しい時代の記者としての成長の仕方を掴むきっかけにしてみてください。

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